合流
「お、おい、大丈夫なのか?」
「わからねぇ、オロチのやっこさん、いきなり入って来て客と喧嘩になっちまった!」
ドワーフ鉄板の調理師ドワーフ達は、店外にて自らが働く店の騒ぎを見ることしか出来なかった。いきなりだった、突然に入ってきたと見るや、誰かを見つけて喧嘩が始まったのだ。今でも食器が割れる音、何かが壊れる音が鳴り響いている。
「ぎゃあああ!?」
「ぐげぇああ!!」
その最中、店の外の道に二人の男が、地面を転がって飛び出して来た。ドワーフや野次馬達の前に転がって来た男二人を、先程まで鉄板で調理をしていたドワーフの二人は見下ろす。
「や、やれ恐ろしや、流れ人のオロチがこんな!」
一人は、顎部が崩壊して口内の歯や歯肉が割れ、血をダクダクと垂れ流し、もう一人は内臓をやられたのか、腹を押さえながら血を吐き出して呻いている。
その転がって来た先で、1人の男がゆるりと歩きながら向かって来ているのを見た。ドワーフの2人は身体を総毛立たせた。
目の前に居るのは『人間』である。人間の筈だった。姿形は確かにそうだった。しかして、ドワーフの目には別の何かが微かに映っていた。さらに『匂い』だ。
いや、本来ならそんな匂いなど感じる筈ではない距離である。それでも嗅いだのだ、2人は。そして感じたのである。
『獣臭』を、まるで野に放たれた野生の獣、人ならざる臭いを、迫り来る人間から嗅ぎ取ったのだった。
「すいません店員さん、騒がしくしてしまって」
獣臭とはかけ離れた、黒髪の好青年がそう言って頭を下げた。しかし、好青年は転がって行った2人を見下ろして、両手の甲から拳を作る指につたう血をみて、服でそれを拭う。
「ところで、ドワーフのお二人さま」
「は、はい!」
「なんでしょう!?」
そんな、獣臭漂わす好青年に尋ねられ、ドワーフ2人は固まった。獣に睨まれた様だった、決して睨んではないが、雰囲気が、匂いがそう錯覚させてしまった。
「オロチの本拠地なり事務所か、ご存知ありませんでしょうか?」
「お、オロチのですか?」
「えぇ、どちらにございますか?」
「オロチの本拠地でしたら、あの中央にある石の建物がそうです」
ドワーフは尋ねられ、答えないという事はできなかった。まるでその瞳が全てを見透かしている様に澄んでいるのに、漂う獣臭が言葉を間違えた刹那襲い掛かろうとするのではと思わされて仕方なかった。
「ところで、貴方がたドワーフやらエルフは……オロチに無理矢理にこうして働かされているわけで?」
青年は更に質問をぶつけて来たので、ドワーフはすぐに答えた。
「ええ……何しろ、我々は中央の流れ人の力には逆らえませんので」
「流れ人……」
「中央で呼び出された異界の人、あんたもそうなんだろう?奴らオロチは、我々をこの街に攫って無理矢理に働かせているんです」
それを聞いた青年は、店を見て、ドワーフ達を見て、そして更に口を開いた。
「仮に、オロチが滅べばあなた方は自由になりますか?それとも、職を失ったりしますか?」
「え?いや、また故郷に帰るだけだよ、帰れるなら」
「あんた、オロチの奴らと戦う気なのかい?」
青年は、頷いてからドワーフ達に背を向けて、また店の中へ戻っていく。この数分間、自分達の身に何が起こり、店で何が行われたかなどドワーフ2人は知る由もない。ただ、また店の中から酷く痛々しい悲鳴が聞こえて来たのだけは確かであった。
「ぃいいぃぎぃいぃいいいい!!!」
円形鉄板の上で土下座をする輩が1人、革ジャンとジーンズのバイカーギャングスタイル、オロチの1人だろう。その頭を足で踏みつけるのは、茶髪に甘い顔の少年、中井真也だった。
「おやおやずいぶん堪えるねえ、そろそろ吐いたらー?」
中井は襲撃した一人を打ちのめした後、ドワーフ鉄板の上に投げつけ、土下座の体勢を取らせ焼き土下座による拷問を敢行していた。
なお、中井は椅子を持ち出し鉄板の外から相手の後頭部だけを踏みつけている為熱くない。しかし、吐けと言いながら顔は鉄板に押し付けられており、吐ける状況ではない。
只々、叫び声と焼ける音だけが響き渡る。
「ほらぁー、吐きなよーオロチの本拠地、ほら早くー」
ギリギリと後頭部を踏み躙り、叫びもあげれなくなったその時、ふと外から帰って来た町田を見てから中井は、焼き土下座しているオロチの輩の頭から足を離し、思い切り側頭部を蹴り抜いた。
何か破れる音がした、鉄板から転がり落ちうつ伏せに床へ落下して痙攣するオロチの構成員。そして焼き土下座の顔面を押し付けた辺りを見てから中井は目を逸らして椅子から降りた。
「中井くん、ドワーフから聞いた、オロチの本拠地は中央の石の建物、ビルの中らしい」
「何だ、簡単に見つかっちゃったね?皆知ってそうな感じでした?
「さぁ……そちらは?」
「立派に無言貫きましたよ、根性あるなーって」
嘘である、喋らせる気もなかったのである。只々甚振っただけであるが、町田の手前そういう事にしておいた。
「2時間経ちましたかね?」
「いや全く……1時間少しくらいか」
そして、約束の二時間にはまだ程遠いなと二人して話ていると……。
「あ、居た居た、中井、町田さん」
騒ぎを聞きつけたのか、店の外から神山が声を掛けてきた。その声に町田と中井は小走りで店外に出て行く。
「神山くん、河上はどうした?」
「エルフと遊んでるんじゃあないですか?指名したんで付き合いきれねぇから離れたんっすよ」
「いや、て言うか神山くん、あちこち血がついてるけど?」
神山は河上がエルフと遊ぶから離れた事を伝えたが、中井は神山の服やら肘、膝あたりに血が付着しているのを見て、何があったのかと尋ねた。
「さっきそこで青台なんたらとか言う、オロチの副総長だか蹴り倒してきた」
「青台ぃ?え、今あいつが副総長なの?ハゲじゃなかった?」
「知っているのか、中井くん?」
「現世のオロチじゃパシリでしたよたしか、えー……随分な人事だな翡翠の奴」
余程の成り上がり者だったのか、人事ミスだったらしい、青台なる副総長は。しかし能力やら魔法やらで冷や汗をかくくらいは確かに力が増大していたのも確かだ、神山は爪先を地面に打ち付けて靴の履き心を確かめながら二人に目を合わせた。
「で、どうするか、行くか?中央ビルがオロチの本拠地らしいが?」
町田より言われる、オロチの本拠地。町田が言いながら指さした先は、廃ビルが聳え立っていた。核弾頭をくらって残ったビル、そんな印象が残る廃ビルを見上げて、中井と神山は二人して口角を吊り上げた。
「行きましょうか、いよいよって感じだなぁおい!」
「何?最初乗り気じゃなかった癖に、現金だね神山くんって」
「では参るか、河上は……いずれ来るだろう」
「そっすね、遊んでる河上さんが悪いという事で」
3人は廃ビルへ足並みを揃え向かい始める、その光景を、店を荒らされたドワーフ達や野次馬は、ただ茫然と見るしかなかった。
「遅いっすね」
コハクドのあるホテルの前で、この世界には無い筈の紙タバコを燻らす若人が、ホテルを見上げながら呟いた。
「思いの外てこずってんのかもなぁ、エルフ女と一緒らしいし」
傍には鉄廟を打ち付けた棍棒やら、粗悪な剣が乱雑に置かれ、ただ仲間たちの帰りを待つオロチの面々である。しばらく前、TEAM PRIDEの一人がエルフの女を連れて入ったと情報が入り、無論襲撃の命を受けた面々は、襲撃組と待機組に分かれて行動していた。
襲撃組がホテルに入りしばらく、音沙汰がなくタバコを燻らせていたらしい。
そうしてしばらくだった、タバコを燻らせていた男の前に、いきなり何かが落下して来たのだった。
「おわぁ!?な、なんだこ、りゃーー」
落下して来たものに思わず立ち上がりタバコを落とすオロチの組員の一人、しかし、それが何か理解する前に後ろから声がかかった。
「そこの貴様ら、オロチの輩か?」
「あぁ!?な、あ、あ?」
振り返れば、理解に苦しむ光景がそこにあった。まずは真白な、裸体の女体の背中、それには所々返り血の斑点が付着している。そしてその女性が抱きしめる男もまた裸であった。しかし、右手に血濡れた刀、左手には衣服を掴んでおり、如何なる状況か理解に苦しんだ。
「それ、己らを束ねていた奴らか?」
「あ、セイタロ、もう」
「お、すまぬな、立てるか?」
その血濡れた刃を、落下して来た物へ突きつけると、女体が声を上げて体から離れ、その場にへたり込む。そして晒される金剛に呆気を取られながら、待機組は男の指し示す落下物を見た。
それが、先程ホテルに入った仲間であり、TEAM PRIDE襲撃組の指揮を取った一人、その首であった事をやっと理解した。
「ふむ、それで……やるかね?君ら?」
そしてまるで、片手間とばかりに標的であった河上静太郎は、ズボンを履きながらベルトを締めて、服を着ようとしたがに濡れていた事に気付いてそれを捨てると、向かってくるのかと尋ねた。
つまり、襲撃を逃れて降りて来たのだ、この劣性召喚者は、それを理解してから得物を握り出す待機組達。
で、あったが。その獲物を握ったが刹那、既に河上の姿が、タバコを燻らせていたオロチの面々の一人へ飛びかかっていた。
この場に居たのは、その一人を含め八名だった。
まず、その一人の首が宙を舞った。
飛びかかりざまに首薙ぎ一閃、その背後に立ち尽くしていた二人目の右手を逆袈裟切り上げにて斬り落とし、またも首を横なぎに切り裂く。頸椎に至らねど、気道を切り裂いた。
その勢いのままに、身体を捻り上げ、横にいた3人目の腹を刃が通れば、紅い線と共に腹が開かれ、臓腑が吹き出した。
4人目でようやっと反応して、武器を手に取り出したが、その4人目の上顎部から頭部が吹き飛んだ、口から切り裂かれたのだ。5人目は上段から振り下ろそうとしたが、それより早く袈裟に腕ごと纏めて切り裂かれた。
6人目、背中を見せて逃げたが宙を舞う、自らの下半身だけが走り出すのを空から見た。
7人目、景色が二つに割れた、唐竹に頭部を割られた。
8人目……立ち尽くし、歩み寄る河上を前に、木偶となり、腹を横に裂かれた。そのまま膝から崩れ落ち、腹を押さえていると、まるで介錯の如く横に移動した河上が、一言呟いた。
「FATALITY」
上段より振り抜いた刃が、8人目の顔面を横より切り裂いた。そして、ずるりと顔面が蓋をずらすように落ちていき、綺麗な断面を覗かせながら脳漿を地面に零したのだった。




