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第4話 ひび割れた写真立てと港の風

廃教室の窓を鳴らす風は、今日も潮の匂いを含んでいた。

机の上には、昨日るりが持ち込んだ革鞄。そして、その内ポケットから見つかった未投函の手紙。封には「三十年後の自分へ」とあった。

封を切る手はまだ止まったまま——理由は、手紙が鞄の持ち主の元へ戻るべきだと思ったからだ。


「探すしかないな。」

声の主は風間凛。放課後、機械工房の制服のまま立っていた。

彼の手には、ひび割れた木製の写真立てがある。角は欠け、ガラス面には蜘蛛の巣のような亀裂が走っていた。


「港の喫茶店にあったやつ。店のおばあさんが直せないかって。」


五月はうなずき、革鞄をそっと棚の上に置く。

作業台に写真立てを置くと、ガラスに映った自分の顔が、微かに揺れて見えた。


「これは……木枠の組み直しと、ガラスの交換が必要かも。」


猫のように静かに工具を取り出し、枠の釘を細いペンチで外す。

年季の入った木の香りが、作業場に広がった。木目の奥には、塩を含んだ白い斑点——港町特有の湿気が作る痕だった。


「中の写真……これ。」

凛が指さした先には、若い男女が笑顔で並んでいるモノクロ写真。

背景には港の灯台が写り、その足元には見覚えのある革鞄が置かれていた。


「……この鞄だ。」


棚の上から鞄を取ると、写真の鞄とまったく同じ傷、同じ金具の歪みがあった。

胸の奥で、何かが静かに繋がっていく感覚。


「写真の裏に日付がある。——二十五年前。」


五月は写真を元に戻し、ひび割れたガラスを取り外して新しい板ガラスに差し替える。木枠を締め直し、釘を叩き込み、写真立ては静かに形を取り戻していった。


作業を終えると、午後の光がちょうど差し込み、立てかけた写真を淡く照らした。

港の灯台、若い二人、そして革鞄。

そこに写っていた笑顔の意味は、きっと手紙が知っている。


「手紙の送り先、港の灯台のそばから探してみようか。」

凛の言葉に、五月は小さく頷いた。


潮風が、写真立てのガラスをそっと撫でた。

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