1話 出会い
「魔竜を封印したぞー!!!!」
薄れていく意識の端で勇者が叫んでいる。
自らの身体が人間に変化していくのが分かる。
自らの魔力が抜けていくのが分かる。
(…)
音もなく意識が切れた。
「う…」ゆっくりと目を開ける。
優しい日光が顔に当たっている。ぼんやりとしたまま身体を起こすそうとする。が、上手く動かさず倒れ込んでしまった。慣れない人間の身体のせいだ。(勇者め余計な事を…)
なんとか身体を起こして辺りを見回す。
「…?」
石でできた建造物が倒壊し、植物が生い茂っている。それに、人間が一人もいないのが気になる。
昔は数えきれないほど溢れかえっていたのに。
そういえば同族達…ドラゴン族の皆は元気だろうか。ドラゴンは不老不死だから人間に狩り尽くされていないと良いが。そもそもドラゴンは世界最強最大生物だ。人間ごときに倒せるはずがない。
(俺は封印されただけだからセーフだと思いたい)
「大丈夫…ですか?」不意に背後から声をかけられた。驚いて振り返ると一人の人間の少女が座っていた。封印から目覚めたばかりで勘が鈍っているのかもしれない。
「あの…」少女がもう一度声をかけてきた。
「何だ」ドラゴンは不老不死に近い。数百万年も生きていれば多種族の言語も理解できるようになる。
「いえ…人気の無い所で倒れていらっしゃったので具合がすぐれないのかと…」と少女が恐る恐る告げた。人間ごときに心配される日がくるとは。
「別に大事ない」
それよりも俺は勇者にこの身体を元に戻させる必要がある。角と尾が残っているだけマシかも知らないが俺はドラゴンひいては魔竜クラスだ。プライドというものがある。すぐにでも勇者の元に行かねば。
「おい人間。勇者はどk…ッ!?」
勇者はどこにいる。と言う途中で少女の顔を見て絶句した。白銀の少しウェーブがかかった長い髪に
青い瞳。
「貴様は…勇者シルク!!」
絶句した理由それは俺を封印した勇者シルクに瓜二つだったからだ。
「私の名前はユキですが…」
不思議そうに首を傾げている。しかしよく見ると勇者シルクより優しい目をしている。瞳の色も少し違う。空のようにとても澄んだ瞳だ。
『美しい…』
思わず竜の言葉で本音がこぼれ出た。
吸い込まれそうな空の色は俺が何より好きな色だ。
「あの…大丈夫ですか?」
勇者も人間だ。人間の事は人間が一番知っている。
「俺は魔竜。だが勇者にこの人間の身体にされて困っている。人間、元に戻る手助けをしてくれないか望みの一つや二つは叶えてやる」
少女は不思議そうにこちらを見ていたが角と尾の存在を見てようやく信じたのか
「はい。あの…一つお願いしたいことがあるんですが良いですか?」
と申し訳なさそうに返事をした。
「構わない。大体の人間の望みくらい俺なら簡単に叶えられるだろう」
そっけなく返すと嬉しそうな顔をして
「実は…数日前疫病で私以外集落の人間が亡くなってしまいまして…。私一人では到底生きていけないと困っていたんです…なので魔竜さんが元に戻るまでで構わないので私が一人で生きていく力をつける手伝いをしてくれませんか?」
どうりで彼女以外の人間の姿が見えないわけだ。
魔力もほとんど使えない今、思ったより簡単な願いで助かった。
「あぁよろしく頼む」
「こちらこそです!」
ユキが少し微笑んで返事をした。
『可愛い…』