クジラとクラゲのかき氷屋さん
0話 クジラとクラゲのかき氷屋さん
<カフェ渦>
海沿いにあるカフェ。
外観は白を基調としている。
紺色の屋根。壁に丸い看板が付けられている。
丸い看板に書かれている文字はカフェの名前である渦。文字の色はブルー。
内観も白を基調としている。
床と壁は白色。カウンター5席。
カウンターのテーブルはライトベージュ色の木材、椅子は白色の木材を使用している。
カウンターの中は水中で海につながっているが
どう繋がっているかは不明。
夏限定のカフェである。
<メニュー>
かき氷400円(いちご、メロン、レモン、ブルーハワイ)
練乳50円
<子クジラ>
二匹のクラゲの友達。
かき氷を運ぶ係。
<二匹のクラゲ>
子クジラの友達。
かき氷を削る係。
このカフェには人生の転換期にあたる人が呼ばれる。
カフェ渦のかき氷を食べると新しい閃きが生まれるらしい。
1話 新たな旅立ち
美南。26歳。
私の会社が来月潰れることになった。
一人暮らしだから次の仕事を探さなくてはいけない。
やらなくちゃいけないことは沢山あるのにやる気が出なかった。
そんな夏のある日。
ミーンミーンミーン。
窓の外から蝉の鳴き声が聞こえてくる。
エアコンが効いているけど暑く感じるのは蝉が鳴いているからだろうか。
とりあえず、やらなければならないことは置いといてアイスを買いに行こう。
そう思い私は家を出ようとした。
美南「あれ?」
外へ出てポストに何か入っているのに気付く。
ポストにチラシが入っている。
カタンとポストを開ける。
"かき氷いかがですか?"
"カフェ渦"
と紙に書かれている。かき氷の写真も載っている。
いちごにメロンにレモンにブルーハワイ。
カラフルで美味しそうだ。
美南「うわ、いいな・・・」
場所は・・海沿いにあるみたいだ。
このアパートは海の近くにあるのでちょうど近い。
美南「行ってみよう」
アイスを買いにコンビニに行くはずだった私の足はかき氷を求めて海へと歩き出していた。
歩いて15分。目的地に辿り着く。
丸い看板には青い文字で渦と書かれている。ここだ。
ドアを開ける。
すると・・・カウンターの中に小さなクジラがすいすいと泳いでいる。
その背中には二匹のクラゲが乗っている。
美南「え!?く、クジラとクラゲ!?」
クジラがカウンター越しにこちらを見る。
美南「え、えーと・・・」
そのうち、一匹のクラゲの足(?)がカウンターに置いてあるメニュー表を指(?)指した。
おそらく座ってメニューを決めてという意味なのだと思う。
私はとりあえず促されるまま真ん中のカウンターに座った。
キョロキョロと見渡すがどうやら他に客はいないらしい。
美南「えーと、いちごのかき氷下さい・・・」
美南が注文をすると子クジラがキューと可愛いらしい声で鳴く。
了解という合図のようだ。
かき氷の機械が置いてあり、誰が作るんだろう?と思っていると二匹のクラゲが一緒に機械を使い、氷を削り始めた。
美南は呆気に取られて声も出ない。
しばらくして二匹のクラゲが手分けして子クジラの背中にお盆とかき氷を乗せた。
そのまま私の目の前まで泳いでくる。
美南「ありがとう」
私は感心しつつお礼を言ってお盆ごとかき氷を受け取った。
シャリシャリシャリ。
美南「んー美味しい‼︎」
美南が美味しそうに食べるのを子クジラとクラゲ二匹が見守る。
そして食べ進めていくと・・・。
あ、あっちよりこっちの方が楽しそう。
やってみたいかも。
と、美南の中で何やら急に閃きが起こった。
そう。やらなくてはという焦りからではなく自然と新しい道へ進みたくなったのだ。
美南は食べ終わるとお会計を済ませた。
カウンターに小銭を置くトレーがあるのでそこに350円置いた。
美南「クジラさん、クラゲさんありがとう‼︎私、次に行きたくなってきた‼︎」
その言葉に子クジラはキュー!と先程とは違う高い声を出し、二匹のクラゲは足をみょんみょんと水の上でジタバタとさせたのだった。
2話 新たな恋
要。26歳。
俺は今日、4年付き合った彼女にプロポーズを断られた。
クソ暑い真夏の出来事だった。
意気消沈としていると、カタンという音が外から聞こえた。
俺の部屋のポストに誰かが何かを入れたらしい。
仕方なく重い腰を上げて見に行く。
"かき氷いかがですか?"
"カフェ渦"
と書かれていた。
かき氷の写真がめちゃくちゃ美味そうに見える。
よし、かき氷やけ食いしてやる‼︎と半ばヤケで俺は家を出た。
バスで20分。海に到着。
しばらく歩いていくと白い壁に丸い看板が見えてきた。
青い文字で渦と書いてある。
要「あった!」
中に入るとなんとそこにいたのは小さなクジラと二匹のクラゲだった。
カウンターの中でそれぞれがすいすいと優雅に泳いでいる。
要「え!?な、何だこれ!?」
子クジラがじっとこちらを見る。
要「あ、あのー、誰か・・・いませんよね」
要の独り言が静寂の中に消える。
そんな中、子クジラがじっとこちらを見続けている。
やがて二匹のうちの一匹のクラゲがカウンターの上に置いてあるメニュー表を足(?)で指(?)指した。
座ってメニューを決めろってことらしい。
俺はメニューが置いてある真ん中のカウンター席に座る。
要「えーと・・・メロン下さい」
子クジラがキューと鳴くと二匹のクラゲがかき氷の機械を使って作り始めた。
ガリガリ。静かな部屋に響く。ガリガリ。
なんともシュールな光景だったが一生懸命削っている姿が可愛いくも思えてきた。
出来上がると二匹のクラゲが器用に子クジラの背中にお盆とかき氷を乗せた。
すいーっと子クジラが俺の目の前に来る。
要「ありがとう」
俺はかき氷をお盆ごと受け取った。
要「いただきます、ぱくっ、ん!うま!」
要はかき氷を食べ進めていく。するとその途中でとあることを思った。
今は時期でなかったのかも。
ふと頭に閃いた。
よし、目一杯落ち込んだら新しい恋人を作ろう!
要は会計を済ませる。
要「みんなありがとう!俺、新しい恋探すよ!」
子クジラがキューと先程よりも高い声で鳴いた。
二匹のクラゲは足をジタバタと水中で動かしている。
それはまるで応援してくれているかのようだった。
3話 新たなステージ
仁菜。16歳。
私は明日、歌のオーディションを受けに行くことが決まっている。
けれど、あまりの緊張で前日の朝だというのに気が重い。
仁菜は「はぁ」とため息を吐く。
母「そういえば仁菜、ポストにチラシが入っていたわよ」
仁菜「え?」
母「かき氷ですって、母さんはこれから用事があるから行けないけど仁菜、気晴らしに行ってみたら?」
"かき氷いかがですか?"
"カフェ渦"
母「お店、隣街の海沿いにあるみたいよ」
仁菜「へぇ・・・美味しそう、行ってみようかな」
電車でガタンゴトンと揺られること10分。隣の駅に着いた。
降りて更に10分ほど歩くとその店は見えた。
丸い看板に青い文字で渦と書いてある。
中に入るとそこには小さなクジラと二匹のクラゲがカウンターの中でぷかぷかと浮かんでいた。
仁菜「あのー・・・」
子クジラが無言でこちらを見ている。
やがて二匹のうちの一匹のクラゲが足(?)でメニュー表を指(?)指した。
座ってメニューを見てってことらしい。
私はカウンターに座りメニューを見た。
仁菜「レモンと練乳でお願いします!」
子クジラがキューと鳴くと二匹のクラゲがかき氷機を使ってかき氷を作り始めた。
力を合わせて一生懸命削っている姿はなんとも可愛らしい。
削り終わると二匹のクラゲが子クジラの背中にお盆とかき氷を乗せた。
目の前まですいーっと泳いでくる子クジラ。
仁菜「ありがとう」
私はお礼を言うとお盆ごとかき氷を受け取った。
仁菜「ぱくっ、んー!冷たくて美味しい〜」
仁菜は夢中で食べ進めていく。
すると。
はっ、そうだ。さっき駅前でもらったティッシュ・・・。
仁菜はカバンからかゴソゴソとティッシュを取り出す。
ティッシュには紙が挟んである。
ヨガの体験チケットだ。
チラッと携帯の時計を見る。
まだ行けるかな。店を出たら電話してみよう。
仁菜「あの、ありがとうございました!!私、明日頑張ってきます!」
子クジラがキューと先程より高い声で鳴き、二匹のクラゲが水の上でクネクネと踊っている。
まるで私だけの為に小さなショーをしてくれているみたいだ。
仁菜はその後ヨガの体験に行き、リラックスした状態で次の日のオーディションを迎えることができた。
そして無事に合格したのだった。
4話 ノルウェーの夏
銀。68歳。美世。68歳。
二人の住むアパートにチラシが届いた。
"かき氷いかがですか?"
"カフェ渦"
美世「あんた、かき氷だってさ」
銀「ほう、近くだし行ってみようか」
家を出て歩くこと15分。
美世「あんた、ここじゃないかい?」
銀「おぉ!渦って書いてあるな、よし、入ってみるか・・・おや?」
店内に先に入った銀があるものを見た。
美世「あんた、どうしたんだい?」
銀「いや、店の中に人がいなくてな、代わりに子どものクジラと二匹のクラゲがいるんだ、ほら」
美世「おやおや、本当だね・・・」
後から入ってきた美世も同じ光景を目の当たりにした。
子クジラがじっと二人を見る。
やがて二匹のうちの一匹のクラゲが足(?)でカウンターのメニュー表を指(?)指した。
銀「ふむ、どうやらこの子たちが店員さんみたいだね」
美世「まぁ・・・」
銀「とりあえず座って注文しようか」
美世「そうだねぇ」
銀「俺はブルーハワイだ、美世さんはどうする?」
美世「私も同じブルーハワイにするよ」
銀「じゃあブルーハワイ二つでお願いするよ」
子クジラ「キュー!」
銀「しかし、かき氷機はあるが一体誰が削るんだ?」
美世「さぁ・・・おや?」
するとクラゲが二匹、力を合わせてかき氷機を使ってかき氷を作り始めた。
美世「これはまた・・・」
銀「器用なもんだなぁ」
美世「生きてると不思議なことがあるもんだね」
しばらくして二匹のクラゲが子クジラの背中にお盆とかき氷二つを乗せた。
すいーっと目の前にかき氷が運ばれて来る。
銀「おお・・・ありがとう」
美世「ありがとうねぇ」
二人は感心しながらお礼を言う。
シャリシャリシャリ。
子クジラはかき氷を食べている二人を交互にじっと見つめている。その間、二匹のクラゲは子クジラの背中にピタッとくっ付いている。
二人がかき氷食べ進めていくと。
銀「キーン・・・あたた」
銀は頭を押さえた。
美世「大丈夫かい?」
銀「ああ、冷たいものを食べるとやはりキーンとなるな・・・」
銀はその直後、急に動きを止めた。
銀「もしかしてお前さんは・・・」
美世「あんた、どうしたんだい?」
銀「ああ、いや、この子クジラと二匹のクラゲひょっとしてノルウェーにいた子じゃないか?」
美世「え?・・・確かに似てるね、頬にピンク色の小さな傷があるよ、そういえばクラゲも二匹いたね」
銀「お前さんたちひょっとしてあの時の子クジラとクラゲなのかい?」
子クジラがキューっと鳴いた後じっと銀の目を見つめる。
銀「そうか、やはりそうなんだな」
銀は子クジラと目で会話をする。
銀は心の声が聞こえるとまではいかないが相手の目を見ればおおよそ何を考えているかが分かるのだ。
銀「どうやら、俺たちに会いに来たみたいだな」
美世「まぁ・・私たちに会いにこんな遠くまで・・・」
二年前の夏。
ノルウェーに旅行に行った二人は海で子クジラに出会った。
渦に巻き込まれ、海岸に打ち上げられてしまったところに銀と美世がたまたま居合わせたのだ。
二人は力を合わせて子クジラが怪我をしないように注意しながら海へと返した。
その後、海の家でかき氷を売っているのを見つけて二人は食べた。
子クジラはその様子を岩の影からこっそり見ていた。
そんな子クジラの姿を二匹のクラゲが見守るように寄り添う。
銀「ついに明日日本に帰るんだなぁ」
美世「名残惜しいわね」
銀「ああ」
そんな二人の会話を子クジラは聞いていた。
そして現在。
銀「故郷を離れてまで・・・この二匹のクラゲは友達か・・
そうかそうか、こんな年寄り二人の為に会いに来てくれたんだな、ありがとう」
美世「私たちも会いたかったよ」
子クジラ「キュー!キュー!」
子クジラが嬉しそうに高い声で鳴くとクラゲが二匹、子クジラの周りをくるくると回った。
まるで今日という日を祝福をしているようだった。
それから一年後の夏。
二人は貯金を全て使ってノルウェーに移住した。
海の近くに安いアパートを見つけた二人は互いに支え合いながら畑仕事をして生計を立てた。
休みの日になると子クジラとクラゲに会いに行った。
銀「遅れて青春が来た気分だよ」
美世「遅れた青春かい、それはいいねぇ」
子クジラ「キュー!キュー!」
子クジラの横でクラゲが二匹ゆらゆらと漂っていた。