考察、職業と能力達
「よーし、終わったー!」
「あー長かったー」
談話室にて羽ペンをテーブルに置いて、神山はそう言って背中を逸らした。山積みになった羊皮紙を前に、中井も町田も大きく息を吐き、肩を回してコリを解しだす。河上も大全書を閉じて、マリスの執務机に置けば、やれ終わったとソファに背中を預けた。
「まぁ、終わってないどころか、やっと始まったんだけどねー」
「ここからか、ここからなんだよなぁ……良し、じゃあ話し合うか」
だが終わってない、やっと話の準備が整っただけだ。ここからなのである、一同はあーうー唸りをあげながらも、この異世界で『強者』たる絶対条件、クラスとスキルに付いて語り合う事になった。
「まずさ、優性召喚者、通常召喚者、劣性召喚者と三つに分かれているわけだけど……これ、実質通常召喚者は分ける意味無いんだよね」
中井が最初の話題を語り出した。
中井は言う、通常召喚者に分ける必要が無いと。
「通常召喚者はあくまで、片方どちらかに目覚めている、が定義付けされているけど、長期のクラス能力やスキル使用で、残ったもう一つも目覚めるらしいし、実質優性召喚者っていうね」
通常召喚者は、クラス、もしくはスキルどちらかに目覚めた召喚者である。全く能力が開花しなかった劣性召喚者と違い、その能力に合った国内の仕事を割り当てられるらしい。
しかし、通常召喚者は『クラス能力やスキルを使い続けると、目覚めなかったもう片方が、自ずと覚醒する事がある』と言う事例が書かれていた。
この現象は『覚醒現象』と固有の名称が付けられていた。
「意外にも、召喚時の4割がここらしいな、で、外壁の普通の店やら内地にて待遇のいい仕事を斡旋されると」
「中途半端な優性召喚って訳か、で?優性召喚者は何割?」
「3割らしい」
「実質7割か……残り3割が割りを食らってるわけか」
中井の話からして、つまり『シダト国内の7割が優性召喚者である』と言える。かと言って、通常召喚者全員が覚醒するわけではないが、大まかに召喚者を分けるならそれが一番簡単だろう。
「しかもだ、悲しい事に劣勢召喚者に覚醒現象が起こる可能性、事例も無いわけだ」
中井は羊皮紙の一枚を眺めながら、はぁと溜息吐いて語った。
「これが優性召喚者の、劣性召喚者に対する自信の差だろうよ、決して超えれぬクラスとスキルの壁、とやらだ」
劣性召喚者は、決してクラスにもスキルにも目覚めはしない。即ち『無能』であると、大全に記されていた事実を、神山も、中井も、町田も、河上も再認識した。
「ま、だからどうしたって話だわな、河上さん」
「だな、このクラスだのスキルだの、その程度の差は……俺達には関係無い話だ」
しかし、神山達は笑った。それがどうした知るかボケ、こちとらクラスやスキルなぞ、最初から必要としちゃいないのだと、豪語する。
「まぁね、あいつらに僕の寝技、関節技が逃げれるかっての、マウントから逃げる方法知ってるのかって話」
「我々がその技術に積み重ねた年月は……決して嘘はつかないさ」
虚勢ではない、真実だ。汗をかき、傷を作り、吐瀉物を撒き散らし、血を流して血尿を流し……そうして積み重ねてきた我々の格闘、武道の力は決して裏切らないと、皆が納得した。
「けど、俺この辺気になるわ、上位職とスキルの複数保有……スキルって一人一つじゃなかったんだな?」
かと言って、舐めて掛かるわけではない、だからこそ舐めてかかってはダメなのだ、神山はそれを含めて、一枚の紙面に記した『上位職』について、そこに連なる、スキルの複数保有を話した。
「優性召喚者は、勝利を重ねる事に強くなり、時として上位職に目覚める……昇級みたいなものか、修練ではないのか?」
「町田、さっきも書かせたが、それが"レベルアップ現象におけるクラス覚醒"とやらだ、確かに修練の果てに上位職になった事例はあるが、闘士同士の戦いで覚醒するのが大半らしい」
クラスとやらには、上位職なるものがある。闘士達はそれを闘士との戦いを経て、そして鍛錬の果てにそこへの覚醒を目指していると言う、一つの目標があると書かれていた。
「ドラ◯エ染みてきたな、いやエフ◯フか?」
「聖◯伝説3じゃない?」
「うっわ、懐かしい……あー、リメイク結局プレイできなかったなー」
「◯剣伝説3か……神山、河上、リー◯かアンジェ◯ならどっち派だ?」
いよいよ、現世のロールプレイングゲームみたいな話になって来たと、神山が所感を述べ、それを有名なゲームで例えると、ふと懐かしいゲームの名前が中井から出たので、また脱線しそうになった。
河上も知っているらしいが、町田が3人に、そこまでだと視線を向ければ、話は止まった。
「これが優性召喚者のピンキリってやつなんだろう、優性召喚者も召喚されたらされたで、内地で凌ぎを削って磨き上げていると見た」
となればだ、今の今まで戦ってきた闘士達は、まだ実力の無い闘士達かもしれない。神山、中井、河上は過去に戦った闘士を思い浮かべてみたが、それを思うと皆が笑みを浮かべた。
「どちゃくそ楽しみだなぁ……」
神山はそうして、ソファの背もたれに背を預けた。
話はまだ続く、続いては、クラスとスキル、その内容に関してと、議題が出てきた。
「まず、クラスには基本職、上位があり、それに属さぬ変異職なるものがあると分かった、で、基本職書いた羊皮紙はこれか?」
「それだね、結構あるねー?」
まず取り上げられたのが、基本職とやら。基本職はあの城の中で『姫』により目覚める職業の力であり、基礎となる物である。
基本職は以下の通り
剣士、戦士、魔道士、僧侶、盗賊、重戦士、格闘家、狩人。
以上、8種類があると、大全には記されていた。更にそこから、以下の上位職へクラス覚醒をすると書かれている。
聖剣士、狂戦士、魔法剣士、武器使い、暗殺者、戦闘魔道士、大僧侶、壁重戦士、射撃手……。
上位職はこれだけ一部であり、まだ見つかってない職もあるらしい。
そして、何方にも属さない固有のクラス、変異職となる。
鍛冶師、料理人、商人、冒険家、学者、踊り子、医者、鑑定士、細工技師……。
これだけ書き記したが、上位職と変異職はまだまだあると言う、全てを書き記すと日が暮れると見て、途中で切り上げた。
「クラスだけでこれだ、スキルなんてほら、羊皮紙一杯に二枚は書いたぞ?」
中井はスキルを日本で書き記した羊皮紙を見せて、その文字の羅列に神山達は、頭を抱えたくなった。
「まずさぁ、剣術+1とか+3とかよな?これの判断方法って何よ?」
「それな、たいして変わらなかったぞ?剣術1も、3も、指落としてやったわ」
一例として、まず『剣術』なるスキルが議題に上がった。
『剣術』のスキルの内容は以下の通り。
『このスキルを保有する闘士は、剣の加護を手にしており、剣術が冴え渡る。このスキルは使用の度に経験を蓄積し、更なる冴えと鋭さと技量をその身に宿す事ができる』
と、大全には説明が書かれており、その経験の蓄積が+となって数値に現れるらしい。
が、ここで河上が体験談を語った、剣術の+値に大差が無いと。
河上静太郎は、この集まりに入るまで、外壁にて流れていた内地の剣士達に勝負を挑み、挑まれ、その指を斬り落としていた。その話から察するに、剣術というスキル、その+値は当てにならないと語る。
「あのー、それって河上さんの剣術が、スキルに直したら剣術+1万くらいなんじゃないですか?」
それに対しての中井の答えは、不真面目な内容ながら、的を射ぬいた感覚を覚えた。
「と言うと?」
「つまりは、河上さんの剣術の技量自体が、スキルで追いつけない域にある、と言う事なのかと」
それを聞いた河上から、ふむと唸りが聞こえた。神山も町田も、成る程と頷いた。つまり、我々の徒手や武器の技量は、もしもスキルとやらに換算した場合、遥かに優性召喚者を上回っていると結論付けていいと言う事であった。
「河上が東の境界線で斬った輩が剣術+3とかだったな、基準が分からん以上はどうかは知らんが、これで少しスキルに関して、目印が見つかった」
中井の言葉に町田が続いた。
「我々が気をつけるべきは、それら骨子となるスキルよりも、魔法染みた、本当に訳のわからんスキルだろう、例えば……自動回復だ」
町田が挙げたスキル『自動回復』我々が、危惧すべきはこのようなスキルだろうと、町田が羊皮紙を指し示す。
『自動回復』のスキルには、以下の説明がされていた。
『このスキルに目覚めし者は、身体に受けた傷、身体に蓄積される疲労を、治癒魔法や魔法薬、自然薬による治療も、休息も必要無く癒す事ができる、際限は無いが完治までの時間は、個々の闘士の成長による』
このスキルを見て、神山が眉間に皺を寄せて、苦言を漏らした。
「これずるいよなぁ、傷も疲労も回復しちゃったら、ボクシングをフルラウンド本気で戦えるし、ドクターストップ狙えねぇじゃん」
こんなスキルが、ザラにあるのだ。現実という枠ではあり得ない、正しく不正行為である。体力もスタミナも無際限な相手との戦い、いずれその時が来たならば如何するか?今後の議題となるだろう。
「それと同じくらいに、これも対策考えないと、状態異常無効……こんなのゲームの中だけにしとけって全く」
ならばと、中井がまた別のスキルを指し示す。指し示した先には『状態異常無効』の文字が記されていた。
「何々……このスキルに目覚めた者は、あらゆる状態異常を引き起こす攻撃、食品、魔法、薬品の効果を無効化する?中井、俺達これ関係なくないか?毒とか魔法とか使えなーー」
神山は、この話の中で、状態異常はそれこそ魔法使いの魔法により引き起こされるものと、視点が固定されていた、それを中井はさらりと返した。
「脳震盪と失神、あれ、麻痺と気絶扱いにならない?」
「あ!ああー……反論できねぇ」
中井の返答に神山は、納得しかなかった。確かにそれは、格闘家が引き起こせる『状態異常』と捉える事ができる。打撃により脳を揺さぶる脳震盪は麻痺として、そして締め技による失神は、気絶という状態異常として捉えたならば、それらが無効化されると考えてもいい。
「さらにだ、出血も状態異常扱いなら、神山くんの肘打ちも無効化されるかもだよ?」
「いよいよ無敵だな」
どこまでが状態異常として、スキルが捉えるかは知らない。しかしその時、我々が如何にして勝利を得るか、本戦で、はたまた予選でこのスキルを持った闘士と対峙した場合の対策を、早急に練る必要が出てきた。
「気になったと言えば……これ、マジなのか?」
さて、それはさて置いて河上静太郎が、一つのスキルをこの場で指差した。その指先を3人で追うと……これまた書いた皆が、眉間に皺を寄せた。
『蘇生』
その羊皮紙には、そう書かれていた。まぁ、書いたのだが……。
命は、一つしかない。それが現世での定義であり、生命の絶対原則であるはずだ。それを否定する力強い二文字に、神山は、この世界の住人であり実務机にて茶を嗜むマリスに問い掛けるのだった。
「あのー、マリスさん?」
「何かしら、マナト」
「この蘇生ってスキル、本当にあるんですか?」
神山真奈都の問いに、マリスは即返答した。
「あるわよ、闘士相手にしか使えない魔法だけど」
TEAM PRIDE一同は、その真実に驚愕した。
「ま、じ、かー……あー、何だろう……いよいよ本当にさ、現世とは理が違うんだなって俺、自覚した」
この返答に、神山真奈都ははっきりと、現世とこの馬鹿げた世界の理の違いを実感して頭を抱え。
「軽いよー、命の価値が軽いよー、これじゃあ命が無いのに殺し合うどころか、命はあるから殺しあえだよー」
中井は天井を向いて、この世界の命の軽さにから笑いをして目から生気が抜けた。
「全く理解できん、そんな事があるのか……」
町田は、根底から揺らがされる事実に頭を抱えてうなだれて。
「ふむ、つまりは殺しても生き返るのか、良いことを聞いた」
河上静太郎は、安定の狂った答えを呟くのだった。




