30 仲間との再会①
「アルカさん、おはようございます!」
「おはよう~今日も元気だなぁ!」
「はいっ!」
ここへ来て三日目。
朝起きて、中庭に出ると、子どもたちは身体を動かしていた。
荷物持ちをしてくれた少年――ライが、俺の姿を見つけて駆け寄ってくる。
「アルカさんは、今からどこかへ行かれるんですか?」
「ん? そうだな。そろそろ返事がきてもおかしくないだろうし、ちょっとギルドに――」
「オレ! お供します!」
食い気味にライが「ついて行く」と言ってきた。
彼の勢いに面食らった俺は「お、おう」と、どもりながら返事をする。
たった数日で、まるで別人みたいに変わっていた。
希望も何もない、曇った目をしていたのが嘘みたいに思える。
ライは「ちょっと待っててください」と言うと、子どもたちの輪に戻って行く。ライの次のリーダー格――三日前に一緒にギルドに行ったもう一人の少年、ナギに何か伝えると、またこちらへやってきた。
「お待たせしました」
「そんな、待ってないから大丈夫だ。よし、じゃあ行くか」
「はいっ!」
俺はライと一緒にギルドへ向かう。
ライはたったの三日とはいえ、自分の成長を感じるのか、こんなことができるようになったと歩きながら報告してくる。俺が「よかったな」と言うと、満面の笑みで「はいっ」と答えた。
ギルドに到着した俺たちは扉を開ける。中に、冒険者の姿はなかった。
ライは壁際に寄って待機、俺は受付へと向かう。
「おはようございます」
俺は挨拶をしながらギルドカードを差し出した。
「俺……じゃなくて、私宛の手紙は来ていませんか?」
「少々お待ちください」
受付嬢がカード情報を読み取り機にかざす。
「どうやら手紙は来てないようです」
「……そうですか。ちなみに私の送った手紙は受け取られているんです……よね?」
「そうですね。受け取りは確認しています」
「わかりました。ありがとうございました」
王妃様からの返事はない。連絡してまだ三日だ。
お忙しい方だし、もしかすると支援金がどうなっているのか調べている真っ最中なのかもしれない。
(ちょっと俺の方が焦りすぎかな。魔石を換金した金はまだあるし、もう数日様子を見るか……)
俺は振り返って、壁際に寄って待機しているライを見る。「行こう」と声をかけようとしたそのとき、ギルドの扉が開いた。そこに現れたのは見たことある顔――三日前に俺がここでやり合った男たちだ。
「――げっ」
冒険者である以上、また会うことはあるだろうと思っていたが、まさか三日後とは。
向こうもこっちに気づいたようだ。やつらが俺のことをギロリと睨みつけ、大股で近づいてきた。
『お前は外へ行け』
ライに向かって顎をしゃくり、合図を送る。ライは一瞬だけ迷ったようだが、小さくうなずくと、やつらの視界に入らないように、気配を殺しながらそっと移動した。
「よお、また会えたな」
「どちら様ですか?」
「白々しい。お前に押さえつけられたところを痛めてなぁ……痛くて痛くて、この数日、依頼をこなすのもやっとだったんだ。お嬢ちゃん、慰謝料払えや」
男の言葉を聞いて、俺は「はんっ」と鼻で笑う。俺の態度に二人はカチンと頭にきたようで、眉を吊り上げていた。
「慰謝料? むしろこっちが勉強代を請求したいところだが?」
「ああ? 舐めてんのかテメェ」
「こんな小娘に負けて仕事できませんでした、なんて、カッコ悪すぎると思わないのか?」
「このアマ――!」
カッとなった二人が同時に俺に手を伸ばす。俺はしゃがんでその手を避けた。そのまま身体を前に倒し二人の間をすり抜け、ギルドの扉に向かって床を蹴った。
「――ぶっ!?」
扉を開け、外に出ようとして壁にぶつかった。顔に硬いものが当たって地味に痛い。
一体何だ? ――と俺は顔を上げる。するとそこには、またしても見たことのある顔があった。
「すみません、大丈夫ですか?」
「……っ! ……だ、いじょうぶです」
ビックリした。思わず『カイエル』って言いそうになった。
濃い青紫色した髪は額の真ん中で分けられ、眼鏡の向こう側には綺麗な瑠璃色の瞳が輝いている。久々に顔を見た気もするが、整った顔立ちは相変わらずだった。黒いローブに黒いマント――魔法使いの正装だ。
(俺の顔に当たったのは、マント留め具のブローチか。真ん中の石が当たって痛かったんだな)
俺がカイエルによって足止めを食らっている間に、男たちがこっちへやってくる。
ハッとして気づいたときには、すぐ後ろにいた。
(しまった! 外に逃げるチャンスだったのに……!)
タイミングを失い、チッと舌打ちしたくなった。
先日、ギルド内で暴れたばかりだ。これ以上目立つのは、よろしくないだろう。
(どうすれ――っ!?)
カイエルが俺の腕を掴んだ。
次の瞬間、ぐっと強く引っ張られて――視界が黒に染まる。
気づけば、カイエルと立ち位置が入れ替わり、俺はこいつの背に庇われていた。
「女性に手をあげようだなんて、男の風上にも置けないですね」
カイエルはそう言うと、右手に持っていた杖をスッと掲げた。
男たちの身体が宙に浮き、ゴンッ! と鈍い音がギルドに響く。
頭を天井にぶつけた彼らは白目を剥き、そのまま床に崩れ落ちた。
「え……死んだ?」
「失礼な。殺してません。気絶させただけです」
思わずポロッと漏れた俺のひと言に、カイエルがすかさず反応する。
二人してハッとし、互いに目を見合わせた。瑠璃色の瞳に、俺の顔が映っている。
(やべっ……! つい、いつもの感覚で!)
慌てて自分の口を手で塞ぎ、下を向く。
――いや、待て。これも余計に怪しまれるかもしれない。
「……アル……ス……?」
低く、滑らかで、どこか品のある声が頭上から降ってくる。
俺は目をぎゅっと瞑り、カイエルの口から放たれるであろう言葉に、身構えたのだった。




