6月10日
翌日、教室の空気は冷たかった。
挨拶しても返ってこない。視線は避けられる。
陽菜は、自分が何か悪いことをしたんだって、ようやく気づいた。
「……なんなの、みんな」
放課後、陽菜は取り巻きの友達を連れて、琴音を呼び出した。
場所は誰もいない空き教室。
「ちょっと話あるんだけど」
陽菜の声は静かだけど、どこか怒っていた。
琴音は戸惑いながらも頷く。
「なんであんな言い方するの?」陽菜は言った。
「え?」
「“傷ついた”って、そんなふうに広められたら、あたしが悪い人みたいじゃん」
琴音は小さな声で言う。
「……実際、ひどかったよ」
「はあ? そんな受け取り方するなんて思わなかったし!」
陽菜の声が少し強くなった。
取り巻きがすぐに加勢する。
「琴音の方が大げさすぎ」
「泣くとか、ぶっちゃけ引くわ〜」
琴音はぐっと唇を噛んだ。
自分が責められるのが、怖かった。
「私は嘘なんかついてないよ」琴音の声は震えていた。
「うちらだって、陽菜の話聞いたけど、別にひどくなかったよ?」
「逆に琴音が大げさに言ってるって思われてるし」
空気が、変わっていくのを琴音は感じた。
昨日まで陽菜を責めていた人たちが、今はこっちを見ている。
まるで、自分が“悪者”みたいに。
琴音は、何も言えずにその場を去った。