四話 この手をとって
「川瀬くん!」
日葵は川瀬のもとにかけよった。あのお昼から、川瀬といる時間が親密になった。守るためだけではなく、友達としての時間も増えたのだ。日葵は嬉しかった。
「行こ」
日葵はぎゅっと川瀬の手を握る。「いつもつないでくれると嬉しい」と言われたので、そうすることにした。
ここまですると周囲としても逆にもう「そんなものか」と言う境地になったらしい。かなり過ごしやすくなっていた。「俺、熊さん好きなんだよね」とか「お兄ちゃんほしかったんだよね」戦法でごり押してよかった。そして自分の顔がちょっと甘えん坊っぽいものでよかったと初めて思った。
「体育、一緒に組もうね」
「ありがとう、日葵」
「ううん。で、さっきの数学なんだけど」
「ああ。宿題多すぎるな」
「やっぱりそうだよね?先生、ずっと不機嫌だったもんなあ」
会話も増えた。しゃべりすぎる日葵にとって、ゆったりと低い声で応えてくれる、川瀬との会話は心地いい。
可愛いところ以外に、こんな風に穏やかで頼れるところもあることを知った。にこにこしながら、歩いていると、川瀬が、突然、ぶんと手を振った。
「ん?」
「蜂が止まりそうだった」
「えっ!川瀬くん手、刺さってない?」
「大丈夫」
手を離すと、蜂がびゅーんと飛んでいく。剣豪ぽくて、感嘆する。川瀬は、実際なんでもできた。勉強も運動も、地力のすごさがうかがえる、立派さだ。
川瀬が飛行症候群にかかっていなかったら。あのとき居合わせなかったら。きっと、自分たちはこんな風に一緒にいることもなかっただろう。
なんだか、最近、ちょっとそれがさみしい。初めは心配。それから、可愛いなあ、放っておけないなって、それだけだったのに。あれが埋まればこれが埋まらない、心とは、厄介なものだ。
川瀬くんが、苦しまないのが一番だ。けれど、この出会いが嘘じゃないって思えるように、川瀬くんが治っても、俺と友達でいたいって思ってくれるように。たくさん、「友達」の時間を重ねていこう。
日葵はぎゅっと川瀬の手を握った。