悪いのはお前ら
観衆の誰もが信じられなかった。
しかし理解はしていた、四聖はこの国の最高戦力、しかしその座を狙い戦う者も居る。現に幾度も、その4つしかない立場を奪い、その席に座った者が居た。
だからいずれその日が来ると観衆は理解していたが、それでもこれは理解などできない。
ただの人間、姫より力を与えられてなどいない劣性の召喚者が、優性召喚者の頂点を叩きのめして膝を地に着けさせるなどとーー。
神への懺悔にも見える、膝を屈した高原。その襟首を神山は左手で掴み引き上げて無理矢理に立たせた。
「あーーあ……」
「この国では力が全てーーそう言ったよなぁ高原ぁ!!」
「ひっ!!」
弓引く様に右腕を後ろへ引き、そして思い切り、高原の顔面へ叩きつける!
「ごばぁあ!?」
勢いついて後頭部を石畳に打ち付け、足が勢い余って浮かび上がる威力の、喧嘩パンチ。先程石積みに挟まれた時と同じとは思えない、鼻が潰れ血を流して涙すら流している。
「テメェの負けだ高原ぁ……さて……負けた以上は、こっちの言うこと聞いてもらうぜ?」
最早立つ力も無くなった高原を見下ろし、神山は聴衆を見回し、そして言い放った。
「聞け!テメェらの頼りにしていた四聖とやらはこのザマだ!!今からテメェらが選択できる事は二つだ!!」
そう言い放った神山の左右へ、中井、町田、河上も並んで力を誇示する様にその姿を見せつける。
「一つ!うちの主人や仲間に呪いをかけやがった輩を今から見つけ出すなり、名乗り出るなりしてここに引っ張り出してくるか!!」
神山の声に呼応するように、中井は拳銃を向け、町田は手の骨を鳴らし、河上は鞘から刀を抜き放つ。
「そしてもう一つ……ここで全員、俺たちに殺されるか……選べ!選ばない場合は……」
「げ……あが……」
神山も、足下で倒れ伏す高原の喉に足を置き力を込める。このまま頚椎を踏み砕き殺してやろうと見せつけて。
「この国地図から消しちまうぞ?」
この騒ぎで駆けつけた内地に住まい、鎬を削っていた召喚者は恐怖のどん底に落とされた。あろう事か内地でも上澄のチームを襲撃してたった数時間で壊滅させ、あまつさえその大将は今、四聖の一人に勝利した。そんな奴らが、誰かも分からない呪いを使った犯人探してこいと、探せなければ殺してやるし、国も壊滅させてやると宣言したのだ。
「だ、誰がやったんだよ!?おい!!さっさと名乗り出ろよ!?」
「お前らのチームじゃねぇのか!!」
「知らないわよ!!あんたらじゃないの!?普段から憎んでーー」
パァン!パァン!パァン!!
響き渡る銃声、中井が黙れと命令代わりに空へ銃弾を撃ち放す。中井はマガジンを落としてまた違うマガジンを差し込み装填し、観衆へ向けた。
「おら探すなら探せよ、お前ら魔法だスキルだ持ってんだろうが?それ使うなりして、さっさとうちの主人達襲撃した犯人探して連れてこいよ!!」
言い争う暇があるなら探せと中井は追い立てる、しかし一向に動こうともしない観衆に、いよいよ神山はーー。
「よく分かった、じゃあ今から、目についたやつからなぶり殺しにーー!」
本当に一人ずつ手にかけるつもりで踏み出した瞬間、左から感じた熱に首を向けて見る暇も無く思い切り前に飛んだ。豪ッツ!と音を鳴らし通り過ぎた人を飲み込みかねない火球が、神山の後ろを通過して更に直線上の植え込み、建造物を燃やし尽くして消え去った。
「わーー、マジ?負けてんの高原くん……マジか〜〜」
そんな飄々とした声を上げて火の玉が放たれた方向に神山が向けば、高原と同じマントと白基調の服を纏う『四聖』が一人、『魔将』篠宮倉人が右手を掲げて現場の惨状に驚いていた。
「次はテメェか魔将……何だったら全員とやっやんぞ!!」
次の四聖はお前かと、立ち上がり神山は篠宮に標的を定め歩き出す。これに対して篠宮はーー。
「ちょい待ち!」
待ったをかけた。
「こっちは今来たばかりよ?隣国から緊急招集が来て飛んできたんだってば、まずさ……何があったか聞いてからでいい?」
そもそも自分は、今外部からやっと帰ってきたばかりで状況を理解していない。まず、それを話す事なりしてくれなければ、対処しようも無いと神山に言い放つ。
だが、神山は止まらない。余程ヒートアップして聞きもしないと見て、町田が声を上げた。
「うちの主人、マリスさんが襲撃された!仲間も巻き込まれて呪傷とやらで死が迫っている……貴族を攻撃するのはルール違反だと聞いているが?」
町田の話に、篠宮は驚愕して一気に表情が変わった。
「何だって?」
「今言った通りだ!」
その話は事実かと聞き直す篠宮、対する町田は違いなしと、その通りであると自分の話に嘘はなしと態度を見せた。
「よし分かった!神山くん!!詳しく話を聞かせてくれ!!四聖、篠宮倉人はこの件を真摯に聞き、解決へ取り組みたいと思う!!」
そうまで宣言した篠宮に、神山は静止した。高原と違い、話をしたい、させてくれとまで言ってきた篠宮に神山は向かうのをやめた。篠宮は、マントを脱ぎ捨てて神山の前まで近寄り、そしてその場に座って胡座をかいた。
「さぁ、キミも座って、話をしてほしい」
こうまで相手が敵意を捨てて、対話しようと見せられた神山は、流石に拳も握れず手は開いて、どかりと胡座をかいて座った。
「それで、何から話してくれるんだい?」
神山は一から全てを、篠宮に話した。準決勝から度々闘士の襲撃を受けた事、それは構わないにしても、貴族とその従者たるメイド、TEAM PRIDEの仲間が爆破魔法により大怪我を負い、さらにその傷は呪われて進行を遅らせるしかないと。
いかに自分達が、この国にて悪の立場に居ようがルールは守ってきたつもりである。しかし、そちらはルールを破り貴族を襲撃したのはどういう了見なのだと。
それからはもう、犯人を見つけるか総当たりで探し当てるまで許さないと、内地に襲撃を仕掛け現在に至ると神山は篠宮に語った。
「成る程ねぇ……しかしまぁ、すごい事考えるねぇ……ローラー作戦までする気で、しかも高原ぶっ倒しちゃったんだ……」
他の優性召喚者に介抱されている『拳神』高原の姿を横目に見て、その様に信じられないなと引きながら、篠宮は話を聞いて頷いた。
「で、どうするんだよこの始末……こっちは止まる気は無いが?」
「あははは!!目がマジじゃん……よしよし、よーく分かったよ」
これで止める気なら、こっちも続けてやると目の据わった神山を見て、篠宮は笑った。本当にやる気満々だと、口だけで終わらないと分かってしまった。その背後で待つ他の者達も、本当にその気だと感じた篠宮は、ゆっくり立ち上がり、帰りもしない立ち去らない内地住まいの召喚者の方へ向いた。
「魔将様!!どうか、どうか奴らを裁いてください!!」
「こんな狼藉許されない!!処刑です!処刑にしてやってください!!」
最高戦力の帰還に息づく優性召喚者達、神山はいよいよ立ち上がり今にでも再起動し始めそうな雰囲気を見せる中……魔将、篠宮倉人は言い放った。
「悪いのはお前らだよバーカ、何で僕が助けるのが当たりまえーみたいな空気になってんだよ?」
その言葉に、野次馬の召喚者達は凍りついた。