静観か、無視か、はたまたそれとも……
谷村からオロチの屯する場所を聞いた僕は、こいつらをいかにして壊滅するべきか考えた。場所は意外にも近い、南英和田のバイクショップと併設された喫茶店で屯してバイクをいじっていると聞いた。倉庫街から数キロ圏内だった。
それからメンバーについても聞いた。二代目総長を張る男は『蛇原八千代』中学時代には教師へ灯油を浴びせ、燃やして家庭裁判所にも行った輩らしい。
初代メンバーだったらしいが、そのあまりの悪行に初代総長より追放させられて、チーム解散後に名前を勝手に借りて名乗り、面影なき暴走族にしてしまった。
現在17歳、バイクはゴリゴリに改造したGSX400インパルス。喧嘩は武器を使い容赦なく半殺しまでする。
谷村から聞けば、二代目オロチはそんな初代の活動内容から反発した輩、オロチと抗争した輩が集まった族らしい、まるで初代の旗を汚すかの様に。
別に族の旗が汚される事は知ったこっちゃないんだけど、僕が通う上方の学校やらこの辺で下痢便サウンド鳴らされたら寝れないし喧しいので、二度と立ち上がれないまで叩きのめす必要がある。
とは言えだ、全員相手に真正面から喧嘩するなど馬鹿はしない。せっかく金があるし、戦う術も叩き込まれたのだ、それをフル活用すべきではないかと僕は思いついた。
ーーそこから先、中井が語ったのは荒唐無稽な戦いだった。屯するバイクショップと喫茶店への偵察により、手薄な時間に襲撃した事。
オロチ全員へ埠頭に来る様メッセージと、半殺しにしたメンバー数名の写真をメンバーのスマホのSNSアプリから送信した事。
集まった所で、倉庫街に仕掛けたブービートラップにはめてバイクを破壊した事。
そして……総長、蛇原八千代との一騎討ちにより頸椎を破壊して勝った事。
その旗と残った彼らのバイクを集めて燃やし、爆破した事。
たった一人に一晩で壊滅させられ、主犯たる中井はそのまま英和田町から一時逃走し、アリバイ作りを完了して捜査から逃れた事。
こうして、二代目オロチは解散して英和田町に平和が戻ったのだと中井は話を終えたのだった。
「成る程、で……どこからが嘘だ中井?」
「ほらねー……だから話したくなかったんだ」
神山の苦笑いに、中井はうなだれて話した事を後悔した。しかし、どう考えても嘘にしか聞こえない話なのだから、仕方がないだろうと神山は中井に聞くしかない。
「だってさー……爆薬だのどっから調達したんだよ、確かそういうのは届け出が必要なんだろ?」
「免許無しで買える材料は自前だよ、後は……札を握らせたんだよ、地元の花火師にね、下方の人間は大概金で動くから」
「つーか、お前の師匠ってマジ軍人だったんだな、小学生に爆弾の作り方叩き込むってどんだけだよ」
話の補填を神山に解説する中井、それでもにわかに信じられないと宣う中、河上が口を開いた。
「神山くん……中井くんの話は真実だ、うちの会社が英和田の開発事業で関わっていて、倉庫街で爆破事故があったのを聞いた」
「えっ!?」
「あれ君がやったのか、随分派手な事したねぇ」
それが真実であると、河上が言った。神山も、町田も河上を見る。河上は中井にクスクス笑いながら、その時の事を思い出して話し始めた。
「新聞とニュースでは族が廃倉庫で集会して花火をしていたら、放置されていたドラム缶のガソリンが漏れていて花火で引火して爆発だったらしいな?実際は?」
「そこへオロチを集めてから、倉庫の柱を爆破したんだ、逃げれたやつは総長だけでさ、他はバイクごと生き埋め、倉庫自体が年代物でボロボロだったのか、派手に壊れたけど死者は居なかった……警察と消防が来る前に逃げようとした蛇原を見つけて最後はーー」
ポキッとね、とはにかみながら中井は右手を鷲掴む様な形にして手首を捻った。
この時の顔を見て、神山は中井に対して感じたものがあった。
『異常性』だ。
いや、確かに自分も喧嘩や戦いで禁じ手をこの世界で使ったりはした。しかしまだ命を奪うまでは行っていない。禁じ手を使える喜びを感じているのは否定しない。河上もまた、剣術に狂いその力を振るっている。町田は現世で一度、獣が飛び出てしまった。
だが、何だと神山は胸中に淀みを感じたのだ。
何だか違うと、中井だけは何かが違うと感じ取れるが、神山の頭にはそれを説明する語彙や知識、知恵がなかった。
「そう、そっか……じゃあそのオロチのメンバーがこっちで悪さやってて、河上さん贔屓のポセイドンとやりあってると」
「という事か、ではオロチは、ポセイドン繋がりで我々にも襲撃したという事か」
「あー言ってた、嘉戸って奴が現れて?ポセイドンとクライムボーイズに入れ込むなって」
これらを纏め終え、此度の襲撃の全容を把握したTEAM PRIDEの面々。ではこれから、どういった対応をすべきなのかと議題が移る所で、町田が待ったを掛けた。
「む?中井、クライムボーイズとは?」
中井も口に出した、ポセイドンとは違う組織の名前。嘉戸がポセイドン同様入れ込むなと言った組織、知っているのかと町田は中井に聞いた。
「え?いや、嘉戸が言ってたけど……知らないよ、河上さんは?」
中井は名前は聞いたが、全く知らぬと河上に振る。
「聞いた事ないのだが……」
ポセイドン繋がりで知っているだろうと思った河上も、知らぬ存ぜぬと宣うや、神山を見た。
「いや知らん、全く聞いた事ない」
河上の視線に神山も、俺が知るわけなかろうと首を横に振り、マリスを見た。
「わ、私も知らないわ」
闘士が知らないことを主人が知る由もないわけで……屋形に静寂が訪れた。
「「「「「クライムボーイズって、何?」」」」」
そして揃って、同じ事を言うのだった。
とりあえず話を纏めると……。
現在TEAM PRIDEは河上静太郎の繋がりから『ポセイドン』との協力関係を『無頼闘士連合オロチ』に疑われ、襲撃を受けた。
オロチは中井の居た町の暴走族が前身であり、シダト国内にて違法奴隷商、違法魔法薬の売買で金を稼ぐ、主人無き闘士の集まり。
対してポセイドンは、オロチのそれらの商売を妨害して奴隷を解放しつつ、夜の街や傘下の店に働き先を斡旋している。
そも、俺たちが襲撃されたのは河上さんとポセイドンの繋がりで、この構想へ首を入れる事への警告、という事だろう。
そしてオロチは『クライムボーイズ』なる組織とも敵対している。以上、現在起こった襲撃と話からまとめた相関図に、神山は腕を組んで唸った。
「で……どうするの?」
「どうするって?マナト」
「えー……いや、俺たち……巻き込まれただけじゃん、やり合うの?オロチって奴と?」
「おや、神山くんは勇んで殴り込みに行くかと思ったのだが?」
神山は面倒くさいと、眉間にシワを寄せて呟いた。これには河上、意外や意外と宣うや神山の気怠さを笑った。しかし神山、河上に理由をつらつらと語り出した。
「いやさ、まぁ?河上さんとポセイドンの仲は分かるし、祝勝会でお世話になったよ?縁故って事で助太刀ってのも分かるけどさぁ……俺らでしゃばる必要なくない?」
神山の言う事も肯けた、縁はあるが組織間の揉め事に助太刀する必要が俺たちにあるのかと。此度の襲撃は確かにあるが、触れなければ別に何もないなら、出しゃばる必要が無いと。
「神山くん……つまり君はこのオロチの所業、知らない存じ無いと放っておこうと?」
「そりゃあ、この世界は現世と違うし、勝手やればいい……と……」
その言に町田が尋ねてきたので、町田に顔を向けてその通りと言おうとしたのだが。
神山真奈都、町田恭二の浮かべる顔を見て言葉が止まった。
町田恭二は笑っていた、それはもういい笑顔だった。
されどその眼差しは、神山真奈都をしかと射抜いていた。顔は笑顔!目は笑っていないのである!
「河上よ、たしかオロチの輩は、劣性召喚者を違法奴隷として売り捌いていると?確かか?」
「又聞きだけど、確かだよ町田くん」
神山真奈都は思い出す。町田恭二は空手家であり、即ち武道家であると。武道家たる彼が『不義』を目の当たりにした時……どんな行動に移るかなどわかり切っていた筈。河上より、オロチの所業を聞いた町田は頷き、口を開いた。
「ならば十分、無頼闘士連合オロチ、完膚なきまで叩きのめしてやらねばなるまいよ、世界は違えど……俺の空手はその為にある」
町田恭二の武道家としての『正義』それに火がついたのだった。そのために鍛え上げた手足、そのために磨いた『武』だと、町田恭二の目は輝いていた。
「僕もやる気だぜ神山くん、現世の馬鹿がこの世界でまたバカやらかしてるなら、責任持って潰しとかないとだからさ」
そして中井真也もまた、ポセイドンに与してオロチとやり合うと宣った。現世から流れ着いた因縁、洗い流しておかねばならないと笑う。町田と違い、そこに『正義』などありはしないが、責任という言葉の後ろに隠れた快楽と楽観が中井を奮わせた。
「俺はポセイドンの縁がある……神山くんーー留守番しとく?マリスさんとお茶でも飲みながら」
河上は無論、常連客として助太刀すると、3人はこの一件に介入する気で居た。対して乗り気で無い神山だったが、河上に留守番しとくかと諭されてから、マリスを見ると……。
「行くわよね、マナト?」
マリスもまた、行かないとは言わせないとばかりに、キツい眼差しで神山を睨んだのだった。
「わかったよ、わかりましたよ……とりあえずあー、ポセイドンに話を聞きに行って、内情聞いてからにしましょうか?」
気乗りしないままに、神山もこのオロチとの戦いへ向かう事になったのだった。




