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2章 Fake it

     二章 Fake it


「キミ、迷宮舐めてるでしょ」


 矢夜也に「迷宮にふさわしい格好で集合」と言われ、例の剣を引っ張り出したけれど、皮の鎧を着るのはどうも馬鹿げている気がして、結局いつもの制服を選んだ。やっぱりこのブレザーが一番馴染む。

「油断しなければ問題ないレベルだって、前に矢夜也さんが言ってたから」

「だから、鎧がなくてもいいと思ってるそれが油断だっつーのよ」

「だってあれ、格好悪いんですもん」

 革の鎧の最大の問題はそのダサさにあった。

 剣は格好いいから、いい。

「それにそんなこと言ったら矢夜也さんだって……」

 矢夜也はいつもの黒スーツに身を包んでいて、鎧は着けてない。腰に刀は帯びているものの、生足晒したタイトスカートの方がよっぽど舐めているような気がする。

「私は慣れてるからいいのよ」

「大人は『大人だからいいの』とよく言うんだ」

 理不尽だ。

「まあ確かに、鎧は動きづらくなるから着ない、って理屈もあるからいいけど……」

 己の矛盾を正当化し始める矢夜也。

 大人は、子ども相手の間違いは認めず、言い訳で逃げる。子どもに謝ることを敗北か何かと思っている。「いいけど……」いったい何だというのか。

「……けど、そっちのそれはなんなのよ」


 そうなんですよねぇ――。



『わたしは上に行ってみます。ごめんなさい。 深月』

 朝、テーブルの上にその置き手紙を見つけて、俺は教会に駆け込んだ。

 深月が帰りたがっていたこと、明らかに怪しい湯田の家に行ってみたが、湯田も姿を消していたことを矢夜也に相談すると、「66階に向かったわね」と言った。


「66階って何かあるんですか?」

「66階にも街がある。早く連れ戻さないとだけど……」と何事か心配する矢夜也を、「矢夜也さん、行ってあげてください」と一途さまが察する。

「ありがとうございます。――そうと決まれば早速追いかけるわよ、迷宮の前に一〇時集合にしましょう。迷宮にふさわしい格好で」

 弁当とか持って行った方がいいのかな、と思うものの訊ける雰囲気じゃない。ふざけてると思われそうだ。


「そもそも迷宮にふさわしい格好ってなんだよ……」

 自分の部屋、クローゼットの前、時間差で疑問に気づく。

 と、傍らにたたずむ不安げな視線に気づいて、弁解の必要を感じた。

「これから深月を探しに迷宮にいかなきゃなんだ。いつ帰ってこれるかわからないし、もしかしたら今日中には帰ってこれないかもしれない。ごめんな」

 タナを一人にするのは忍びないけれど、仕方がない。

 せめて66階までどれくらい時間がかかるのか訊いておけば良かった。

「すぐ行くの?」

「一〇時前には出なきゃ」

「わかった」

 いかないでーと、少しはごねるかと思ったけれど、タナはすんなり家を出て行った。非常事態にわがままは通せないと、子どもなりに理解したのかもしれない。ごめんな。深月を連れてすぐ戻って来るからな。タナの背中を見送りながら思う。


 ブレザーに着替え、剣を握り、待ち合わせ場所の迷宮入口にたどり着く。

 まだ矢夜也は来ていなかった。

 迷宮を見上げる。という表現は変だけれど、街側から迷宮を見ると、それは巨大な塔にしか見えなかった。ここが地下76階だという確証が無い以上、これは塔だと考える方が自然だ。上の方は雲がかかっていて見えない。街の南を覆っているのは一面の壁で、とてつもなく塀の高い刑務所のようにも見える。刑務所を塀に沿って歩いているときの、壁が無限に続くような感覚。どこかに角はあるのだろうけど。


「お待たせした」

 声に振り向くとタナがいた。なぜかゴスロリチックな黒に身を包んでいる。

「見送りに来てくれたのか?」

 タナは首を傾げる。

「違う。迷宮に行くって言ったから」

 話が噛み合わない。

「ふさわしい格好をしてきた」と、魔法のステッキじみたロッドを構えたタナを見て、ようやく意図を理解した。

「もしかして……一緒に行くつもりか?」

 タナはロッドをぶんぶん振り回すことで、その心意気を示した。

「あちしは闇の魔法が使えるからな」

 ロッドを突き出し、口からしゅびびびと効果音を発するタナの目には、闇の魔法が見えているのかもしれなかった。

「あちしをつれていけ。損はさせない」

 そしてついに、仲間にしてほしいRPGのキャラみたいな台詞を放った。


  はい

 →いいえ


「駄目」

「あちしをつれていかねばしぬぞ」

「帰りなさい」

「……うう」

「危ないから駄目」

「ふえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」



「――というわけなんで、一緒に連れて行ってもいいですかね」

 迷宮に対する認識の甘さをブレザー姿で示した俺は、その言葉でさらに矢夜也のため息を引き出した。

「あちしはタナといいます。二二歳だから問題ありません。どうぞよろしく」

 ロッドでびしりとポーズを決めたタナを見て、矢夜也はさらに深いため息をついた。

「一人にするのは可哀想なもんで……。後ろにくっついてるようにさせますから」

「キミ、どうせ死んでも生き返らせてもらえるからー、とか甘く考えてるでしょ」

「いえ、そんなことは決して」

 あります。


 ――が、もちろん無闇に危険な目に遭わせるつもりはない。


「死んじゃったら、この街にいったん戻らなきゃいけないんだからね」

 そういう手間もあるか、と思う。

「やっぱり危ないですかね」

「まあ私もいるし大丈夫だけど……ちゃんと離れないようにしてて。迷子だけは危険」

「それはしっかりと」

 やたー、と門に駆け出すタナ見て、矢夜也は首を傾げる。


「あんな子、この街にいたっけかな……」

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