表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/55

09 『種付けブレス』の呪い


『絶倫メロメロあっふん男難の相』


 占い師曰く、身も心もメロメロになり、脳内はピンク色に染まってしまう相が、俺に見えると言う。

 目を瞑って、眉をしかめる。右手の親指と人差し指で眉間を押さえた。


(これ絶対に、エロエロエンドのことだ……!)


「はぁ……どうしよう。神殿の高位神官は今いないし」


 心の声がポロリと漏れる。

 占い師が俺の言葉に反応した。


「神殿……? あんなところへ一体何を……?」

「あ、その……実は──」


 俺は自分の身に起こったことを占い師に話す。

 男難の相、つまりエロエロエンドのことを見抜いたこの占い師になら、話しても大丈夫だと思った。


 ダンジョンボスの口から吐き出された謎のブレスを正面から浴びたこと。

 ブレスを浴びた翌日、起きたら女になっていたこと。

 これは状態異常の一種だろうと判断した俺は、解呪するために街の神殿に訪れた──ということを語った。


 占い師は薄い唇を吊り上げ、フッと笑う。どこかバカにしたような笑い方だった。

 ムッと眉を寄せると、「あなたのことではありません」と言って、彼はさらに言葉を続けた。


「きっと神殿に行っても解呪はできないと思いますよ」

「……それはどうして?」

「神官とは、祈りを通して女神の力を借り、この世の傷や穢れを癒す者たちです。ですが──腐りきった今の神殿に、それを為せる者など、ほとんど残っていませんよ」

「……え?」

「解呪するどころか、むしろ、巧みに言葉を操り、法外な報酬を吹っかけた挙げ句、支払いが叶わなければ……あなたの身体に目をつけるでしょうね」


 占い師というには、神殿のことに詳しすぎないか?

 まるでそこにいたかのように彼は語る。神殿の内部は腐っている、と。

 そういえば昔、フィノもそんなことを言っていた気がする。


「あなたの浴びた謎のブレス。きっとそれは『種付けブレス』だと思います」

「たねづけ……ブレス?」

「ええ。上位魔物の一部が持つ能力です。命を落としそうになった瞬間、子孫を残すために、相手の性別を強制的に変えてしまうブレスを吐き出すのです」

「子孫を残すために……強制的に……?」

「このブレスはかなり強力な呪いです。解呪するには、この街の神殿にいる神官では、まず無理かと」

「そ、そんな……」


 目の前が真っ白になる。


 解呪ができない……?

 もうエロエロエンドを迎えることは確定なのだろうか……?


 ガクリと頭が落ちる。絶望が俺を襲った。

 もう、どうすることもできないのか?

 白くなっていた目の前が、今度は黒くなる。


「解呪する方法がないわけではない、かもしれません」


 希望の言葉が耳に届く。ガバッと頭を持ち上げた。

 黒いローブから覗く占い師の指が、右、左、とそれぞれを指さす。


「東の賢者と西の魔女。あの二人でしたら、呪いを解く方法を知っているかもしれない」

「賢者と魔女……」


 噂で聞いたことがある。でも、その二人はほとんど表舞台に顔を出さない。

 東の賢者は偏屈なジジィだとか、西の魔女はボンキュッボンの美人だとか、そんな本当かどうかもわからない噂だけ知っていた。


「少なくとも神殿にいる神官どもに比べれば、戻れる可能性は高いと思います」

「……ふむ」


 俺は自分の顎に手を当て、考え込む。

 東と西、そのどちらも訪れるとなると、かなりの時間がかかりそうだ。

 どちらか一方に絞ったほうが現実的だろう。だとしたら、どちらがいいだろうか?


(賢者か魔女か……)


 何となくだが、魔女がいいのではないかと思う。理由はない。ただの勘だ。

 俺がどちらに行くか決めたタイミングで、占い師がコクリとうなずく。まるで俺の思考を読んでいるかのようだった。


「こちらから声をかけたので、お代の方は結構です」

「……いいのか?」

「ええ。ただし、この水晶であなたの今後を見ることを許していただければ」

「わかった」


俺はそう答えると椅子から立ち上がる。軽く頭を下げ、占い師にお礼を告げると、宿屋の並ぶ通りへと戻った。


 今日泊る宿を決めると、俺はまた外へ出る。

 目的地はギルド。西の魔女がいる場所を尋ねるためだ。




「──ふんっ!!」

「ギャッ!!」


 ギルドに至る道の途中で、またしてもナンパ男に出会った。金的をお見舞いし、瞬殺していく。


 俺は小さな雑貨屋を見つけると、足を踏み入れ、その店で大きなハンカチを買った。三角巾の形にして頭の上に乗せ、鼻の下で布の端と端をキュッと結ぶ。


(前世の絵本で見たことある、泥棒スタイルってやつだ)


 窓ガラスに映る自分の姿を見る。

 少々目立つ気もするが、これでナンパが減れば問題な──


「そこのお嬢さん。今夜、早急に君の双丘でピクニックがしたい。どうかな?」

「…………」

 

 ──減らないが?


(くそっ……! 金が減っただけかよ!)


 俺は頭からハンカチをしゅるりと外す。ハンカチを右手にぐるぐると巻きつけた。

 静かに拳に力を込めると、


「──ふんっ!!」


 本日、十発目の拳をナンパ男の腹に沈めたのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ