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04 俺が女になったワケ


「うーん……やっぱり、考えられるのは、あのダンジョンボスか?」


 あれこれと考えて、たどり着いた答え。


 女になった原因──可能性が高いのは、『酒場』か『ボス』のどちらかだろう。

 その二択ならば、俺はダンジョンボスのほうだと思う。


 ボスとの戦い。俺は(とど)めを刺すべく、高く飛び上がった。

 勇者の剣を振り下ろす──そのとき、ボスの口が大きく開いた。


「……!!」


 視界がピンク色のモヤに包まれる。ボスがブレスを吐き出したのだ。

 俺はそれを正面から浴びてしまった。


「──ぐっ!」

「「「アルス!!」」」


 剣が空を切る──すぐに(ひるがえ)し、急所を突いた。

 そのままボスは地面に倒れ、身体は炭のように真っ黒に変わり、ボロボロと崩れ始める。完全な灰となると、どこからか吹いてきた風に乗ってサラサラと舞い散り、灰の山は少しずつ小さくなっていった。


「おい! 大丈夫か!?」

「あ、ああ。何ともない」


 身体にダメージはなく、見た限り特に変わった様子もない。

 ボスが最後に放ったあのブレス。あれはいったい何だったんだ……?


 一度は首をかしげたものの、ダンジョンボスを倒したという事実が嬉しくなり、すぐにそのことを忘れてしまった。


 森の奥にある洞窟ダンジョンから一番近い町まで戻ると、俺たちは酒場で祝杯を挙げる。

 俺は浴びるように酒を飲んで、フラフラになりながら宿屋に戻り、翌朝起きたら女になっていた──というわけだ。


「あの変なブレス。あれを浴びたから、きっと女の姿になったんだ」


 時間差による状態異常か?

「よっ!」っと声を出し、身体を起こす。俺は両腕をぐるぐると動かしてみた。


「…………」


 うん。普通に動かせる。

 身体が重いといったことも感じない。

 性別が変わってしまった、ということ以外は、何ら問題もない。……今のところは。


「状態異常なら……フィノ、あいつだったら戻せるか?」


 俺には仲間が三人いる。

 戦士のヴァルド、魔法使いのカイエル、聖人のフィノ。


 フィノは神殿に仕える神官で、〈聖人〉と呼ばれている。

 傷を癒し、状態異常も治せる。RPGで例えるなら〈ヒーラー〉のような存在だ。


(あいつは高位の聖人だし、状態異常だとしたら簡単に戻せそうな気もするけど……)


「うーん。でも、あいつ性欲お化けだからなぁ」


 〈聖人〉様は、〈性人〉様でもある。


 聖職者がそれでいいのかと以前聞いたことがある。

 すると、フィノから「あなたは誰から生まれてきたんですか」と返された。

 この世界の聖職者は禁欲をしないのかと思ったが、禁欲をしていないのはフィノくらいのものだった。


「女になったことを相談したとして……本題に入る前に、エロエロな展開になる未来しか見えない」


 フィノを含め、仲間の三人に狙われたら、俺は正直逃げ切れる自信がない。

 そもそも、エロエロエンドの相手に「何とかしてくれ!」なんて頼んで、まともに対応してもらえるのだろうか?

 まずは調べないと──なんて言われて、服を脱がされる展開が……うん、十分あり得る。

 想像しただけでゾッとする。俺は思わず二の腕をさすった。


「あいつを頼らずに何とかするのなら、やっぱり神殿か?」


 神殿に行けば、神官がいる。

 神官ならば、この状態異常も戻せるだろう。



 丘の上から町を見下ろす。ここから見た限り、神殿らしき建物は見当たらない。

 規模が小さいこの町には、もともと神殿がないのかもしれない。

 そういえば、ここへ来る前に立ち寄った『街』には、それらしい建物があった気がする。


「となると、移動するなら馬車か。片道三日、往復で一週間。書き置きには『すぐ戻る』って書いちゃったからなぁ……ギルドにあいつら宛の手紙メッセージを預けておくか」


 とりあえず、俺のやるべきことが決まった。

 よし! と立ち上がって、マントについた草を軽く払う。丘を下りるための一歩を踏み出した。



 **



 カタカタと揺れる馬車に乗って、俺は隣の街を目指す。

 街へ向かう乗合馬車には、自分を含め六人ほど乗っていた。


「フヒッ……フヒッ……」


 俺の隣にはおっさんが座っている。相手の距離が少しばかり近い気がするのは気のせいではないだろう。


 ああ……座る場所をミスった。

 馬車に乗り込む際、自分が“綺麗な女性の姿”になっていることを完全に忘れていた。


 おっさんが、ずっと話しかけてくる。口臭がキツイ。ツラい。

 俺は乗って早々に途中で降りたくなるほど不快な気分になっていた。


「ねぇねぇ、お姉ちゃんいくつ? 隣街へ行くのは出稼ぎか何か?」

「教えません。秘密です」

「つれないねぇ~もしかして、そうやって気を引いてるのかなっ」


 おっさんがフヒヒと笑う。何をどう曲解したらそうなるのか。

 俺は隣のおっさんを見ることなく、破れたホロの隙間からじっと青空を見つめ続けている。


「も、もし、エッチな出稼ぎなら、お、おじさんが……ギャッ!!」


 おっさんの手が俺のほうに伸びてくる──その気配を感じた瞬間、俺はその手を馬車の床に叩きつけた。


 おっさんは、ひぃひぃと泣きながら「痛いよぉ」と騒いでいるが、これは正当防衛にあたるだろう。

 だから、俺は悪くない。


(顔を隠す布かフード付きのマントを買うべきか?)


 女勇者の顔は、本当に綺麗だと思う。俺でもそう思うくらいだ。

 顔が良いと串焼きを一本おまけで貰うこともあれば、こうやって要らぬ虫が寄ってくることもある。

 無用なトラブルを避けたいのならば、女勇者の顔対策は必須かもしれない。


「フ、フヒッ! おっぱい大きいねぇ……ギャンッ!!」


 俺はもう一度おっさんの手を床に叩きつける。


(この胸にも対策が必要だな)


 そんなことを考えながら、馬車に揺られて隣の街を目指すのだった。

読んでいただきありがとうございました。

ブックマークもありがとうございます!

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