25 仲間との合流 / カイエル視点
「銀髪の女と接触した……? ヴァルドは何を言っているんだ?」
ギルドの受付で手紙を受け取り、その場で読んでいた俺は思ったことが口から零れる。
ヴァルドだけじゃなくフィノも、同じ日に接触したらしい。
しかし、二人ともその相手がアルスが消えたことに関与している女とは気づいておらず、逃がす羽目になったとか。
さらに追加で届いた手紙では、『神殿から道具を借りることができたので、今から女を追う』と書かれて内容は終わっていた。
「それで、こっちはアルスから……」
俺がアルスに『今どこにいるのか』と送った内容に対する返事が届いていた。そこに書かれていたのは──
「まだ戻れない……ですか」
『すぐに戻る』と書かれていた手紙から数日ほど経過。アルスは戻れないという返事をよこしてきた。
であれば、この町に留まっていても仕方がない。俺もヴァルドとフィノに合流するほうがいいだろうか?
今から魔法で転移すれば、追いつけるかもしれない。
俺はすぐにギルドを出た。そのまま町の外に出る。
先日は広場で町の人たちを驚かせてしまったので、人の気配があまりしないところまで移動して、それから魔法を展開する。
地面に魔法陣が展開される。風が俺の身体を包んだ。
詠唱を終えると周囲の景色が変わった。
自分の身体から魔力が減った感覚がある──無事、転移できたことがわかった。
「……ここは街の外ですかね」
街の外壁が目に入る。
辺りを見回して自分のいる位置を確認した。
街の出入り口からそう遠くないようだ。
俺は空に向かって、杖を掲げる。
小さな火の魔法を空に放って、それを破裂させた。破裂音が辺りに響く。
これは俺たちが予め決めている『合図』だ。
といっても、これを使えるのは魔法が使えるフィノと俺だけ。
だから、何かあって二手に分かれるときは、いつも俺とフィノが別れるようにしていた。
数十メートル離れた場所から、光の玉が打ち上がって破裂する。フィノから『合図』が返ってきた。
「こっちですか」
俺はそう言うと歩き始める。
二人に合流すべく、早歩きで足を進めた。
**
「ここは『迷いの森』……?」
フィノの持つ『魂索の針』が鬱蒼とした森の中を指し示している。
(こんなところに……? 銀髪の女は一体何しに……?)
俺と同じことをフィノも感じたようだ。
「なぜこんなところに……?」と心の声が漏れていた。
俺たちは森の中に入っていく。
空を見上げると枝葉が青空を覆い、辺りは薄暗くなっていた。
獣道を歩き進め、時折、休憩を挟みながらも、俺たちは針が指す方角を目指して、迷わず歩き続けた。
しばらく歩いていると、ほんのりと鉄臭いようなにおいが漂ってきた。
ベアドスの亡骸がそこにあった。
だが肉は無惨に引きちぎられ、原型をとどめていない。
死んだあと、ほかの獣たちが群がって肉を食い荒らしたのだろう。
白い骨がところどころ見え隠れしている。
森の中にベアドスがいること自体は、珍しくもない。
だが──比較的外敵が少ないはずのこの魔物が、よりによって死んでいる。
俺は、そこに妙な違和感を覚えた。
ヴァルドがしゃがみ込んで、ベアドスを観察している。
俺も周囲を見回した。
「魔石がなくなってる、っつーことは、こいつを倒したのは人間か?」
「この森に住んでいると言われている〈西の魔女〉でしょうか?」
「その割には魔法を使ったような痕跡はなさそうです」
火や水といった魔法を使った形跡がないということは、剣などの武器を使って仕留めたのだろうか?
俺たちは違和感に首をかしげながらも、針が指し示す方向へと足を進める。
しばらく歩いていると、木と木の間から赤い屋根がチラリと見えた。
森の奥深くにある一軒家。この家がきっと魔女の家だろう。
俺が先頭に立ってドアの前に進む。何となくではあるが、〈魔女〉と呼ばれる人物であれば、魔法を主に使う自分が対応したほうがいいと思った。
コンコンとドアを叩く。もう一度叩いたところで、ドアがガチャッと開いた。
「はい。どちら様ですか?」
「すみません、こちらは〈西の魔女〉の家で間違いないでしょうか?」
「ええ。間違いないですよ。あなたがカイエルさんで、後ろの二人がヴァルドさんにフィノさん……ですよね?」
「なぜ……」
どうしてこの人物が俺たちの名前を知っている?
俺は目の前の人物を見つめる。丸眼鏡の奥の垂れ目がへにゃりと緩んだ。
「私はリューエンと申します。一応、〈西の魔女〉をやってます」
「魔女が男……?」
「あはは~そうですね。皆さん驚かれます」
「すみません。失礼な発言をしました」
「いえいえ、立ち話も何ですから中へどうぞ。お茶でも飲んでいってください」
西の魔女──リューエンという人物が部屋の中に戻っていく。俺たちは彼の後に続いた。
歩き疲れていたし喉も渇きを覚えていたので、リューエン氏の申し出は正直ありがたかった。
本や書類が積み上がったテーブルの上を、彼が片づける。
広さを取り戻したその場所に俺たちは座った。
リューエン氏は一度部屋の奥へ行き、それから、しばらくしてトレイを持って戻ってきた。
冷えていそうなお茶の入ったコップが並べられ、テーブルの中央に小さな焼き菓子が載ったお皿がコトッと置かれた。
「ここまで来るのに結構疲れたんじゃないですか? 甘いものが苦手じゃなければ、どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
俺の言葉にヴァルドとフィノも続く。
コップに口をつけ、一口飲んでから、焼き菓子に手を伸ばした。
口に含むと、ほんのりとした甘みが身体に吸い込まれていく。うまい。
甘いものが得意ではない自分でも、もう一つと手が伸びてしまう美味しさだった。
リューエン氏も椅子に座り、お茶に口をつける。それから、コップをテーブルにコトリと置くと、
「それで、あなたたちがここへ来たのは、アルスさんのこと──ということでよろしいですか?」
彼は俺たちに向かって、爆弾発言をするのだった。




