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逆転  作者: Avoid
可憐な少女の様に
8/14

8.静けさの中で

 最後に無人レジの周辺をさっと探して、鍵がないことをしっかり確認する。見つからないことがさも当然のように感じるのは、きっと、悪い兆候であるだろう。内心、もう見つかるわけがない、と諦めかけているのだ。矛盾を抱えている。


 スーパーの外に出てみて、すう、はあ、と深呼吸をした。頬に当たる風は生ぬるいものだけれど、案外、鼻から吸ってしまえば冷たく感じる。肺を満たす新鮮な空気は、いつも、冷たい。


 思えば、ここ数年で世界はほんとうにひどく変わってしまった。エーアイもそうだけれど、いや、むしろエーアイが諸悪の根源にさえ感じられるが、しかし、それを創ったのは人間。自分たちの為になら、争いをもいとわない人で溢れかえってしまって、自国を、利益を、追求しつづけている。それが良いね悪いねなんて、私に、偉そうに言える権利は一つとしてないのだけれど、どうしても、それに敏感になってしまうのだ。


 またエーアイが進化して、また誰かが不要になって、またエーアイが進化して、今度はそれを規制して。不毛な争い。たまに、この世界のすごい人たちがいったい何と戦っているのか、分からなくなってしまう。


 私は変わろうと決意したのだから、どうにかしてこの“分からない”を解決したい。だけど、こればっかりはどうしようもないのである。なにせ、私のような下民には、見えない世界なのだ。そして、その見えない世界の中で、彼らは、見えない相手と戦っている。まるで、そこにあるのにそこにない、あるはずなのに見ることができない、わば空気のような存在。知ろうと思っても、最初から知れない世界なのだ。


 はあ、なんだか、すべてが同じことのようにさえ思えてくる。エーアイの話も、見えざる世界の話も、結局、本質は同じ気がするのだ。うまく言葉にできないけれど、こう、まるで、利己的みたいな。


 この際、街中をぶらりぶらり歩いてみて、旅にでも出ようかと考えてみる。


 旅は、旅だ。日本全国を巡る旅。こんな汚い世界から足を洗って、ただ、愚直なまでに旅をしてみたい。世の中の綺麗な場所だけを訪れて、観光して、それで、そのまま綺麗さっぱり。きっと贅沢な旅になる。現実なんて、いやだ。情緒溢れるところに行ってみたいのである。


 ぶらり、ぶらり。


 この感覚は久しぶりだ。静かで、なにの音も聞こえない。どうやら、住宅街に差し掛かったようである。それはそれは閑静かんせいな、希望のない街。希望も未来も、ありやしない。


 子どもがいないのだ。いままで、一度として見たことがない。この住宅街で見たことのある人といえば、みんな、ご老人だ。若くても四、五十代に見える人ばかりで、皆様方、昔の話をしてらっしゃる。やれ、昔は平和だった、とか、昔は楽しかった、とか。つまらない話ばかりで、私も特に聞き耳を立てようとは思わなかったけれど、だけれど、自然と耳に入ってくる。


 しかし、ほんとうに誰もいない。この住宅街は少し特殊だ。いつ通ってみても閑古鳥かんこどりが鳴いていて、一歩でも外に出れば、また人が見えだすというのに、ここだけ。


 まさか嫌われているのだろうか?


 とはいえ、ここに並んでいる家々はどれも立派なものであり、少なくとも、住み心地が極端に悪いということはないはず。スーパーも近くにあって、駅は、ちょっぴり遠いけれど、それでもだ。まるで、目に見えないだけのお化けが住んでいるようで、気味が悪い。


 ふと、ゴーストタウンという言葉が脳裏に浮かんだ私は、なんだか途端にこわくなって、ぞわり、と湧き立つ鳥肌を抑えながら、足早に住宅街を抜けることにした。

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