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デマ

作者: 楽部

 SNSで、元研究者は訴えていた。


 この新薬には効果がある。

 感染症には罹らない。

 有害事象のリスクはない。

 安全性の問題はない。


 承認されたばかりの新薬は、世界中に流行している感染症に対するものとして作られた。例示されるデータから高い有効性が伝えられ、不安視される短期間での完成には、先んずる研究が裏付けとして示される。しかし、広報のごとく一方通行で情報が流れてくる社会では、疑念が浮かんだり、逡巡に及んだり。逆行する声も漏れ出して、錯綜するネガティブな言説に、渦巻くよからぬ企み。レッテル、嘲笑、制限、圧力。それらが氾濫、混ざり合えば、病以前、デマゴギーは思うようにコントロールできない。


 そのため、彼は訴え出た。自身は新薬開発者の一人だった、と経歴を明かし。


「世界はデマであふれています。誰かがそれらを作り出し、操作している。皆さんは真実を知る機会すら与えられていない」


 だから、発言することにしました、と彼は述べる。忸怩たる思い、強い決意を纏わせているのだろう。解説は始まる。


 背後のホワイトボードに書き連ねられた用語。基礎研究から製薬へ至る経緯。失敗とそこで得られた新たな知見。さらにどのような問題が生じ、それをどのように改良され、出来上がっていったのか。そして最新の試験、成果の是非は。内部に居た者でなければ知り得ない情報と、そこからもたらされる全容。


「故に流されている、それらデマに操られないで下さい」


 余白に大きく書き込んだ、最後の言葉。彼は、その本来の意味を意識するよう殊更繰り返す。


「もう一度言わせてもらう。皆さん、信じて頂きたい。この新薬には…」


 この新薬には効果がある。

 感染症には罹らない。

 有害事象のリスクはない。

 安全性の問題はない。


 全てデマである、と。

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