表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

真実の嘘〜4月1日〜

作者: クソ人間

「結婚してください!」

「よろしくお願いします」


この話は高致死率の感染症が蔓延する時代の中でのお話です。


「ハルくん起きて遅刻するよ」


俺の名前は宮本波留。

今俺を起こしにきてくれたのは俺の妻、宮本結愛。

今年で結婚二年目になる。

俺はベッドからでてキッチンに向かう。


「おはようユメ」

「おはようハルくん。今日はごはんとパンどっちがいい?」

「今日はパンがいいな」


キッチンではユメが朝ごはんを作ってくれている。

その姿を見ているだけで今日も一日頑張れる。

世間一般的にどれぐらいの年月が過ぎれば夫婦の愛が落ち着いてくるのか分からないが、そろそろユメと生活を共にして二年経つ俺の愛は、落ち着くことがない。

なにがいいたいかというとまだまだ新婚のようにラブラブなのだ。

この気持ちはあと何年たてば落ち着いてくれるかな?

なんて考えている間にごはんの準備が終わる。


「いただきます。おいしい!」


するとユメが笑ったのでどうしたのかと思うと


「本当に美味しそうに食べるね」


と、かわいい顔で言ってきた。

そんな朝の会話をしながら朝ごはんを食べ終えると仕事に行く準備をして玄関に向かう。


「はいカバン。ネクタイ曲がってるよしゃがんで」


本当にネクタイが曲がっているのかは分からないけど毎日そう言って頬にキスをしてくる。


「ありがとう。それじゃあ行ってくるね」

「いってらっしゃい」



ーーー



「ただいま」

「おかえりーごはんできてるよ。それとも先にお風呂にする?」

「ごはんでいいよ」


家に帰ると当たり前だけどユメが出迎えてくれる。俺以外の人が家に居てくれる。こんな当たり前がすごく嬉しい。



ーーー



ごはんを食べ終えお風呂に入りリビングでユメとゆっくりする。


「ユメ、もうすぐ二回目の結婚記念日だけどしたいこととか欲しい物ある?」

「・・・したい」

「?」

「こっ子供が欲しい!」

「分かった。レストランの予約とかいろいろ準備しとくね」

「お願いします」



ーーー



「いただきます!」


今日もユメの作ってくれた朝ごはんを食べる。

俺は大好きな卵焼きに箸を伸ばす。


「珍しい。今日は塩味の卵焼きにしたんだね」

「えっ、う、うん。嫌だった?」

「嫌じゃないよ。美味しいよ」


そして今日もごはんを食べ終え、仕事に行く準備をして玄関に向かう。


「はいカバン」


キスがない。


「ユメ?今日はネクタイ曲がってないの?」

「えっ!?まっ曲がってないよ」

「そっか、それじゃあ行ってくるね」

「いってらっしゃい」


そう言って俺は家を出て考える。

まさか本当に毎日ネクタイが曲がっていて、そのついでにキスをしていたというのか?

だとしたらこれからは逆に、毎日わざとネクタイを変に曲げておかないといけないな。



ーーー



「ハルお昼行こうぜ」

「おう」


こいつはヒナタ。

小さい頃からの親友である。

ユメとも知り合いだったりする。

俺達は会社を出て近くの飲食店でお昼を食べる。


「何してんの?」

「メール」

「ユメちゃん?」

「それがさ」


俺は朝の事をずっと考えていてひとつ気になることがあった。

今朝のユメは少し元気がなかった気がする。

そしてキスをしなかった。

もしかすると体調が悪くて俺にうつしたくなかったのかもしれない。

ユメはいつも体調が悪かったりすると俺に隠そうとする。


「今朝ユメの元気がなかった気がしてさ。もしかしたら体調が悪いんじゃないかと思って」

「ユメちゃんだもんな。ちゃんと気にしてやれよ」


俺は「ユメ?」とメールしてみる。

すると「ごめん今忙しい」と返信がくる。

とりあえず大丈夫そうだ。


「でも大丈夫か?最近やばいウイルスが流行してるけど」

「だから心配でさ。まあ感染力はすごい弱いらしいから、よっぽど運が悪くない限りかからないと思うけどさ」

「じゃあ今日は早く帰らないとな」

「そうだな」



ーーー



仕事が終わって会社を出る前に、ユメに「今から帰る」とメールをする。

電車に乗ってスマホを取り出し、メールを確認するが既読が付いていない。


「メールに気づいてないのかな」


俺は駅に着いて電車を降りると、足早で家に帰った。

家に着いてインターホンを鳴らす。

誰も出て来ない。

電車でメールを確認してから感じていた不安が、少しずつ大きくなるのを感じながら俺は鍵を取り出しドアを開けた。


「ただいま」


返事がない。

家に入ってユメを探すがいない。

出かけているのだろうか。

スマホを取り出してユメに電話をかける。

するとすぐそばでユメのスマホが鳴った。

おかしい。

普通スマホは持っていくはずだし、ユメなら出かける時、なにかしらメールなどをすると思うのだが。

するとその時俺のスマホが鳴った。

ドキッとして電話に出ると


「奥様が感染症にかかりました。入院になりますので、奥様の着替えなどを準備して至急病院に来て下さい」


俺はその場に膝から崩れ落ちた。



ーーー



私の名前は宮本結愛。

夫のハルくんと結婚してもうすぐ二年経つ。

すると目覚ましが鳴った。

時計を止めてベッドから出る。

なんだか頭がぼーっとする。


「風邪かな」


キッチンに立って朝ごはんを作ってハルくんを起こしにいく。


「ハルくん起きて」


ハルくんが顔を洗ってキッチンに来る。


「いただきます!珍しい。今日は塩味の卵焼きにしたんだね」


えっ!砂糖と塩間違えた。

自分が思っている以上に体調が悪いのかもしれない。


「えっ、う、うん。嫌だった?」

「嫌じゃないよ。美味しいよ」


ハルくんがごはんを食べ終え、仕事に行く準備をして玄関に向かう。

今日は風邪っぽいしキスできないな。


「はいカバン」


なんだかハルくんが何かを待っている。


「ユメ?今日はネクタイ曲がってないの?」

「えっ!?まっ曲がってないよ」

「そっか、それじゃあ行ってくるね」

「いってらっしゃい」


ハルくんが会社に行くため家を出ていった。


「はぁーびっくりした。絶対今のって、毎日ネクタイ直すの、キスするための嘘だって分かってるじゃん!」


ユメは少し顔が赤くなった。


数時間後ユメは本格的に体調が悪くなっていた。


「はぁはぁ」


そんな時スマホが鳴る。


「ハル、くん」


ハルくんからのメールだった。

見てみると「ユメ?」とだけ書いてあり、なんの用なのかは分からなかった。

心配をかけないように「ごめん今忙しい」と返信する。

その数十分後本当にやばいと思ったユメは、何とか救急車にコールだけすると、その場で意識を失った。



ーーー



俺は自宅の天井を見ていた。

詳しくいうと向いているだけで天井なんてまったく見ていない。

すごく考え事をしているような、何も考えられず、ぼーっとしているような、そんな状態でどれくらいの時間が経ったのだろう。


「会わせてくれたっていいじゃないかよ」


病院から電話がかかってきたあと俺は荷物を持って病院に向かった。

病院についてすぐユメに会わせてくれと言うと先生に止められ話を聞いた。

先生の話を頭に入れるのは大変だった。

面会禁止という話をされ返事をしてユメに会わせてくれと言うともう一度同じ話をされる。

そんなことを二〜三回繰り返した気がする。

もう一つ強烈に頭に残っているのは高致死率という単語だ。

先生に覚悟をしておいてくださいと言われたが何の覚悟をしろというんだあの先生は。


「覚悟なんてできるかよ」


スマホを見るとユメからメールがきていた。

「ごめんね」と書いてある。

俺は気持ちを切り替えユメに電話をかけた。


「ごめんねハルくん」

「なんで謝るんだよ。ユメは何も悪くないだろ。そんなことより体調は大丈夫なのか?」

「うん。今は全然元気だから心配しないで」

「そっか。じゃあ今日はもう夜遅いからまた電話するね」

「うん。おやすみ」

「おやすみ」


電話が終わって俺は寝る準備をしてベッドに入る。

が、全然寝ることが出来なかった。

俺はベッドを出ていつもはしまっている結婚指輪を取り出し指に付けてベッドに戻った。


「一人だと広いな」


そう呟き夜は過ぎていった。



ーーー



それから数日経過した。

朝一人で起き仕事に行って誰もいない家に帰る日々。

仕事も全然やる気が出ない。

それどころか


「宮本くん。ここなんだけど、また間違ってるよ」


今日もまたきたよ。


「申し訳ございません」

「君やる気あるの?クビにしてもいいんだよ?君のかわりなんてたくさんいるんだからな」


本当にうるさい。


「聞いてんのか!」


あーはいはい聞いてる聞いてますよ。

すると


「申し訳ありません。今回だけ許してやってください」


なぜかヒナタが俺のかわりに頭を下げてくれていた。

そして、次はないからなと言って上司が戻っていく。

ヒナタは何も言うことなく仕事に戻った。



ーーー



そしてお昼になった。


「ハルお昼行こうぜ」

「ごめん。ちょっと用事があるんだ」


そう言って俺は会社をとびだした。

俺は駅に向かって歩く。

改札を通り駅のホームに着く。

すると誰かに肩を掴まれた。


「どこ行くんだよ」


そこにはヒナタがいた。


「家に帰るんだよ」

「まだ仕事は残ってるぞ」

「その仕事をするやつは他にもたくさんいるみたいだからな」

「なんで何もかも諦めたような顔してんだよ」

「そりゃ諦めもするだろ。ユメが感染症にかかって死ぬんだから!」

「ふざけるな!そんなことは知ってんだよ。ユメちゃんから電話があって絶対元気になるからそれまでハルをよろしくっていわれたんだからな!なのにお前が諦めてお前が信じてやらなくて誰が信じてやるんだよ!」


俺は諦めていた。高致死率というだけで絶対ではないのに、ユメが諦めていないのに俺が信じてやれていなかった。


「お前に何がわかるんだよ。けどごめん、ありがとう」


その後俺達は会社に戻った。


「ごめん先に戻っててくれ」


了解と言ってヒナタは先に自分の席に戻っていった。

スマホを取り出してユメに電話をかけた。


「もしもしハルくん?」

「ユメ、俺お前のこと信じてるから。元気になるって信じてるから。仕事頑張っていつ帰ってきてもいいようにしてるから。だからユメも頑張れよ」

「うん!私頑張るから。だからハルくんも信じて待っててね」



ーーー



数週間後


俺はユメを信じて帰りを待っていた。

正直信じてはいるが、最悪の事態をいつも考えてしまうし、とても心配だ。

するとスマホが鳴った。

病院からだ。

不安になりながら電話に出ると


「奥様の容体が悪化しました。非常に危ない状態です。こちらも全力を尽くしますがもしもの覚悟もしておいてください」


俺は居ても立っても居られなくなって家を飛び出した。



ーーー



俺はユメにプロポーズをした思い出の場所にきていた。

当時は人気のスポットだったが今は人気がなくなり夜というのも相まって誰もいなかった。

それに当時は夜も明るかったのに街灯が一つぽつんとあるだけになっていた。

そこで俺は結婚指輪を握りしめユメのことを信じていた。

そしてどれくらいの時間が経ったのだろう。

俺はスマホを取り出し時間を確認すると、日付が変わって四月一日になっていた。


「エイプリルフールなら今この状況を嘘にしてくれよ」


だがその声は誰にも届くことはなかった。



ーーー



俺は安置室でユメの手をずっと握っていた。

何時間そうしていただろう。

俺は寝てしまっていた。

二人で寝るのはいつぶりだろう。

とても気持ちよく温かさと安心感を感じた。

目を覚ますとユメが俺の頭を撫でていた。


「ユメ?」


そんなわけないどうしてと頭では考えているが目からは涙が溢れて止まらなかった。


「どうして?」

「ハルくんが信じてくれたからだよ」

「俺は何もしてない。出来なかった」

「そんなことない。ありがとうハルくん」


俺は声をあげて泣いた。

ユメも一緒に泣いていた。


「おかえりユメ」

「ただいまハルくん」





〜完〜

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ