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22 クラッグボアとの戦い


 ──ガンッ! ガィンッ!


 青白く光る剣の軌跡が暗闇の中に浮かび上がる。

 クラッグボアの皮膚に剣が当たるたびに火花が散った。


 やつの急所を探す。

 一番最初に狙った眉間は、刃が通らなかった。


(やはり、心臓か? とするなら、下に潜り込むしか……っ!)


 ──ガンッ!


 首の後ろを狙ってみたが、やはり硬くて通らない。


「ふぅー……」


 ベアドスよりも楽、なはずなのだが、自分の後方に村人がいる。

 クラッグボアの背後に行かないよう気を遣いながらの戦闘は、俺の自由を縛った。

 正直、やりづらさを感じている。目の前の魔物だけに集中できない状況がツラい。


(それに……)


 村長さんの話だとクラッグボアは二頭だったはずだ。

 あと一頭が、まだ現れていない。


(今のうちに何とか、こいつだけでも仕留める……!)

 

 剣に流す力の量を引き上げる。硬い皮膚ごと断ち切ることに決めた。

 できればもう一匹のために、余力は多めに残しておきたかったが、ここで時間を使う方が得策じゃないと判断。


 この一頭は、短期戦で決めてやる……!


「──ふっ!!」


 先ほど狙った首に、もう一度剣を振り下ろす。剣先に手応えがあった。

 弾いたはずの刃が今度は硬い皮膚に埋まっている。クラッグボアの叫び声が辺りに響いた。


「プギィイイイイ!!」


 クラッグボアが頭を振り回す。俺は一度後ろに下がった。

 剣を構え直し、暴れ回っているヤツの足を狙って、地面を蹴る。


 右前足を切りつけ、一度下がって、次に狙うは後ろ足──ヒットアンドアウェイ。

 フットワークを駆使して、攻撃を続けた。接近して切りつけ、すぐに離れる。

 

 地面を蹴る速度を一段階上げる。クラッグボアはその場で地団駄を踏むように暴れていた。

 俺を捉え、攻撃をしたいのだろうが、どんどん俊敏性を増す俺を捕まえることができずにイライラしているようだった。


 ヤツは空に向かって咆哮するように、鳴き声を響かせる。

 すると、地面をドドドと駆けてくる音が近づいてきた。


(!! この音、まさか──)


 そのまさかの展開が訪れる。もう一頭のクラッグボアが現れた。

 あの咆哮のような鳴き声は、仲間を呼ぶ声だったのか。


 思わずチッと舌打ちが出た。


 俺の攻撃が止まったのを見て、ヤツは傷ついた前足で地面を掘る。突進の準備をしているようだった。ヤツは俺に狙いを定めるとその巨体揺らし、こちらに向かって走ってきた。


「くっ──!」


 どうする……!?

 クラッグボア攻撃を避ければ、こいつはそのまま後ろへ走って行くだろう。

 俺の後方には村人がいる。避けるわけには──


(いかないっ!!)


 剣を真横に構え、突き出す。左手は剣の刃に添えた。クラッグボアの攻撃を受け止める。

 腰を落とし、身体を前に倒し、ヤツの衝撃に備えた。


 ──ドゴンッ!!


 二トンでも三トンでもありそうなトラックが突っ込んできたような衝撃が俺の腕に伝わってくる。

 地面には俺の靴跡が一直線になって、数メートルの線を描いていた。


「ぐっ……!」


 重い……!

 クラッグボアは傷ついた足を動かし、俺の身体をまた後ろへと下げさせた。

 ここからどうするべきか、クラッグボアを倒す方法を頭の中で描いていたそのとき、俺の後ろにいる村人が「ひゃああああ」と声を上げた。


 チラリと後ろを見れば、彼は鞘を抱きしめたまま、尻もちをついていた。

 それから、慌てながら身体を起こし、村のある方に向かってつまづきながらも走り始めた。


「バカ野郎……! 今、動いたら……!」


 目の前にいるクラッグボアの意識が俺から村人に移った気配を感じた。

 ハッとして前を向けば、ヤツは村人に向かって走り始めた。


(まずい……!)


 俺はすぐにクラッグボアを追いかける。長い髪は一直線に、左右に揺れることも許さないほどのスピードでヤツの背中を追いかけた。


 走る足のギアを上げる──が、どう見てもクラッグボアのほうが先に男に追いつきそうだ。

 急ブレーキをかけるように、俺は足を止める。右手で剣を槍を投げるように構え、投擲 (とうてき)した。

 青白い光を帯びた剣が空気を切り裂くように、真っ直ぐ飛んでいく。その剣先はクラッグボアの後ろ足を捉えた。


「プギィイイイイィイイイ!!」


 バランスを崩したクラッグボアが、横に倒れる。地面が揺れ、その揺れで村人の男はコケていた。しかし、彼はすぐに立ち上がって走り始める。

 

 俺もすぐに走り、投げた剣を回収。クラッグボアが横になったことで、あらわになった心臓を狙って地面をひと蹴りした。


「──おらぁあああ!!」


 剣先がズブリと埋まる。ここは他の部位に比べ、予想通り柔らかかった。俺は力を込め、さらに剣を埋める。それと同時にクラッグボアが鳴いた。


「プギィイイイイィイイイ!!」


 絶叫。

 クラッグボアは大声を上げると、そのまま動かなくなった。どうやら倒したようだ。

 ホッと息を吐きそうになったとき、ドドドと地面が揺れる。もう一頭のクラッグボアもこちらに向かって走ってきていた。


「…………待て」


 こちらに向かっていると思ったクラッグボアの目は俺を捉えていない。

 ヤツは走り逃げている男を追っているようだった。


 俺は今しがた倒したクラッグボアの身体から剣を引き抜いた。すぐに地面を蹴り、走り始める。

 額に浮かんだ汗が頬に一筋流れる。嫌な汗だった。


 雲隠れしていた月が、またこっそりと顔を出す。辺りが少しだけ明るくなった。

 月が覗き見している──そんなことを気にする余裕もなく俺はただ走り続けた。

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