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いざ、予選へ

「蘇生はできるわ、ただ、デメリットがあるのよ、書いたでしょう?」


皆が皆、この馬鹿げた世界の命の有り様に反応を示した中、マリスがさっき書いた事を忘れるなと指摘した。


「あ?えー、このスキルに目覚めし者は、死した闘士を蘇生できる、条件として臓器の欠損、及び腐敗が無い事、血液が不足してない事が条件である。ただし、蘇生された闘士は……クラスもしくはスキルが、初期化される……なお、劣性召喚者には使用できなぃいい!?」


「今ひどい文面を見たんだけど」


これまた、優性劣性の差を見せられた。奴らは残機があり、俺達はたった命一つだけ、劣性召喚者自体、この世界の理からも除け者にされているのだった。


しかし、デメリットは凄まじい、敵の持つクラスか、スキルが初期化されるという。即ち最初からやり直しをさせられる事になる訳だ。ある意味、優性召喚者にとっては死と同義かもしれない。


「別に気にする事無かろうよ、この世界に流れ着いた時点で死んだも同じ、あとはただ、果てるまで走ればいいさ」


「河上さんのその命を省みない強い言葉、鬼パナイな」


やれ死んだだと考える前に、この世界への転移が死と同義だから気にするなと、河上がそれはもう涼やかな笑顔で宣うので、中井はその強い言葉に苦笑して慄いた。


「さて、まぁ……こんなものですかね、皆さん?」


神山の言葉を最後に、第一回優性召喚者対策会議が終わりを告げる。中井や町田がインクや羽ペンを片付け始め、河上は羊皮紙を纏めて丸めだした。


とりあえず、優性召喚者対策はこれから予選、そして本選と考えていけばいい、まだ時間はあるのだと、会議も終えて神山は息を吐き出した。


「皆お疲れ様、絶対に予選を突破して、必ず優勝しましょう」


マリスも、皆が皆一丸となって対策を練る姿に安堵を覚え、展覧試合への発破をかけた。


「マリス嬢、違うぞ?優勝して当たり前なのだ、我々は」


それに河上はニヒルに笑い、勝つも当然、優勝して当たり前と傲慢自信たっぷりに言い返して見せた。


「河上さんのその自信心強い、そう言われたらその気にもなる」


町田はその河上の口上を聞けば、自信も満ちてくると頷いた。


「さて、じゃあ後は予選までに調整って感じだね、ベストコンディション作らないと」


中井も、来たる予選を前に準備を整えねばと、意気込みが見える。


「あ!マリスさん、その展覧試合の予選って、何ヶ月後ですか?」


神山は、マリスに、来たる天覧試合予選の日取りを確認した。


「一週間後だけど?」


TEAM PRIDE一同、盛大に執務室でズッコケるのだった。




さて、アマチュア大会に於いて差異はあるが、大会には準備が必要だ。入念な練習に、日程の確認、試合のルールによっては、減量もある。最低でも試合前には、三ヶ月は減量、調整期間が必要とされる。


展覧試合には、体重制限は無いから減量は無いが、ベストパフォーマンスを発揮する肉体作りは必要だ。TEAM PRIDE一同は、マリスの言葉一つにより、たった一週間での、超強行出場を取る事になったのである。


この時の神山の叫びはこうだった。


『競馬の競走馬だって、一回走ったら二週間は休み取るぞ!?』


この世界に競馬は無いので、その例えはマリスには分からなかった。


とは言えだ、神山の左腹の傷、顔面の傷は軽傷、中井、町田、河上も、それこそこの世界に来てまともな、本当の『試合』をしていない。


つまり……いつでも戦える準備は出来ていたのだ。


そして、一週間後……。




「……えー、特に……準備も無く、来てしまいましたね」


「だね……大丈夫だろうか?」


神山真奈都と中井真也は、北東エリアは、内地と外壁を繋ぐ唯一の出入り口たる門の前に来ていた。まだ霧が見える、早朝の時間である。これから、この内地に入り、内地の輩達とやり合うのに、準備も特にしてなかった一週間。


俺は、傷の治療に専念した甲斐あり、顔と腹の包帯を取り除く事ができた。中井も、この一週間はランニングと簡単なトレーニングで、体に疲労を残さぬ様にした。


前日、皆を集めたマリスによりこの場へ現地集合を言い渡された。マリスとニルギリは先に入り、受付を済ませに行き、町田、河上とはこの門の外で合流する運びとなっている。


「中井……昨日寝れた?」


「ぐっすりと、はっきり言って現世よりもベッドがいいからさ、寝苦しく無いんだよねー、神山は?」


「愉しみで寝れなかった……嘘、めっちゃ寝たわ」


他愛無い会話をする、俺と中井、そうしていると、ふと霧の中から、二つの影がゆっくりこちらへ近づいてきた。


「おはよー!元気かー2人ともー!」


河上さんと町田さんが、並んで来た。河上はこんな朝からキンキンに響く大きな挨拶で、二人に手を振る。対して町田さんは少々眠気があるのか、目を細めていた。


「おはざーす」


「ざーす、河上さんに町田さん」


俺と中井の挨拶に、河上さんは頷いた。どうやら朝は強いらしい、町田さんは一つ欠伸をし、俺達を見て口を開いた。


「はよー……いやー……あれだ、寝れたか?」


「寝れましたけど……え?町田さん?」


「愉しみで寝れんかった」


町田恭二、まさかの一睡も出来ず。町田さん、やっぱり戦いたかったんだなと、俺はその心持ちに同情した。中井は呆れたと、ため息を吐いて町田さんにトゲついた言葉を吐いた。


「頼みますよ町田さん……河上さんは元気な感じですし、寝れたんですか?」


対して河上さんは元気だったので、しっかり寝たんだろうと中井は尋ね、河上は笑って答えた。


「いや、ついさっきまで遊んでたけど?寝れなくてさー、オールしちった」


河上静太郎、なんと前夜祭敢行!その事実に中井は流石に声を荒げた。


「馬鹿じゃねぇの!?うっわ!今気づいた、酒くさいっ!?」


「いやー!寝ないとテンション上がるな、どーしよ!」


笑う河上さんに、眠気を孕む町田さん、大丈夫かこの面子でと、俺は心配になっていると、内地へ繋がる門から見知った人影がこちらへ近づいてきた。


「キョウジ、セイタロー、来たのね……うわ酒くさっ」


マリスとニルギリだった、マリスは俺たちの元に来るや、河上さんの酒気に顔をしかめたが、咳払いをしてから、マリスは何やら俺たちに向けて渡し始めた。


「これ、首から掛けて、内地入場許可証、無かったら内地憲兵に拘束されるから失くさない様に気をつけて」


俺達が主人より渡されたのは、紐を通した木の板だった。この世界の字の為読めないが、内地に入る為の許可証らしい。イベントスタッフの証明書みたいなものか、俺はそれを首に掛けた。


「それじゃあ、準備はいい?」


主人のマリスより、覚悟はできたかと問われる。ゲームだったらこれから、後戻りできないイベントの為に選択肢で『まだ、やり残した事がある』と言って、探索できるだろうが、これは馬鹿げた事に現実だ。返答は一つしかない。


「ああ、行こうぜマリスさん」


「じゃあ、行きましょうか」


ここからはただ、勝ち、突き進むのみ……マリスとニルギリが、再び門の中へ歩き出せば、神山、中井、町田、河上……異世界に集いし格闘武術集団『TEAM PRIDE』は、遂に内地へ足を踏み入れたのだった。




内地と外壁の違いをまず比べてみたが、そこまで違いは無かった。正直言うと、中世と現代位には差が出てきそうとも思ったが、この馬鹿げた世界の文明は中世程度らしい。ただ、清潔感は段違いだった、道路は石畳に舗装されて地面が剥き出しでは無い、服も皆、外壁の住民が着るような簡素な服では無かった。


門がある歓楽街エリアも、石畳に舗装されていたが、ここばかりは差を感じる。そして、まぁ分かり切っていたが……。


「すんげー視線を感じるんだけど?」


「まるで、田舎者を嘲る東京人だな」


そう、俺達を見る視線だ、奇異以外の何でもない。俺たちと同じくらいの輩が、こちらをみてヒソヒソと話し込んでやがる。


「言わせておけ、すぐに黙らせるさ」


河上さんの自信満々な口が、本当に心強い。この傲慢さと誇り高さとエゴは、味方となればここまで発破が掛かるとは、俺は河上さんへうなずいた。


「トーキョーって?」


そうしていると、マリスさんは東京について聞いて来た。気晴らしと視線外しに、俺は東京について話す事にした。


「俺達の世界の、日本の首都さ」


「いいところ?」


「旅行に行くなら、住むには……空気が悪い、ギスギスしてる、金もかかる」


「そうなの、ここみたい」


こことは比べ物にならないが、それはそれでマリスさんの機嫌を損ないそうなので、これ以上は言わなかった。と、ここでマリスがふと何かを目にして、俺達に見るように指差した。


「皆、見なさい……あれがシダト国の神聖闘技場、シダトアリーナ……展覧試合本戦トーナメントの会場よ」


マリスの指先を皆が追った、その先には確かに巨大な建造物があった。目視した限り、その大きさは埼玉スーパーアリーナ程度はありそうだった。いずれ、俺たちはあそこで戦うのかと、俺はそのアリーナに体を向けた。


「現世だったらさ、いずれあんな巨大なアリーナで、中心のリングでやり合ってたんだろうなぁ……」


今更ながら、現世のアリーナやスタジアムで、自分が戦う姿を思い描いてしまった。


「そこに今から行くんだよ、神山くん……」


「だな、あー……入場曲どうしよっかなー」


「この世界にそんな音響あるわけなかろう……」


「でも、想像しません?町田さん、花道を入場曲かけて歩く自分の姿」


「コールは勿論、レニー・ハート?」


思い描いてしまったら、男子は中々に歯止めが効かないものだ。そしてそれは、大概感染してしまうもので、俺は入場曲に関して話す事にした。


「そう、レニー・ハートの巻き舌で呼ばれたい、曲は……布袋寅泰の202xだな、デビューの時もこれに決めてた」


デビュー戦の入場曲は、これにしていたがその機会も無くしてしまった。この世界に大音量を響かせる、音響機材もCDも無いのだ。それこそ生演奏以外不可能だが、楽器の種類も少なくなるし、妄想の範疇にしかならない。


だからこそ、語りたくなるのである。


「なんつーチョイスしてんの神山くん、あーでも……想像してしまうな、僕は入場曲だったらヒョードルの静かな曲がいいかな、あれで入場したい」


中井もそれに同意し、世界最強の総合格闘家の入場曲を出してきた。


「中井はさ、ロシア国歌だろ、あれで冬用迷彩服で入場したら似合うって」


「サンボにどんなイメージ持ってるのさ、神山くん」


「町田さんなんか、monkey magicのchangeとか似合いそう」


「知らん曲だ……」


「ふむ、入場曲……Gacktの斬がいいかな」


「合いそう!河上さん良さげだそれ!それかREDEMPTION、白馬に甲冑着て上杉謙信になって入場とか」


入場曲談義をする中で、蚊帳の外だったマリスが、ふと道を曲がったのを俺は目にして、慌ててそれについて行く、その先で俺ははっとした。


ここだ、ここが予選会場に違いない、先程のシダトアリーナ程ではないが、俺が外壁で戦っていた、コロッセオに似た外観の建造物、それが現れたのだから。


「ここが予選会場、シダト闘士練兵場よ、皆……ついて来て」


そして、その通りにこの建造物こそ、予選会場なのだと報され、俺も、中井も、町田さんも河上さんも、皆が表情を引き締めた。


いよいよ……始まるのだ、闘士達との、優性召喚者達との本格的な戦いが。


俺達は、小さな女の子の主人の背に引き連れられて、その入り口を潜ったのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 午後が予選会場に違いない、 →ここが予選会場に違いない、
[一言] 町田さん…人を殴らないと眠れない体質にならないでね。 河上さん酒だけですんだの?なにやら微妙にイカ臭いとかはないよね?
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