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僕の×と君の愛  作者: さなちゃ
第一章 始まりの×
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第二話 俺の×と君の目

ご覧いただきありがとうございます。

感想など書いていただけるととても嬉しいです!

 真っ白な封筒とそれを握る俺。少しひんやりするような春風が俺の首筋を撫でる。そして目の前には、幼馴染の瑠惟佳(るいか)がわざとらしい上目遣いで俺を見ている。信じ難い光景だがこれは現実だ。なぜ俺の家の前にいるのか、なぜ俺に話しかけたのか、何一つ分からない。なんと話せばいいか迷っていると、瑠惟佳が口を開く。

「久しぶり。私のこと、覚えてる?」

「もちろん覚えてるよ、瑠惟佳」

「よかった。覚えててくれたんだね」

「そりゃ、一応幼馴染だしな」

「確かに」

 いじめのことを仕返しにきたのか。謝罪を求めに来たのか。背筋に冷たいものが流れる。やはりここは謝るべきだと判断したが、それより先に瑠惟佳が話す。

「はーくんは、この制服を見て何も思わないの?」

「…あぁ、似合ってるよ」

「そうじゃなくて。昔より鈍感になったね」

「あ、その制服って、俺の高校と___」

「せいかーい。私、はーくんと同じ高校に転入しましたー」

「まじでか」

「まじまじ」

 本当にわからなくなってきた。瑠惟佳の言い草的に、わざと俺と同じ高校にしたように聞こえる。だがもう考えることをやめた。いじめた事実は変わらないし、それによって俺がどんな不利益を負っても構わない。数秒の沈黙の後、無理やり自分の口を開く。

「瑠惟佳…あの、謝りたいことがある」

「謝りたいこと?」

「…小学生の時さ、瑠惟佳のこといじめてただろ。そのこと、謝りたくて」

 瑠惟佳は何も言わずに俺の言葉を待つ。瑠惟佳の目は、真っ直ぐ俺の目を射る。

「あの時は、ごめん。自分はちょっかい出す軽い気持ちで、いじめてた。今では良くなかったって思ってる。本当にごめん」

 頭を深々と下げる。ほんの数秒の沈黙に鉛が流れ込む。その沈黙を瑠惟佳が破る。


 ___なんだ、そんなことか


 驚きのあまり喉が詰まった。そんなことで済まされる問題だったのか。もちろん、後で脅されるのではないかとか、なにか裏があるのではないかと考えているわけではない。ただ単純に、その言葉に大きな違和感と(ひず)みを覚えた。

「確かに、私は先生に事情聴取されたし、はーくんも怒られただろうけど、私は全然嫌じゃなかったよ。だって、私のこと嫌いだからいじめたわけじゃないでしょ?」

「まあ、そうだけど…」

「ならさ、ごちゃごちゃ考えなくていいんだよ」

 瑠惟佳が俺に近づいてくる。俺は何もせずただ玄関に突っ立っている。

 そして、そのまま瑠惟佳が俺を包み込む。瑠惟佳の新品の制服はまだ固く、不器用なくらいに形を二人に合わせきれずにいる。俺の胸の中で瑠惟佳は俺と目を合わせて言う。


 ___はーくん、大好き


 一瞬疑いたくもなるセリフだが、俺の耳には素直に入り込んだ。

「はーくんは、私のこと好き?」

 俺はなんと答えるのが正解なのだろうか。でも、“いつも通りの自分”は答えをもう既に出していた。だから“いつも通りの自分”が応える。

「俺は…」


 ___×だよ


 瑠惟佳がそっと笑う。それに合わせるように俺も笑う。

「はーくんならそう言うと思ってた」

 太陽は俺たちに気づかれないように徐々に傾いている。永遠とも取れる時間を二人がギリギリで紡ぐ。

 その時間に終焉を告げたのは、俺でも瑠惟佳でもなく瑞羽(みずは)だった。玄関のドアを開けて顔を出す。俺たちを見るや否や急いで閉めて気まづさを回避した。

「あれ?瑞羽ちゃん?随分と大きくなったね」

 両手を自身の定位置に戻し、数歩下がった瑠惟佳が反応する。それに続けて言う。

「瑞羽ちゃんと少し話したいんだけど、いい?」

「大丈夫だけど、今来客がいて長居はできないんだけどいい?」

「学校で一緒にいたあの女の子?」

「うん、まあ」

 転校生が来ているとは知っていたが、瑠惟佳の姿は学校で一度も見ていなかった。放課後に愛菜(あいな)と話していたところを見ていたのは少し驚いた。

「そっか。…じゃあまた今度にするね」

「いいのか?」

「いいよ、私は」

 その言葉には、暗いとだけでは言い表せない、深淵のような何かがあった。

「じゃあ、また明日学校でね。バイバイはーくん」

「じゃあな」

 結局、なんで転校してきたのか、なぜいじめを“そんなこと”と言ったのか何も聞けなかった。だが、それでもいいと思ってしまった。



 家に入ると、玄関には瑞羽がいた。

「さっきの人誰?」

 凍てつく視線を俺に向ける。

「昔たまに家に来てた、瑠惟佳だよ」

「え、あの瑠惟佳ちゃん!?まだいる?」

「いや、もう帰った」

「私も話しかったのに。てか、あんないちゃつくほど仲良かったんだ」

「いや…それは俺もわかんない」

「なにそれ。はーあ、話したかったなあ」

「多分また来るからその時でいいだろ」

「はーい」

 リビングに戻ると、愛菜が少し不機嫌そうにソファに座っている。

「荷物取るだけなのに遅かったね」

「ちょっと、な」

「ふーん。てかもうすぐ帰んなきゃ」

 とは言っているがまだ五時を回ったばかりだ。小学生の門限かと思う。

「今日は早いな」

「早く帰らなきゃいけなくて…」

 理由を聞こうか迷うが聞かない。不要な詮索は避けるべきだ。

「そうか。駅まで送っていくよ」

「ほんと!?ありがとー」

 このあと三人で少し談笑した後、俺は愛菜を駅まで送った。陽が落ち、涼しい風が俺と愛菜の間を流れる。駅までの時間は、いつもより早く過ぎているように感じた。

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