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34 孤児院と閉鎖


 二日後──中庭に出て子どもらを指導していると、遠くから俺の名を呼ぶ声が聞こえる。振り返るとこっちへ走ってくる少年がいた。

 ライだ。全速力で駆けてきたようで、俺の元へやってきたときには、はぁはぁと息を荒くしていた。


「アルカさんにっ、お客さんが……来てる!」

「俺……じゃなかった、私に、か?」

「こ、この前、町の通りにいた男の人がっ、聖人とか呼ばれてた」

「ああ……!」


 フィノがここへ来たのか。ということは、孤児院の件の調べがついたということだろう。

 俺は訓練をしている子どもたちに向かって、自主練をするように伝え、孤児院の玄関先へ向かおうとする。


「アルカさん! 待って!」

「ん? 何だよライ」

「服は、そのままでいいの……?」

「…………あ」


 忘れてた。

 フィノと会ったとき、俺はシスター服を着ていたんだった。

 

「サンキュー、すっかり忘れてた。急いで着替えてくる。聖人様には少し遅れるって、伝えてもらってもいいか?」

「わ、わかった……!」


 ライに伝言を頼むと、俺は間借りしている部屋へ急ぐ。

 黒いワンピースを取り出し、髪を隠すベールのようなものを頭に着けた。

 

 窓ガラスに反射した自分の姿を見る。

 うん、どこからどう見てもシスターだ。


 部屋を出た俺は、フィノが待っているであろう玄関へと向かう。


「すみません。お待たせしました」

「いえ、待ってませんから大丈夫ですよ」


 ニッコリと笑顔を見せるフィノ。

 俺が来るまでの間、リリアナさんがフィノの相手をしていたようだ。彼女の顔が真っ赤になっている。涙目で「アルカさぁん……」と俺の名を呼び、助けを求められた。


(まさか、こいつ……リリアナさんをナンパなんてこと、してないよな……?)


 ジトッとした目でフィノを睨んでみた。だが、こいつは相変わらずニコニコと笑っているだけだった。その心を読ませない。


(さすがに神殿関係のある人には手を出さないだろ……たぶん)


 きっと聞いたところで、正確な答えが返ってくるとも思えない。

 それよりも、早く知りたいことがある。


「あのっ、それであの件はどうでし──」

「そのお話は、外でしませんか?」


 問いかけた俺の言葉をフィノが遮る。

 琥珀色の瞳がチラッとリリアナさんを見た。


 彼女には聞かせられないということだろうか?

 俺はフィノに小さく「うん」とうなずき返す。


「リリアナさん、ちょっと出かけてきます」

「は、はいっ! わかりましたっ!」


 リリアナさんに一言告げてから、俺とフィノは孤児院を出る。

 先日話をした広場へ行くことになった。


「今日はいい天気ですね」

「そう……ですね」


 フィノと他愛もない世間話を重ねる。

 孤児院からある程度離れ、町の出入り口付近までやってくると、ようやく本題に入った。


「孤児院がない件についてなのですが……」

「はっ、はい!」

「どうやら、ここの孤児院は閉鎖されたことになっていました」

「へいさ……?」

「ええ。それにあたって子どもたちは『隣町の孤児院に移動した』ということになっているようです」

 

 孤児院が閉鎖。子どもたちは隣町に移動。

 予想外の答えに、どう返していいのか分からない。


 リリアナさんからそんな話は聞いていない──ということは、彼女も知らないのでは?


 いつの間にか足が止まっていたらしく、フィノが振り返ってこちらを見ていた。

 俺はあいつの元へ駆け寄る。そのとき、何やら町の出入り口付近が騒がしくなっていることに気づいた。人垣ができており、周囲を歩いている人たちも、「何だなんだ」と吸い寄せられていた。


「領主様がなぜこの町に……?」

「領主様の隣にいるのは、神殿の人か?」

「偉い人なのかねぇ……?」


 ザワつく人々の会話から、その中心人物はこの辺りの領主と神殿関係者であることがわかった。


 俺とフィノも人垣に近づいて、様子を伺う。

 人の頭と頭の間から、チラッと話題の中心人物が見えた。


(────ッ!?)


 ゾクリと背筋に悪寒が走る。

 俺の左隣からひんやりとした冷気が漂ってきた。


 隣を見ると、いつもニコニコと笑顔の仮面を貼りつけているフィノが、冷たい目をして二人を見つめている。


(フィノ……? 一体どうしたんだ……?)


 ゾクゾクとした寒気が止まらない。こんなフィノは初めてだ。

 俺はそっと右手で左の二の腕をさすった。


 もう一度前を見て、領主と神殿関係者らしき人物を見る。

 フィノがこんなにも感情を表に出しているもは何故だ?


(この二人に何かあるのか? それともどちらか一人……?)


 神殿関係者らしき人物は少し小太り気味だった。白い服に金色の豪華な刺繍がいくつも施されており、彼の地位は高そうに見えた。領主は揉み手をしながら、彼の言うことに何度もうなずいていた。二人はよく似た体型で、揃ってワハハと笑っている。


「それで問題の孤児院というのは、どちらですかな?」

「はい。こちらになります」


 神殿関係の人物が領主に尋ね、領主が手を上げ、孤児院のある方角を示した。


(──!?)


 タイムリーな話題に、俺は驚きを隠せないでいると、フィノが突然手を握ってきた。


「戻りますよ」


 どこへ? ──なんて言わなくてもわかる。孤児院だ。

 手をグイグイと引っ張りながら歩くフィノの真剣な顔つきに、俺も気を引き締めた。


(あいつらが到着する前に、孤児院へ行きたいんだな)


 フィノの歩幅と速さから、それが痛いほど伝わってくる。

 俺はフィノの手を振り払った。スカートを両手で軽く持ち上げる。


「──走ります!」

「わかりました」


 俺は身体を前に倒し、足先にグッと力を入れる。

 地面を思いっきり蹴ると、一直線に孤児院を目指した。

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