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優性、通常、劣性

「劣性召喚者……え、でも闘技場で戦ってたって」


「身体が良いとか言われてな、二ヶ月前に買われて連勝してたら、解放分の金を稼いで賭けにならないからと解放されたんだ」


 劣性召喚者、そのキーワードを聞いた三木原は明らかに動揺していた。


「そもそもだ、劣性だ優性だとか、召喚者とか……何なんだ?ここは何処なんだよ、惑星Ziか?」


「神山くん、残念ながらここにゾイドは居ないよ?」


「居ないのか……」


「うん、居ない」


「因みに、好きなゾイドは?」


「シールドライガー」


「俺ブレードライガー」


「そっちも好きだよ、バン仕様のやつ」


「さてはコロコロ派だなテメー?」


「毎月買ってた、ゾイド読んで、宇宙人田中太郎読んでたよ」


 三木原もコロコロ派らしい、SDガンダムよりゾイド派とは気が合うなと、俺の口は多分ニヤついてたと思う、話が合うなと。


 話がズレた、本題に入ろう。さて、ここは何処なんだと改めて三木原から聞く事とした。三木原は空にしたグラスに太っ腹にも、またザクロジュースを注いでくれた。


「ここは……シダト王国って国……それと、普通の……僕達が居た世界とは違うんだ」


「ほーん……夢じゃないのか?」


「現実です、残念ながら」


「さいですか」


 二杯目のザクロジュースを飲みながら、三木原の話を聞いた。


 まず、今俺や三木原が居るこの大地、この国はシダト王国なる名前であった。王政国家であり、国王と貴族が居て、平民が居るという……中世の欧州を思わせる階級社会の国家らしい。


 続いて、俺が度々聞いた召喚者なる存在だ。


「僕達は、あの城……シダト城の姫様に召喚された召喚者なんだ……何ヶ月に1回だったかな、それぐらいの感覚で姫様が召喚の儀式を行い、神山くんや、僕みたいな、学生を召喚しているんだ」


「随分と簡単に拉致しやがるな、その姫様はよ?」


 国際問題も良いところだ、独裁国家のあの国じゃあるまいし。成る程、確かに他の学生と聞いて、俺以外にもあの場に倒れていたり、佇んでいた奴らも居た、制服は違った所も思い出し、おそらく全国の学生を呼び出しているのだろうとアタリを付けた。


「それもそうだね、で、姫様は召喚した僕達に洗礼をして……スキルやクラスに目覚めるかを試して、僕達を分けて……君も受けたよね?」


「杖を頭の上にかざすやつ?」


「それ、それね、で……右手が左手の手のひらか、手の甲に、様々なパターンの模様が刻まれて、それと召喚された僕らの自覚によって、召喚者が分けられるんだけど」


「さっきの、優性、普通、劣性だっけか……て言うか、そんな模様どこにも……いやあったわ、左手手のひらに」


 自分には、その模様など刻まれなかった筈だと左右の手の甲、手のひらを見たが、二ヵ月と言う時間を経て、この場に来て何と手のひらの中心に、薄い黒で、あまりにも小さく変な図形が刻まれている事に気付いた。


 まるで黒子かシミにしか見えない、それくらいに小さく薄かった。それを三木原にも見せて、三木原は右手の甲を見せた。三木原の右手にも、確かに刻まれていた、そして俺よりもくっきりと黒く、何より大きい、手の甲を覆い尽くすような、円形の模様だった。


「全然違うな、で、これが何か意味があるわけ?」


「うん、大きくて色が濃い程に、そのスキルやら、クラスの力が強いんだ……で左手がクラス、右手がスキル、手のひらか甲かの違いも、確かあった様な気がする」


 三木原の話を聞いて、俺は詰襟のポケットからメモを取り出した。幸いな事に、メモ帳とシャーペン、換えの芯を、あの日の登校時に筆箱ではなく杜撰にポケットへ入れていたらしい。しかもだ、あの興行主、わざわざ制服同様保管していてくれたらしい、これだけは感謝しておきたいなと思いつつ、その模様の違いを俺はメモに記した。


「左がクラス、右がスキル、手の甲とひらどちらもあり……と」


「で、どちらか片方に目覚めたら、普通召喚者、両方で優性召喚者……どちらも目覚めなかったり、あまりにも弱いスキルやクラスなら、劣性召喚者って分けられるんだ」


 そして、やっと知りたい情報が三木原より報された。あの時の名も知らぬ姫の儀式、それで全てが決まっていた。俺は左手の手のひら、つまりは『クラス』とやらには目覚めているが、あまりに弱く小さいから、劣性召喚者という区分に分けられたと。


 となればだ、目の前のスキル持ちが、どんなスキルを持っているのか聞かねばならない。


「三木原くんは、一体どんなスキルを?」


「僕のスキルは『嗅覚』使ったらどんな匂いか、何もかも判別できるスキルなんだ、体調も、毒も、その人が食べたい食べ物もね」


「つまり……俺がザクロを選ぶのを分かってたとか?」


 三木原は頷いた、警察犬かこいつは。確かに人間が出す微細な体臭は、体調や気分から変わると聞くがそんな嗅覚を持つと、よほど大変な様な気がした。つまりは、三木原はジミー大西レベルの嗅覚に目覚めたわけだと、俺は納得した。


「それで……今度はきみについて聞いていい?」


 と、ここで三木原は俺の話を聞きたいと振ってきた、聞かれて困る話も無いし、首を縦に振った。


「神山くん、さっき闘技場で戦ってたって言ってたよね、あの国営中央闘技場?」


 三木原が指差した、先程まで俺が居た闘技場。それに俺は頷いた。


「間違いない、で、今しがた雇い主から、賭けにならなくなったから手放されたんだよ」


 そう伝えて二杯目のザクロジュースを飲んだ、それを聞いた三木原が、首を捻った。


「賭けにならなくなったって……勝ち過ぎた……え、もしかして君、風のマーナート?」


 三木原は驚いた様に僕を指差した、どうやら余程名前が広がっていたらしい。


「真奈都な、まぁその呼び間違いも気に入ってるけどさ、ムエタイ選手みたいでよ」


「はぁー、そっかぁ……本当だったんだ、中央堕ちした召喚者の戦士が、記録塗り替えたって」


「今は無職、学校も通って無しのプーだ、三杯目は金払うけど、この中でどれを何枚?」


「銅の円形三枚でいいよ」


 二杯も頂いたし、三杯目は金を払うと、興行主が俺との手切金で渡した皮袋を置いた。この世界の貨幣価値はわからんので、払うついでに三木原に教えてもらう事にすると、三木原はちゃっかり銅貨三枚を俺の仮財布たる革袋から取り出して受け取った。


 しっかりしてやがる、いや、タダで二杯貰ったのだ、一杯分くらいなんちゃあない。空きのグラスにまたザクロジュースが注がれた。とりあえず、グラス一杯のジュースは銅貨三枚と分かった。


「そっか、じゃあ今は宿無しなんだね、安宿を紹介しようか?」


「マジ?ありがてぇ、助かるよ」


「うん、この辺なら治安も悪くないからさ」


 三木原は手厚く、今後の活動に必要だろう安宿も教えてくれた。ともかくまずは、寝れる場所も必要になる、ありがたいものだ。ただ……もう一つ懸念があった。


「しっかし、どうすっかなぁ……闘技場は出れないとなると、俺はどこで戦えばいいんだろう」


 そう、戦える場所だった。闘技場の拳奴としての生活は、食事も出るし、戦えるし悪くなかった、寧ろ戦える場所がある、それだけで充分な程に満たされていたのが俺だった。このまま見知らぬ大地で、戦う事なく朽ち果てるのは、俺には耐えられなかった。


「うーん、君が通常か優性召喚者として召喚されたら、抱えの拳奴になって貴族の決闘に出れただろうね、それに展覧試合にも出て勝てば、中央行きも約束されるだろうけど……」


「おいおい、何よ、そのそそる話は」


 決闘、更には展覧試合なる、物騒で香ばしい匂いを放つ言葉を聞いて、俺はカウンターに両肘を付き、三木原に詳細を促した。三木原はずずいと来た俺に身体をそらして苦笑いしながら、説明した。


「姫様が召喚した優性召喚者は、まず、中央の貴族達が契約して、世話をしながら育てるんだ、それで召喚者同士を様々な理由で戦わせて、毎年一度中央の神聖闘技場で姫様を前にして戦わせるのが展覧試合……この時ばかりは、僕たち外壁の人間も中央に通って試合を観戦できるんだって」


 また優性召喚者か、しかも貴族抱えの奴ら同士の決闘と聞いて、俺は乗り出した身体を椅子に戻した。何なのかね、優性召喚者とは、クラスだのスキルだの、そんなに持ってたら強くなれるのか?さながらドーピング剤、ステロイドを俺は連想した。


「はぁ〜……つまり、俺が戦える場は無いのかね、退屈しながら、日銭稼ぎをしてこの訳の分からない大地に朽ちるしか無いのか?」


 愚痴を吐きながら、カウンター席に上半身を下ろして俺は、もう戻れない闘技場を呪った。やっぱり途中で負けとくべきだったかな、そうすればまだ長く居れたかもしれないと、今更になって後悔をした。


 三木原はグラスを磨き始めている、仕事熱心な事だ。しかしザクロジュースだけで長々と居座るのも罪悪感を感じた俺は、いい加減離れるべきだなと席を立ち上がった。


「ありがとう、ご馳走さま……じゃあ、安宿の場所頼むよ、長居するのも迷惑だろうからさ?」


 三木原にそう言い渡すと、グラスを置いた三木原が、ああと、カウンターから出てきた。どうやら安宿の場所を指し示してくれるらしい。路上まで共に出つつ、大通りに出てある場所を指差した。


「あの先の細い小路を右に行けばいい、寝るだけも食事もあるからさ……あと、そんなに喧嘩したいなら、夜中に広場に行ってみなよ」


 まず安宿がある小路を指し示してから、三木原は右に回り、背後の大通りの先、広場を指し示した。三木原の口振りを聞いて、俺は少し口元に笑みが浮かんだ。


「なんだ、酔っ払いが喧嘩をふっかけて来るのか?」


「いや、ストリートファイトやってる、没落貴族から平民が、自ら輪を作って賭け試合してるのさ、出てみれば?」


 野試合か、不良の喧嘩程度くらいしかならないが、スッキリはできるかもしれないな。俺はもう一度、三木原に感謝をした。


「ありがとうよ、次は飯を食いに来るからさ」


「ウチは朝と夕方だけだから、ご贔屓に」


 こうして、俺はこの世界で初めて、同じ現世から来た人間との歓談と情報収集をしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今さらですが、マーナートって呼び名はいいですね! サーマート・シリントゥのようでめっちゃ強そうですよね! ワクワクします!
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