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僕の×と君の愛  作者: さなちゃ
第一章 始まりの×
7/10

第六話 俺の×と君の海

ご覧いただきありがとうございます。

よければ感想等を頂けると嬉しいです!

 日向にいると少し汗ばむような季節。相も変わらずかわいらしいファッションセンスの愛菜(あいな)

 ゴールデンウィーク初日は愛菜と藤沢の水族館に来ていた。世間一般に知られている名前で言うならば、江ノ島と言えばいいか。さすが大型連休、おかげで水族館は激混みである。

「想像の三倍くらい混んでるね」

「どんだけ想像が少なかったんだよ」

「わー、あれなんて魚だろう」

 いつにも増して自由奔放のように感じる。俺は横にある掲示板を見て答えた。

「ハコフグじゃない?」

「よく分かるね」

「ここに書いてあったから」

「なーんだ。てかフグなら食べれるのかな。私フグ食べたことないけど」

「…水族館でする話かよ。なんかグロいな」

 水族館で魚を食べたくなる人種ってこういうやつなんだな。俺にはさっぱり理解できない。

「あれ可愛くない?」

 そう言って小さい水槽を指差す。大きい水槽にはあまり興味がないのか。それもそうか、アジやらイワシやらが泳いでいても可愛いと思わない。

「どれ?」

「あれ!」

「ああ、クリオネか。確かにちょっと可愛いな」

 クリオネは水槽の中で自由に舞っていた。いや、水槽の中なのだから自由ではないのかもしれないが、俺にはそれがとても羨ましく思えた。当然この魚は自分を可愛く見せようとしているわけではない。ただ思うがままに泳いでいる。それだけで見世物として成り立つ歪さが俺の心に沈んだ。そんな俺とは対照的に、愛菜はいつものきれいな瞳でそれらを眺めていた。まるで絵葉書のような、美しい…

「はお?次行こ?」

「あ、ごめんぼーっとしてた」

 次の展示に歩き出す。

「はおってたまに何考えてるか分かんないよね」

「何考えてるか分かるより良くね?」

「なんでよ」

「自分の心が見透かされてるってなんか嫌だろ?」

「それは羽緒(はお)自身の話ね?私からしたら少し怖いし」

「それはごめん」

「もっと分かりやすい顔してよ」

「どういう顔だよ」

 愛菜がフッと笑う。それに釣られて俺も笑う。俺と愛菜の関係はこのままでいい。このままの愛菜が、俺は好きだった。

 クラゲの展示コーナーに来た。クラゲとはいいものだ。あたかも水中で浮いているような泳ぎを見せてくれる。その一方で愛菜はというと、写真を撮るのに夢中である。

「見て!めっちゃ綺麗に撮れた」

「すご。ほんとにきれいだ」

「なんかクラゲってフワフワしてていいよねー。人間とかけ離れてて神秘的だからかな?」

 妙に真剣な顔でクラゲを観賞している。

「急に考察始まったな」

「あ、これ小さくてかわいー」

 話を聞いているのか分からないくらい本当に自由すぎる。でもそれが愛菜の魅力的なところでもある。



 一通り展示を見終わったので水族館を離れて海に出た。湘南の海は夕日で(あか)く染められ、遠くの富士山と調和を生み出している。もちろん愛菜は写真を撮っている。

「きれー。やっぱ富士山と夕日はベストフレンドだね」

「なにいってんだか」

「ダイヤモンド富士的なことだよ」

「まあ、一理くらいはあるか」

「でしょー?」

 こんな時間だがまだ人は多い。だが波の音が俺たちを二人きりの世界に誘い込む。俺たちは砂浜に座り込んだ。

「はお。水族館、楽しかった?」

「久しぶりだったし、結構楽しかったよ」

「それはよかった。もしかしたら水族館嫌いかなーって思ってた」

 そんなやつ誘うな、と思ったが言わない。

「別に嫌いじゃねえし。なんでそう思ったんだよ」

「『魚みて何が楽しいの』とか思ってそうだったから」

 少し俺の口調に寄せていたがあまり似ていない。

「俺を何だと思ってんだ」

「でも全然違った。意外と楽しそうだったし。展示に夢中になってる時もあったし」

「そうか?愛菜のほうがだろ」

「いーや、はおもだよ。キラキラした目で見てたよ。澄んだ目してた」

「俺がそんな目するわけないだろ」

 その通りだ。俺が澄んだ目をするなんてこの先一生ないだろう。あの時、愛菜が見せた澄んだ瞳と俺の目が同じだったとしたら___なんてことは考えなかった。

「いや?いつも死んだ魚の目してるから」

「おい」

 二人で失笑してしまった。そしてこの時、海風が少し弱まった気がした。

「またいつか来よ?」

「いいよ」

 一瞬だけ愛菜が俯く。すぐに顔を俺のほうに向ける。

「…その時はさ___」

「あ、そういえばさ」

 正面の海を見て俺は言う。ちょうど愛菜の言葉を遮ってしまった。敢えて言うなら、遮ったのかもしれない。そして俺は謝る。

「ん、ごめん」

「いや…大したことじゃないからいいよ。続けて」

 俺のほうが何倍も大した話じゃないだろう。でもこれでいい。俺は自分の昔話をした。ただ、小さい頃に水族館に行ったどうでもいい話。話は適当なところで盛り上がりをみせ、そのまま収束していった。

 辺りが少し暗くなってから海岸を離れ、藤沢駅周辺でご飯を食べて解散した。俺は陽が落ちて冷えた風に、俺たちの頭を冷やしてくれることを祈った。

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