第四話 俺の×と君の友
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すっかり緑になった桜と青い空。別のクラスなのに朝から話しかけに来る瑠惟佳。
「おはよー、はーくん」
「おはよう瑠惟佳。どうしたんだこんな朝っぱらから」
教室にはまだ数人しかいない。皆勉強をしているかスマホを見ている。
「体操着忘れちゃってさ、貸してくれないかなって」
「え、体操着?」
異性に借りづらい物ランキング上位の体操着を借りるとは。まあ、転校したばっかりで他クラスに友達がいないだろうから仕方ない。
「だめ?そもそも持ってない?」
「いや、いいけど。体育何時間目?」
「二だよ」
「俺三時間目だからなるはやで返してほしい」
「分かった。ありがとう」
「てか、名前入ってるけど大丈夫?」
体操着やジャージには持ち主の苗字が刺繍されてある。顔のいい瑠惟佳が着た暁には一瞬で噂になるだろう。琴平という苗字と一緒に。
「別にいいよ。誰のって聞かれたら、彼氏のって言うから」
少し意地悪するような目と満面の笑みだ。
「そ、それはやめた方がいいんじゃない???」
「なんで?はーくん彼女いるの?」
「いないけど」
「でしょ?じゃあいいじゃん」
「でしょって何だよ…。分かったよ。好きにしろ」
「やったー。はーくんの彼女になっちゃった」
「そういうわけじゃ…」
ちょうどその時、教室のドアから愛菜が入ってくる。光のない大きな瞳がこちらを向いている。
「…おはよー、はお」
「おはよう」
愛菜は瑠惟佳の方を見る。
「えーっと、転校生の子?名前はなんて言うの?」
「新戸瑠惟佳だよ」
「るいかちゃん!よろしくー。私は、香焼愛菜」
「あいなちゃん。よろしく」
「てかちょっとびっくりしたんだけど、羽緒となんで仲良いの?」
「はーくんとは幼馴染だから」
「そーなの!?」
俺のほうを見る。女友達いたの?って顔で見るな。
「そうだよ。幼稚園からの友達」
「で、偶然同じ高校になったってこと?」
「そういうことだな」
偶然かどうかは瑠惟佳のみぞ知る。
始業時間五分前になってようやく人が集まり始める。駅チカの高校はギリギリに来るやつが多い。
「それじゃあ私、クラスに戻るね。はーくん体操着ありがと。愛菜ちゃんもじゃあね」
「じゃあな」
「じゃあねー」
瑠惟佳が教室を出ると、愛菜が口を開く。
「ねえ」
「なんだ?」
「るいかちゃんに体操着貸したの!?」
「そうだけど」
「私にも貸したことないのに!?」
「いや去年からクラス一緒なんだから貸せるわけないだろ」
「…たしかに」
「それに、あいつは転校したばっかりなんだから、他クラスに友達いないだろ?多分」
「友達いないって羽緒に言われたくないと思うよ」
「うるせえ。別に俺は友達いるし」
「強がっちゃってー。一人でいることが多いくせに」
少しやかましいのでカウンターを入れておくか。
「そうか?愛菜とは結構一緒にいると思うけど?」
「!?…ま、まあね。友達がいない羽緒のために仕方なくって感じ?」
「それでもいいけど」
一瞬だけ静寂に包まれる。悪い気はしない。
「それでもいいって…。な、なんでもない」
そして、くるりと俺に背を向けて言う。
「もう席に戻るから!」
「いや俺の前の席だろ」
香焼と琴平なので席は前後だ。これが愛菜とよく話す所以だ。
「数学の課題やるから静かにしてて!」
「はいはい。分かりましたよ」
愛菜の喜怒哀楽が激しい性格には毎回驚かされる。というかこれはツンデレというやつか。
二時間目が終わる。次は体育の時間だ。早く体操着を返してもらえるとありがたいのだが。そこに朔がやってくる。
「あれー、体操着忘れちゃったの?」
「馬鹿言え。忘れてたら他クラスのやつに借りてるよ」
「てことは、誰かに貸してるの?」
「そういうこと。廊下で待つわ」
そういって席を立つ。男子は教室で着替えているので廊下に出ておく。二時間目が終わってから五分ほど経ってからようやく瑠惟佳が来る。普段は長い髪をおろしているのだが、体育ということもあってか後ろの高い位置で結ばれている。いつもよりさわやかさが増している。てか顔ちっさ。
「お待たせ、はーくん。体操着、ありがと」
「いいよ、また忘れたら貸すよ」
「そっかー次は何忘れよっかなー」
「わざと忘れんのは無しだろ」
「じゃ、体育頑張ってねー!」
あざとい笑顔で自分のクラスに戻る瑠惟佳。いつもの違和感と共に。
早く着替えないと間に合わない時間になってきた。体操着袋を開けるとジャージと一緒に一枚の紙が出てきた。それには、「傘も体操着もありがとね♡」と書いてあった。それだけではなく、続けてこう書かれていた。
___昔のこと思い出して楽しかったよ
この言葉の意味が本当にわからなかった。いや、冷静に考えれば、いじめる前のことを言っているのだろう。けれど、何かが引っかかる。今までの行動も含め、全てが引っかかる。勿論、それを断ち切る術は俺にはない。
「なあ」
クラスの友達に声を掛けられる。慌ててさっきの紙を隠す。
「あの転校生に体操着貸したの?」
「うん、まあな」
「どういう風の吹き回しだ!一生女作りませんみたいな雰囲気醸し出してるお前がっ、お前が…」
やはり幼馴染とはいえ女子に体操着を貸すのは迂闊だったか。おかげで少し離れたところで見ている朔が上機嫌になっている。人が困るところを見ることがあいつの趣味らしい。
「どういう関係だ!言ってみろ!」
「いや、瑠惟佳とは…」
「もう名前呼び!?まさか、まさか」
「話を…!」
「え、付き合ってんの!?羽緒が!?」
「ちが…!」
男どもが群がる。瑠惟佳の言動について考える前に、クラスの馬鹿どもの対処を考えておくべきだった。
そして、波紋は新たな波紋を呼ぶ。




