47 解決と下着選び
翌朝──俺は仲間とギルドに向かう。
王妃様への手紙に、今この町の孤児院で起きていることを詳しく書き記した。
「アルス。ほら」
「アルス君、これを」
カイエルとフィノの二人から封筒を受け取る。
二人が書いたものも一緒に送ってもらうことにした。
カイエルは侯爵家の人間だし、フィノは聖人だ。
二人の後押しがあれば、きっと王家は動いてくれるだろう。
あとはそれまでの間、孤児院の食べ物や生活を何とかすればいい。
それについては当てがある。昨日倒したドラゴンだ。
俺たちはギルドを出たあと、山へ向かった。
山頂にあるドラゴンの亡骸から魔石を抜き、爪の一部とウロコを剥ぎ取ると、もう一度ギルドに戻った。
「魔石の鑑定と換金を。あと、あの山にドラゴンの死体があるから、それも買い取ってくれる? これが証拠。ウロコと爪。俺たちは解体したり、運んだりできないから、そうだな……報酬は一割で──」
「ダメですよ、アルス君。それは安すぎます。ドラゴンを倒すのは容易ではないんですから。しっかりその労力を加味しましょうね。最低でも三割が妥当です」
守銭奴のフィノがニッコリと笑う。
いや、まぁ、確かにドラゴン倒すの大変だったけどさ。三割はちょっとぼったくりのような……?
そう思っていたことが顔に出ていたのだろう。
フィノがそっと耳元に顔を寄せる。
「……実は五割って言いたいんですよ?」
「そうかよ……」
フィノはそう言ったあと、ギルドの職員と交渉をする。三割というフィノにとっては『破格』で譲る分、孤児院を気にかけろと言っていた。王家が対応するまでの間、神殿長や領主の魔の手がもう一度伸びてくるとも限らない。
ギルドの職員やその場にいた冒険者たちが『神殿長』の言葉にピクリと反応を示す。
フィノが「実はこんなことがありまして……」と、少し芝居がかった様子で話をし始めた。
「……私も神殿関係者の端くれとして大変申し訳ないと思っております」
「いや! あんたは悪くねぇ!!」
ガタンッと冒険者が立ち上がる。他の人たちも「そうだそうだ」と言い始めた。
「神殿関係者って一言で言っても、あんたみたいなやつがいるんだな。孤児院のことは俺たちに任せろ。あのクソジジイがまたやってきても、絶対子どもたちとシスターは渡さねぇよ!」
「皆さん……ありがとうございます」
フィノが頭を下げる。
〈聖人〉である彼が頭を下げたことに、周囲がザワついた。
フィノと話をしていた冒険者の男が慌てる。
まさか頭を下げると思っていなかった様子で「よせやい」と言った。
しかし、俺は知っている。フィノは自分が頭を下げることで、どうなるのかを知っててやっている──ということを。
俺たちはギルドを後にし、孤児院へと戻る。その道中で、俺はフィノに向かって声をかけた。
「あのとき、何で頭を下げたんだ?」
「ん? ああ、あれですか? 私が頭を下げれば、皆さんがやる気を出してくれると思ったらからですよ?」
「……だよなぁ。お前ってそういうやつだよなぁ」
「ふふっ、お金を支払わずに相手を動かすことができるんですから、使わない手はないですよ?」
ニッコリとエセ臭い笑顔をこちらに向ける。俺は、はぁとため息をついた。
「……っと、そうだ。ちょっと寄る所があるから、お前ら先に行っててくれ」
「どこへ行くんですか? アルス」
カイエルが俺の言葉に食いつく。
隠すことでもないので、俺は素直に答えた。
「ちょっと女物の服屋に。町を出る前に新調したくて」
「? 服が破れてる様子はありませんけど……?」
「いや、そっちじゃねぇ。胸がちょっとな……キツイんだ」
女の姿になった直後に女物の服を買ったけど、この身体──特に胸が成長をしているらしい。
最近、締め付けがキツくなった気がする。今朝、リリアナさんに相談するとサイズが合わなくなったのでは? とのことだった。
ヴァルドがじっと俺を見て、口を開いた。
「そういうことなら、俺様がついて行ってやろう」
「はぁっ!? 何で!?」
「どうせお前のことだ、色気も何もないものを選ぶに決まってる」
「色気が必要あるのかよ……」
俺がボソリと漏らすと、フィノが横から口を出す。
「期間限定の身体なんですから、楽しんでみては? 何だか面白そうなので、私もついて行きます」
「ええ?」
フィノが俺の背中を「さあさあ!」と押す。俺は高身長イケメン三人を引き連れて、女物の服を扱う店に入ることになった。女性下着の並ぶコーナーで、男が三人群がっている。店内にいる女性客の視線が痛い。
「俺様は、これがいいな」
ヴァルドが手に取ったのは真っ赤なブラとショーツのセット。バラのような模様が施されている
……なんか異様に布面積少なくないか?
「私としては、やはりこれでしょうか」
フィノが選んだのは真っ白な下着。フリルが付いている。
……その手にあるのはガーターベルトか?
「……俺はこれを」
口元を押さえ、耳まで赤くなりながらカイエルが差し出してきたのは、爽やかな青色のブラとショーツ。
それを見たヴァルドとフィノが「ふーん」「なるほど」と返した。
「……ヴァルドもフィノも何ですか?」
「いや? 俺様は何も言ってないぞ?」
「ええ。ヴァルド君の言う通りです。……そうですか。もしや、とは思いましたが、なるほど」
こいつらが何言ってるのかよく分からないけど、三人が選んだものから一つだけ選ぶのは、良くない気がする。俺は自分で下着を選ぶことにした。棚に並んでいるものの中から適当に選び取る。
「これにすっか!」
そう言うと、あいつらの口論がピタリと止まった。
俺が手に取った下着を後ろから覗いてきた。
「おっまえ……いくら何でもそれはないだろ!」
「もう少し可愛いものを選んでも、バチは当たりませんよ?」
「せめて、色だけでも変えたほうが……」
俺が選んだのは、地味すぎて目立たないようなベージュのブラとショーツのセットだった。
でも、これだと服の下から透けにくいし、服への影響が少ないんだぞ?
三人からは大反対され、最終的にはそれぞれがお金を出すと言い出した。
会計を済ませ、店を出た俺の手には、ヴァルド、フィノ、カイエルが選んだ下着が入った紙袋がある。
「まったく、お前に任せるとダメだな。今度から服も選ぶときは俺様を呼べ」
「そうですよ。アルス君。君のセンスは壊滅的です」
「俺で良ければ手伝います」
何なんだこいつらは。面倒くさいな。
孤児院に向かって歩き続ける。
次に服屋へ行くときは、絶対こいつらと一緒にいかねぇ! と心に決めたのだった。




