第五話 俺の×と君の口
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段々と遅くなる日の入り。ダラダラしながら先生の話を聞く俺。
放課後になり、部活やら帰宅ならでバラけていく。ちなみに俺は何の部活にも入っていない。あえて言うなら帰宅部だろうか。廊下を歩いていると、目の前に一人の男が立ちはだかる。
「なあ、ちょっと話いいか?」
「…いいけど、何の用?」
すると、着いてこいと言わんばかりの目つきでこちらを見る。屋上までの階段で相対する。その男、大瀬戸翔は言う。
「こうして話すのも久しぶりだな」
俺は何も言わずに話の続きを促す。
「単刀直入に言う。何でまた瑠惟佳に絡んでるんだよ」
「なんでも何も、向こうから話しかけてくるんだから」
「昔のこと忘れたのか?」
翔は小学校が同じだった。すなわち、俺と瑠惟佳と翔は同じ小学校だった。だからいじめのことも、もちろん知っている。
「忘れてないよ」
「だったら、これ以上瑠惟佳を苦しめるのはやめろ。言いたいのはそれだけだ」
「…分かった」
そういって翔は俺の前から姿を消した。正直何を言っているのか分からなかったが、刺激しないように立ち回ることが一番大切だと俺は知っている。
家に帰ると、瑠惟佳がいた。瑞羽が家に入れたのだろうが、リビングには誰もいない。
「おかえり、はーくん」
「今日も来たんだな。暇なのか?」
「はーくんと勉強したくって」
「そうか。ごゆっくり」
「はーくんと勉強するって言ってんのに…意地悪」
ムスッと頬を膨らませて子供のように怒る瑠惟佳。そんな顔されて折れない男はいない。
「俺の部屋来る?」
「行く」
何気に自分の部屋に入れるのは初めてだ。今までは瑞羽と話すことが多かったのでリビングに居座ることが多かった。
「家の人はいないの?」
「二個隣の部屋にいるよ」
「てか毎回俺の家来る時遅くなるけど大丈夫なの?」
「共働きで遅くまで帰ってこないし厳しくないから大丈夫だよ」
「ならいいけど。飲み物とか持ってくるよ」
「ありがと」
一階で飲み物やお菓子を取って再び部屋に戻る。瑠惟佳は机に数学のワークとノートを広げていた。今考えれば、昔はそんなに頭の良くなかった瑠惟佳が、進学校であるこの高校に編入するために相当な勉強をしたのだと気づく。そんなにこの高校がよかったのか。
二人で黙々と試験前に提出する課題を進めていた。部屋に異性がいる割には進んだと思う。
「もうそろ夕飯作るんだけど、食べてく?」
「いいの?」
「もちろん」
「じゃあありがたく頂こうかな。私も手伝うよ」
「それは大丈夫だけど」
「遠慮しないの。私だって多少料理できるし」
「俺の方ができるけどな」
「そーですか」
そう言って二人で夕飯の準備をすることにした。今夜の夕飯はグラタンだ。時間をかけずに簡単に作ることができる点が優秀である。二人で横に並びながら、俺はグラタンの具材を切り、瑠惟佳はサラダを作っている。
「なんだか、新婚の夫婦みたいだね」
「な、何言ってんだよ」
「冗談だよ?意外と満更でもなかったりして」
「瑠惟佳が相手ならどんなやつでもそうだろ」
「…どういう意味?」
「何でもねえよ!」
「フフ、はーくんかわいいね」
「それはどうも」
具材を炒めた後、ホワイトソースをそのまま作る。そして耐熱皿に移し替えればチーズをのせてトースターで焼くだけだ。
「初めての共同作業は夕飯作りだね」
「ケーキ入刀かよ」
「そんなつもりで言ったわけじゃないのにね」
「例えだよ例え」
程よく焦げたチーズの匂いがする。布巾で皿を持とうとするが誤って直接指で触ってしまった。
「あっつ!」
すると、瑠惟佳が俺の指を自らの口に放り込んでしゃぶり始める。
「…何してんだ?」
「ひゃけどにはほれがいいっへ…」
「聞いたことねえよ」
瑠惟佳のぬるぬるした舌の感覚が指に直接伝わる。幼馴染とはいえこんなことはアウトだ。さすがに変な気分になってくる。
「ただいまー」
本当にちょうどいいところに瑞羽が帰ってきてしまった。瑞羽の視線には、瑠惟佳に指を舐めさせている俺の姿があった。
「お兄ちゃん、そういうシュミだったの」
指を口から引っこ抜いて水道水で冷やす。
「違くてな、これはな…」
瑞羽は凍るような目つきでこちらを見てきている。これで火傷を冷やせそうだ。
「ごめんねー、変なとこ見せちゃって。火傷に効くかなって思って」
「…お兄ちゃんやっぱり女たらしだね」
「どこがだよ」
「もういいから早く夕飯ちょうだい」
「もう出来たから手洗ってこい」
「分かってるよ」
やはり幼馴染に指を舐めてもらうなど自宅のキッチンでやることではなかった。多少は反省している。次は一口分(?)だけにしておこう。
茜さんの分を二階までもっていく。茜さんは極度の人見知りなので人に会いたがらない。今日もそれが発動している。
「持ってきましたよ。今日の夕飯はグラタンです」
「ありがとう羽緒くん」
外はねボブのかわいらしい髪型が小動物っぽい見た目を加速させているが、俺とは十歳ほど年が離れている。
「急な来客ですみません。こんなところで食べてもらっちゃって」
「いいのいいの。私のせいだしね。それに作ってもらってるし!」
「大したことしてないですけどね」
夕飯、洗濯、掃除などほとんどの家事を俺と瑞羽が行っている。居候の身だから当然だ。
「そんなことないよ。羽緒くんがご飯作ってくれないと多分不健康で死ぬから」
「本当になりそうなのが怖いですね…」
「あはは…」
「食べ終わったら廊下に置いといてください」
「はーいいただきまーす」
その後、俺と瑠惟佳と瑞羽はご飯を食べ、瑠惟佳は帰った。駅まで送るときの瑠惟佳は少し寂しそうな顔をしていた。今日という日の別れを惜しんでいるのか、それとも別の何かに思いを馳せているのか。その答えは当然、今は分からない。




