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36 ピンチからの助け、そして


「──ふっ!」

「ぐあっ!」


 俺のストレートが男の顔面に入る。

 飛びかかってくる気配を察知して、反射的にしゃがみ込む。


 回避を終えたら次は左。棒のようなものを振り上げた男を視界の端で捉えていた俺は、左足を軸にして右足で男の足を払って倒す。


(次はどいつだっ!?)


 挟み撃ちするように、男たちが前後から襲い掛かってくる。俺は地面を蹴って高く飛んだ。

 獲物の俺が目の前から消えたことにより、男たちはお互いにぶつかり合う。


 身体をくるっとひねり、宙返りを決めながら、俺は残り一人を探した。

 素手で魔物と戦うにはキツいが、人間ならばまだ戦える。地面に着地すると、すぐに男の元へ走った。


 不幸中の幸いと言うべきか、いや、こいつらも()()を狙っていたのだろうか。万が一、ケガを負わせてもここは町の外。


 一歩踏み出せば、町へ戻れる距離だったとしても、町の法で裁かれることはない。

 だから、思いっきり動いても構わないのは、こちらも正直ありがたかった。


「くそっ! このアマ……!」


 俺のストレートを顔面で受けた男が、手の甲で鼻血を拭う。

 非力な女だと思っていた相手にやられて頭にきたのか、腰に提げていたナイフを手に取った。

 他の男たちも続いて得物を手にしていた。


(刃物か……)


 俺はチラッと後ろを見て、リリアナさんたちとの距離を確認する。すぐに視線を前に戻した。

 不敵な笑みを浮かべて、男たちを挑発する。彼らの標的が、彼女たちにいかないようにしなければならない。


 俺に対する苛立ちと怒りで、こいつらは俺しか目に入っていないようだが、時間が経てば経つほど周りが見えてくるだろう

 リリアナさんと子どもたちを人質されたらまずい。その前にケリをつける必要があった。


 シュッと突き出されるナイフを寸でのところでかわす。切っ先がスカートの裾を捉えることもあった。

 ビリッと破れることも構わず、俺は身体を翻す。


「──ふんっ!」


 ドスッ!っと俺の拳が男の腹を捉える。

 手応えはあった。だが、男は倒れない。


 腹に何か防具を仕込んでいるらしい。

 一発で仕留めることができなかったことに、チッと舌打ちが出る。もっと思いっきり殴るべきだった。


「おらっ! 踊れや!」


 三人同時にナイフを振りかざして襲い掛かってくる。銀色の切っ先がいくつもの弧を描いた。

 バックステップをし、右、左、と身を反らす。最後の一人が振りかざしたナイフがスカートを捉え、俺を地面に縫い付けた。


(くそがっ!)


 スカートをぐいっと引っ張ってみる。ナイフがしっかり地面に埋まっており、簡単には抜けなかった。その隙を狙って、他の男二人が襲い掛かってくる。俺は思いっきりスカートを引っ張った。


 ビッと音を立て、スカートが裂けた。拘束は解けたが、やつらの攻撃を回避するには間に合わない。


「──くっ!」


 切っ先を見据え、せめてダメージが最小限になるように身体をズラす。

 これから訪れるであろう痛みに備えた──そのとき、上から何かが降ってきた。


(──!?)


 ドスンッと音と共に赤い何かが俺の視界を覆う。よく見ると、それは一人の男だった。


「何者だ、てめぇ!?」

「死にたくなかったら、そこをどけ!」


 男たちがナイフを構え直しながら、乱入者に向かって怒号を浴びせる。


「──あ? 誰に向かって言ってやがる?」


 広い背中。赤い髪。どこか人を見下すような余裕と色気をまとった低い声。この声の主は──


「……ヴァルド?」


 思わずポロリと声に出してしまった。俺は慌てて口を手で塞ぐ。

 どうやら、目の前の人物には聞こえていなかったらしい。ヴァルドはこっちを振り返ることなく、男たちと話を続けてる。


「……女一人をナイフで囲むとか、ダセェな」

「うるせぇ! その女が大人しくしないのが悪ぃんだよ!」

「顔を殴られた礼くらいは、しないとなぁ!」


 襲ってきたのはそちらなのに、まるで俺が悪い──みたいになっていないか?

 なぜ、大人しく捕まらなければならないんだ。


「五対一ってんなら、俺様はこのシスターの味方になるか」

「おい、兄ちゃん。ケガしたくなかったら、今すぐここから立ち去るんだな」


 男たちはナイフの刃を光らせる。気づけば、五人全員に俺たちは囲まれていた。


「あ? 俺様がお前らに負けるとでも?」


 ヴァルドが男たちの言葉に答える。俺はこいつの背中しか見えていないが、その声色は「舐めるなよ、雑魚が」と言っていた。

 俺は振り返って、ヴァルドの背に身を預ける。背中合わせになりながら、こいつに注意事項だけ伝えた。


「相手は魔物じゃなく人間だ。……殺すなよ」

「わーってるよ」


 男たちが一斉に襲い掛かってきた──俺たちは、まるで打ち合わせたかのように同時に地を蹴る。


 俺は弧を描くナイフを避け、高く飛び上がり、男の脳天にかかと落としをお見舞いした。

 ヴァルドは太い腕から繰り出すパンチをやつらの腹に埋め、地面に沈めているようだった。


 さすがは〈戦士〉。腕力は俺よりも上だ。

 防具の上からでは、俺はやつらを一発で仕留めることができなかった。ヴァルドはそれを軽々と決めてくる。

 

 俺が一人倒している間に、ヴァルドは男二人を倒す。残すは二人。


 次に狙う相手を探したそのとき、「うわぁあああん」という子どもの泣き声が聞こえてきた。

 俺は声のした方へ目をやる。


「──っ!?」


 一人の男が、リリアナさんと彼女が抱きかかえていた子どもに向かって、ナイフを突きつけていた。

 俺はギクリと身体が強張(こわば)るのを感じたのだった

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