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僕の×と君の愛  作者: さなちゃ
第一章 始まりの×
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第三話 俺の×と君の傘

ご覧いただきありがとうございます。

よければ感想等を頂けると嬉しいです!

 冷たい風と灰色の曇天。眠い目を擦る俺と廊下を歩く瑠惟佳(るいか)

 俺___琴平(ことひら)羽緒(はお)新戸(にいど)瑠惟佳は、家が近かった。幼稚園に入ってからは、互いの家に行ったり公園で遊んだりして多くの時間を瑠惟佳と過ごした。けれど、小学五年生の頃に状況は変わった。男女仲をからかわれるようになり、一緒に遊ぶ機会は減っていった。いや、ただ俺が避けていただけかもしれない。そして俺は、瑠惟佳への好意がばれないように、瑠惟佳との男女仲を否定するために、瑠惟佳に嫌がらせを始めた。それは先生の間でも話題に上がるほど大きくなったが、その謝罪をする前に瑠惟佳は俺の前から消えた。親の転勤によるものらしい。俺は、謝罪と贖罪の機会を失った。

 そして、数年ぶりにその機会を得て謝罪するも、当の本人はなんとも思っていない様子だ。この件は呆気なく片付いてしまった。幼馴染との再会に告白めいた言葉___昨日の過大な情報量は俺を混乱に引き込み、寝不足をもたらした。そんなところに愛菜(あいな)がやって来る。

「めっちゃ眠そうだね」

「さっきの古典はいい睡眠時間になったな」

「さいてー」

「いやクラスの半分くらい寝てたし愛菜も寝てただろ」

「バレてましたか」

 県内有数の進学校だって、公立高校なら先生の質など知れたもの。いい先生もいれば、睡眠時間を提供するような先生もいる。でもまあ、現代国語や古典は誰の授業でも寝そうだな。

「まああれは寝るのが正解まであるからな」

「それは言い過ぎでしょ」

「過言じゃないだろ」

 先生が教室に入ってくる。帰りのホームルームのため、ササッと自席に戻る愛菜。外は五限の終わりくらいから急に雨が降ってきた。折り畳み傘はリュックに常備しているので問題は無い。

「えーと、修学旅行係はこの後大教室Aに行くように。綾瀬(あやせ)と琴平、分かったな」

「はい」

 まさかこんな早くから係活動があるとは思っていなかった。終わった頃には雨が止んでいればいいのだが。



 五限が終わった時よりも雨が強まっている。そして(さく)が窓の外を見て言う。

「酷い雨だね」

「それな。折り畳みなかったら死んでた」

「僕は忘れちゃったよ」

「どんまい」

「あ、僕別の人と帰る約束してて」

「なんだ彼女か」

「まあそんな感じ」

「それでわざと傘忘れたってわけか」

「そんなんじゃないよ」

「お前ならあり得る」

「ひどいなあ」

 いや、朔の場合本当にある。抜け目がないこいつが天気予報を見てないわけがない。

「じゃあ、また明日ね」

「じゃあな」

 俺は下駄箱に向かう。そこには偶然か必然か、瑠惟佳の姿があった。瑠惟佳が俺のほうを見て言う。

「あ、はーくん。ちょうどいいとこに来たね。私傘持ってなくて、はーくんは傘持ってないかなって思って」

 そう言って瑠惟佳は掴み(どころ)のない笑みとかわいらしい顔を俺に向けた。昇降口の外では灰色の空が雨粒を地面に叩きつけている。その時、俺は一つの記憶を思い出す。

 小学六年生の記憶だ。あの日は一日中雨だった。梅雨の時期で、じめじめした生暖かい空気が肺の中に重くのしかかる。そんな時、俺は一つの嫌がらせを思いついた。___ただ傘を盗むだけ。そんな単純なものだった。嫌がらせを始めた小学五年生の途中から、瑠惟佳は一人で帰ることが多かったので、誰にも傘に入れてもらえないだろう、と思っていた。そして、俺は昇降口に置いてあった瑠惟佳の傘を盗んだ。

 帰ってから、盗んだ傘をどうするか考える。その結果、瑠惟佳の家の玄関に置いておくことにした。そうと決めて向かうと、びしょ濡れになりながら重い足取りで帰る彼女がいた。彼女は今にも泣きそうな顔___いや、雨のせいでそう見えたのかもしれない。俺は一瞬、申し訳ない気持ちになって謝ろうと考えた。しかし、そんな考えはすぐに消えた。ずぶ濡れになった身体と裏腹に、儚い笑顔を浮かべてしっとりした目つきでこちらを見てくる。俺はその笑顔を見た途端、全身が震え上がるような感覚に襲われ、傘を置いてその場から走って逃げ出した。あの笑顔の理由を俺はまだ知らない。

 その時の笑顔と今の瑠惟佳の笑顔が重なった。昔とは少し違うような気もする。それに、瑠惟佳は仕返しのために転校してきたのか、そんな考えが頭に浮かんでくる。


 だけど、そんなことはどうでもよかった。俺は瑠惟佳に折り畳み傘を渡した。

「使っていいの?他に傘持ってるの?それとも一緒に入る?」

「…俺は大丈夫だよ」

 そう言って駅まで走った。駅まで走れば三分もかからないが、髪の毛が束を成すくらい濡れてしまった。

 あの頃の瑠惟佳はどんな気持ちでびしょ濡れになりながら帰り、どんな気持ちで笑っていたのか。同じように雨に打たれただけでは、何もわからなかった。それに、こんなことをしても赦されるわけではないと知っている。もしかしたら本当に瑠惟佳は許してくれているのかもしれないが、俺はまだまだ多くの贖罪をしなければならない。そのためなら___何をしたって構わない。



 濡れたまま電車に乗り、家まで帰った。駅から家までも雨に濡れた。

「ただいま」

 濡れた靴下を脱ぎ、二階に上がってタオルを取りに行く。すごく寒かったが、そんなことは自分の中では問題にならなかった。身体を拭いて部屋着に着替え、浴室の乾燥機で乾かしていた洗濯物を畳む。そこに、瑞羽(みずは)がやってきた。

「お兄ちゃんおかえり。ってか、濡れて帰ってきたの?折り畳みいつも持ってるよね?」

「友達に貸したんだよ」

「それで風邪ひいたら馬鹿みたい」

「いや、馬鹿は風邪ひかないっていうだろ?」

「はいはいそーですね」

 二人で洗濯物を片し終えて、インターホンが鳴り来客を伝える。宅配便かと思ったが、カメラには瑠惟佳が映っていた。急いで玄関に向かった。

 ガチャ。

「あ、出た出た。傘を返しに来ましたー」

「ありがとう…。明日でもよかったのに」

「はーくんに会いたかったからいいでしょ?」

「まあ、いいけど」

「私もう帰らなきゃいけないから。あまり長居できなくてごめんね?」

「昨日は俺の都合で帰ってもらっちゃったからいいよ」

「これでお相子(あいこ)ってことだね。じゃ、また明日ね、はーくん」

「また明日」

 そのまま瑠惟佳は雨の中に消えていった。瑠惟佳の行動は理解できないことが多すぎる。いつか理解できるようになる日が来るのだろうか。分厚い雲が青い空を隠していて、今夜はまだ雨が止みそうになかった。

瑞羽「また瑠惟佳ちゃんに会えなかったんだけど!?」

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