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44 ドラゴン襲来 / ヴァルド視点


 カイエルの魔法の力を使って、山頂へ到着。

 辺りを見回してみたが、ドラゴンはここを離れているようだった。


 もし、ここにいれば殺気や気配をビンビンに感じるはずだ。

 それがないということは、まだ子どもが生存している可能性があるとみていいだろう。


 俺たちは三人バラバラに散り、子どもたちに向かって呼びかける。


「チビ助! いないか!」


 あの女に子どもの名前を聞いておけばよかった。今さらだが。

 俺は「チビ」「ガキ」と、そんな言葉を交互に発しながら、辺りを探し回った。


 すると、空に炎系魔法が打ち上がった。カイエルの合図を見て走る。途中、フィノと合流し、現場へと向かった。


「うわぁあああああん」と泣いている子どもの声に近づく。

 カイエルはオロオロと困っている様子だった。


 俺とフィノの姿を見た子どもたちが、少し安堵したような表情を見せる。


(……そうか)


 カイエルとは初接触。

 つまり、子どもたちはカイエルのことを知らない。


 知らない大人たちにここへ連れてこられ、置いて行かれた。その後で、また、知らない大人――カイエルが現れたんだ。


 カイエルの野郎も「助けに来た」と説明をしたんだろうが、チビたちからすれば、信頼できる大人なのか分からなかったんだろう。不安になって泣いていても、無理はなかった。


「三人――ここにいるのは全員か?」


 俺がそう尋ねると、子どもたちがコクリとうなずく。

 よし、ならばまずはあの小屋まで撤収するとしよう。


 俺はしゃがみ込んで、背中を向ける。子どもらに向かって「乗れ」と言った。

 そのとき、辺りが暗くなった。と、同時にゾワッとした悪寒が首筋を走っていく。


 俺たちは空を見上げた。雲の切れ間に赤黒い物体が空を飛んでいるのがわかる。

 あれは――ドラゴンだ。


「チッ! マジかよ」


 鳥肌が止まらないのは、ドラゴンが俺たちのことに気づいているという証だ。

 俺は立ち上がって、子どもらが隠れる場所を探す。


「チビども、あそこにある少し大きな木がわかるか? あの根元に固まって座っていろ」

「な、なんで……?」

「上を飛んでいるドラゴンに見つかった。俺様たちはあいつと戦う。その間、そこでじっとしていろ。いいな? なぁに、心配するな。俺様たちは強い。終わったら、あのリリアナとかいう女の元に連れて行ってやる」


 戦いが終われば、リリアナの元へ戻れる。


 その言葉を聞いた子どもらは、コクンと力強くうなずいた。

「お兄ちゃんがんばれ」と言うと、俺が言った木の根元に座って、三人固まっている。


 俺は鞘から剣を引き抜いた。カイエルが杖を構え、フィノは俺たちの少し後方に立つ。

 ドラゴンは旋回しながら、緩やかに降りてくる。


 魔法の射程圏内に入ったところで、カイエルが火炎系魔法を詠唱し、大きな火の玉を放った。

 大きな爆発音が空に響く。だが、ドラゴンにダメージは入っていないらしい。やつは「グルァアアアア!」と大きな声で威嚇し、大きな翼をバサバサと揺らしながら降下してきた。


 黒く光るドラゴンの足の爪が俺を狙う。その爪を避けながら、俺は剣を振った。


 やつの足を捉えた……! が、ダメージを与えられていない!


 硬いウロコが俺の攻撃を阻んでいた。


「――くっ! やっぱりか!」


 予想通りの展開に、俺は地面に向かって唾を吐き捨てる。


 炎系魔法もダメ。剣もダメ。

 カイエルが氷魔法を放った。しかし、それもダメージを与えられてはいないようだった。


 俺たちの攻撃ではドラゴンを倒す決定打が足りない。とするならば、やつの弱点を見つけ、そこを突いていくしかない。


 俺はカイエルとフィノを見た。あいつらも同じ認識らしい。二人とも「うん」とうなずき返す。


 ドラゴンが一度、宙へ戻る。またこちらに向かって飛び込むように降りてきた。

 俺は剣を構え、攻撃に備える。黒い爪がまた襲い掛かってきた。


「チビどもに、あの女の元に返してやると約束したんだ。ヴァルド様を舐めんなよ――!」


 剣先を突き刺す。しかし、硬いウロコが阻んで、やつの身体に埋まることはなかった。



 **



「はぁっ……はぁっ……」


 肩で息をする。俺と同じように肩で息をしているカイエルの姿があった。杖を地面について、それで身体を支えている。


(カイエルの野郎もフィノも魔力が尽きかけている。特にフィノの魔力が尽きたら終わりだ。どうしようもない)


 ドラゴンの弱点は眉間。それがわかっても狙えねぇ。

 何しろ相手はずっと空を飛んでいる。俺の剣はやつの腹や足元、尾を切りつけられる程度だ。


 遠距離攻撃ができるのはカイエルのみ。魔法で眉間を狙う――魔法が得意なカイエルでもそれは厳しかった。

 

 ガサッと葉を揺らす音が聞こえた。

 音がしたほうを見ると、チビ助が立っていた。


「おにいちゃ……」

「バカ野郎! こっちに来んじゃねぇ!! あそこで待ってろっつたろが!!」


 チビの肩がビクッと跳ねる。怒鳴られたことで、子どもの足は動かなくなったようだ。

 その場で立ち尽くしている。そのとき、俺たちに覆いかぶさる影が濃くなった。


 ドラゴンが――子どもを狙っている。


(っざけんな! クソが!!)


「チッ」と舌打ちしながら、俺は全速力で駆ける。やつの爪がチビ助に届く前に、俺は子どもに飛びかかる。


「――ぐっ!!」


 ドラゴンより俺のほうが一歩早かった。しかし、黒い爪は俺の背中をかすめていた。

 服が裂け、肉を切ったのがわかる。


「ヴァルド!!」

「ヴァルド君!」


 カイエルとフィノの声が背中に突き刺さる。

 バカ野郎、そんな声出してんじゃねぇよ。


「にいちゃ……?」


 ほらみろ、チビ助が俺のことを心配するだろうが。


「心配すんなつったろ。大丈夫だ。お前は言われた通り、あそこにいろ。いいな?」


 子どもはコクンとうなずくと他の二人がいる木の根元まで戻って行った。

 俺は振り返って、やつを見据える。


 フィノが回復魔法を詠唱している。カイエルは氷魔法を放っていた。


「ったく、ドラゴンも卑怯者かよ。ガキを狙うなんて恥を知れ」


 最後に「バーカ」と付け加えて、ハハハと笑ってみせる。ドラゴンに聞こえていたのか、それとも言われた内容を理解したのかは知らないが、やつはまた俺を狙い降下してきた。


 背中が熱い。引き攣る。しかし、そんなものに構っている暇はないと、剣を構える。

 俺たちがやらなきゃ、ガキどもは死んでしまうかもしれないんだ。


(俺の目の前で、させるかよ――!!)


 幼き日、俺をかばったがために、理不尽な死を迎えたシスターの最期を思い出す。

 もうあんな思いをしないために、俺は冒険者に――〈戦士〉になったんだ……!!


 黒い爪が俺を吹き飛ばす。身体が宙に浮いたと思ったら、そのまま地面に叩きつけられた。

 まったく、ざまぁねえな。デカい口を叩いて、これはちとカッコ悪い。


「……クソが……俺様は、つえーってのによ」


 ドラゴンが宙を旋回、これが最後だと言わんばかりに俺に迫ってくる。

 身体を起こす力が出ない。フィノの回復魔法が届いたが、傷の方がどうやら深いらしい。


 いつも嫌味しか言わないカイエルが、俺の名を叫ぶ。

 やめろ。まるで俺が死ぬみたいだろうが。


「俺様が死ぬときは……女を抱いてるときって決めてん……だよ」


 腹上死が最高だと思わないか?


 ――なぁ、アルス。


 襲い掛かってくる爪に覚悟を決める。そのとき、俺の視界が『黒』から『銀』に変わった。

 銀糸の長い髪が、俺とドラゴンの間に割り込む。


「悪い。待たせたな」


 そう言って現れたのは、銀髪の女『アルカ』だった。

 アルカは鞘を俺に向かって放り投げる。


 そうして、彼女は『勇者の剣』をドラゴンに向けたのだった。

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