表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/39

Seek it

 西地区一二三の家にタナの気配はない。

 まだ帰っていないらしかった。


「これからどうしような」

 おみやげが詰まった紙袋をテーブルに置いて、ソファに躰を投げ出す。

 深月は傘立てにロッドを荒っぽく突っ込んだ。


「迷路に出口がないなんてひどいよね」


 地下60階までしかない地下76階建てなんて詐欺だ。

「でもさ、あり得ないよな」

「あり得ないって?」

「地下60階から上がない地下迷宮なんてあり得ないだろ。そんなの地上60階から下がないビルみたいなもんだ。下から迷宮を造ったわけでもあるまいし」

「だって……みんなずっと探してるのに見つからないんだよ?」

「俺たちも一応探してみるか? 59階の階段」

「でも……」と深月は考え込んでしまう。

 今まで誰も見つけられなかった階段が、俺たちに見つけられるとは思えない。しかも上の階ほどモンスターは強くなる。リスクを冒してまで、徒労に終わるだろう確認をする必要性が見えない。


 ――行き詰まり。


 停滞した大きな流れに捕らわれた感がある。

 どうせ何もできないなら、76階の街に戻る、という選択肢もある。 

 正直、この街にとどまるくらいなら、76階の街の方がましだ。

 けれど、俺はその提案をしない。

 同じ過ちは繰り返さない。


「ただいまー」

 タナが帰ってきたのは、空が橙に染まり、夕飯を気にし始めたころだった。

「遅かったな。迷子にでもなったのか?」

「そーやくんはまたそうやって子ども扱いする」

 子ども以外の何だというのか。

「あ。それ食っていいぞ」とテーブルの上の紙袋を指差す。「ごめん、だんごはなかった」

 タナは紙袋を開いて「おお、どーなっつ!」とにんまりした。

 だが、おもむろに紙袋の口をたたみ始める。

「食わないのか?」

「そーやくんとみづきちゃんは、夜ごはんなに食べるんだ?」

「どーしようなぁ」


 酒場にはもう行きたくない。

 面倒だけど何か調達する必要がある。


「実はな。あちしは隠れ家を見つけた」

「隠れ家?」

「そう、誰にも言うなと言われた」

「じゃあ、俺にも言っちゃ駄目じゃないか」

 ううう、とタナは口をへの字にした。

「そーやくんとみづきちゃんにならいいとおもったのに。ひみつをおしえてあげようとおもったのに」

 タナの目に涙がたまっていく。

「そーちゃん、タナちゃんがせっかく!」

 深月が俺を責める。

 確かに今の俺の対応は無い気がする。


「タナごめんな。――で、隠れ家には何が隠れてるんだ?」

「隠れ家には、料理人が隠れている」

「ほう」

「そして美味しいごはんを食べさせてくれる」


 なるほど。


「タナ、それはな。隠れ家じゃなくて、隠れ家的なお店っていうんだ」

「このお店のことは話しちゃだめだと、おやじに言われた」

 おやじ、というのは、店が混むのが嫌な頑固店主なのだろうか。

 そこまでして秘密にしたい店がどれだけ旨いのか気になるけれど、やはり人が嫌がることはすべきではない気がする。押しかけるべきではない。


「そーちゃん、どんなお店だろうね?」


 けれど、深月の目は強く輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ