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31 仲間との再会②


「──すみません。ちょっと知人を思い出したもので」

「……へ?」


 カイエルの謝罪の言葉に、俺は顔を上げる。


「女性に向かって『アルス』だなんて……俺は何を言ってるんだ」


 カイエルは口元に手を当てながら、ぼそりとつぶやく。

 そのつぶやきは、俺の耳にも届いていた。


(これは、つまり? 察するに……バレていないのでは?)


 ゴクリと喉を鳴らす。バレていないのなら、ボロが出る前にこの場を立ち去りたい。

 まるで俺の考えていることを読んだように、ギルドの扉がギィ……と小さく開く。隙間からひょっこりと顔を出したのは、ライだった。


「……アルカさん?」


 控え目がちに、ライが俺の名を呼ぶ。

 俺は『助け船ナイス!』と心の中でガッツポーズしつつ、ライに向かって小さくうなずいた。


「あのっ! すみません、助けていただきありがとうございましたっ!」


 カイエルに向かって軽く会釈えしゃくをして、ギルドを出る。

 このときの俺は、バレていないことに安心しきっており気づいていなかった。


 扉が閉まる直前──小さな声で「……可憐かれんだ」と(ささや)かれていたことも。

 妙にあいつの頬が色づいていたことも。

 



「アルカさん……あの人……」

「ん~? どうした?」


 俺の隣を歩くライが、眉をしかめている。


「さっきの、あの男の人。あの人、アルカさんのこと──……いえ、何でもないです」

「言いかけて、やめられると気になるんだが!?」

「たぶん、オレの気のせいだと思うので、大丈夫です」

「本当かよ……」


 あの人っていうのは、カイエルのことだろうか?

 俺に襲い掛かかろうとしていた冒険者二人ではないと思う。


(うう……気になる……)


 少し時間を置いて、ライに何を言いかけたのかと問いかけてみた。

 しかし、ライは「何でもないです」と言って、教えてくれなかった。


 もう一度トライしてみたが、「アルカさんは、あの人のことが気になるんですか?」と逆に問われてしまい、俺はカイエルのことを話題に出すことを止めた。


 

 **



「せっかくここまで来たんだし、リリアナさんとチビどもにお土産でも買って帰るか~!」

「はいっ!」


 せっかくギルドまで出向いたので、孤児院に帰る前に商店街で少し買い物していこう。

 果物でも買うかなんて話をしながら、俺たちは店に向かう。


 それにしても、今日は随分と人が多いな。大きな町でもないのに、通りに人が溢れ返っている。

 キャーキャーと女の人の黄色い声が聞こえた。何をそんなに盛り上がっているんだろう?


「なぁ、ライ。今日この町で何かやってるのか? めちゃくちゃ人がいるけど」

「オレもこんなの初めてです。何だろう?」


(……気になるな)


「すみません」と言いながら、俺は人と人の合間を縫っていく。

 人が集まっている中心に何があるのか気になってしまった。


 スイスイと進んでいき、ようやく集団の中心にたどり着く。

 最前列の人の頭と頭の間から、そっと覗き込んでみた。


「──げっ」


 人垣の中心にいたのは、人だった。

 燃えるような赤い髪と絹のような白い髪を持つ、二人の男──ヴァルドとフィノだ。


「こんな町に聖人様が、ありがたや。ありがたや」

「はぁ~……ヴァルド様かっこいい……」


(そうだ。カイエルがこの町にいるのなら、この二人がここにいてもおかしくなかった……!)


 俺はサイドの髪を両手で引っ張り、顎の下まで持ってくる。顔を隠せるわけじゃないのに、隠したい気持ちが行動になって出ていた。

 くるっと踵を返す。あの二人に気を配りながら、そっと来た道を戻ることにした。


「アルカさん! 待って!」


 後を追ってくるライが大きな声を出す。俺は思わず「シーッ!」と人差し指を口あてた。


「えっ、どうしたんですか?」

「あ、いや。その、ちょっと色々あって?」

「??」

「……ライ。急いで孤児院に帰ろう」

「えっ……?」

「お土産はまた今度にしよう!」


 そう言うと、俺は早足でこの場を離れる。

「待ってください」と追いかけるライを振り切るように、サカサカと歩いた。

 人がまばらになったところで、ようやく後ろを振り返る。


 ──あいつらが追ってくる気配はなし。

 

 俺は、ほっと息を吐いた。


(あの二人にはこの姿で一度、遭遇してるからな。もし、覚えられてたら面倒くさいことになってたかもしれない)


 ヴァルドやフィノが「運命の再会だ」とか言ってくる姿を想像して、俺は身体がブルッと震える。

 あり得そうだ……! と怖くなった。二の腕をすりすりとさする。


 あいつらはこの町に何をしに来たんだろう?

 数日、滞在する予定なんだろうか?


(王妃様への手紙の返事は、明日も確認しに行きたいけど……どうしよう)


 商店街へのお使いと違って、誰かに頼むこともできない。

 良い案が思い浮かばないまま、孤児院へ帰ってきた。


 廊下をパタパタと走る音がする。リリアナさんがこちらに向かってきた。


「おかえりなさい……って、どうしたんですか?」

「どうした、とは……?」

「何やら、お顔が沈んでいるようですけど……」

「ふぇっ?」


 思わず両手で顔を触ってしまう。表情なんて、自分じゃ分からないのに。


「何かお悩みでしたら、私でよければお話を聞きましょうか?」


 彼女の言葉に、俺は「実は……」と打ち明ける。

 知り合いがこの町に来ていること。しかし、自分がここにいることはバレたくないことを。


 リリアナさんは眉を寄せ、真剣な顔つきで俺の話を聞いている。

 彼女は両手を胸の前で合わせ、ぎゅうっと力強く握りしめた。


「アルカさんお綺麗ですし……もしかして、付きまといでは? ああ~! きっとそうですよ!」

「付きまといではないと思うんですけど、何て言うか~……」

「私にいい考えがあります! アルカさん、ちょっとお部屋で待っていてください!」


 リリアナさんはそう言うと、廊下をパタパタと走って去って行く。

 俺はライと顔を見合わせた。ライならリリアナさんの考えとやらが分かるかと思ったが、彼も首をかしげるだけだった。


 彼女に言われた通り、部屋へ戻って、リリアナさんが来るのを待つ。

 トントンとドアを叩く音がして、「失礼します」という声が続いた。


「アルカさん、お待たせしました! これを使ってください!」

「これって……」


 リリアナさんの手に握られていたのは黒い服。

 それは、彼女自身が着ているのと同じ──シスター服だった。

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