力が全て
憲兵に招集された高原は、急ぎ内地中央広場に走る。こんな時に限って、他の四聖達は出払っていた。しかも、此度に限りこの場所まで戻って来るには相当時間が掛かる。
自分一人で対処しなければならない、それを知って今夜を狙ったのか?偶然か?それよりも早くと高原は、城のとある場所へ向かう。
両開きの扉を勢いよく開けば、何人もの魔導士達が杖を掲げ、魔法陣を光らせ待機していた。四聖が利用するワープゲートである、これを利用してシダト最高戦力たる四聖は、シダト領内であれば自由に瞬間移動できるのだ。今から中央広場までも、走るより早く到達できる。
そう、領内であればの話だ。他の三人は外交で他国に出ている為、それが不可能なのだ。少なくともまず国境まで到達し、更にそこからワープゲートを通る必要がある。それでも、約数十分と言う現世ではあり得ない速度で戻る事ができる。
「拳神様!準備できております!」
「広場中央へ飛ばせ!それから、各地に出ている四聖に緊急収集!内乱相当であると連絡して直ぐにでも連れ戻せ!!」
魔導士達が杖を掲げた、神山達が侵入時に使った物は設置型に対し、好きな場所に移動できるワープゲートには、流し込む魔力が起動時に必要となる。そうして初めて、このワープゲートは起動するのだ。他の三人へ緊急連絡をと伝えて、高原はワープゲートに足を踏み入れ、光に包まれた。
一瞬である、その一瞬で城から目的地たる内地中央広場に辿り着いた高原は、こんな夜更けに集まった野次馬の壁と、火が灯されて明るい壁の先を目に入れて即走り出した。
「すまないが道を開けてもらおうか!!」
そう一言掛けただけで、次々と高原が、いや……『四聖』が来たと安堵と畏敬から左右へ野次馬が割れて道が開けられる。やがて、広がっていたその光景に高原は絶句した。
四人の男たちが、まるでテロリストに捕縛された人質の様に両腕を後ろに回され縛られて正座の体勢にされていた。全員顔を腫らしていたり、今にも死にそうな量の血で足元に血溜まりを作っていたりと様々だ。
それぞれ知った顔であった。ムーラン・ルージュ、サーブルクロス、ギガンテス、ノワール・ド・エールの大将を張る者達が、肉体的にも精神的にも叩きのめされて、捕縛されていた。
その背後に立つ四人、 TEAM PRIDEの者たちから一人、大将神山が四人の前に出て来るや四聖、高原と相対した。
「おーーようやく来たか、四聖さまよ?」
「神山……これは何だ?一体何のつもりだ、これは」
この所業は、この事態は何だとまずは事実確認から始める高原へ、神山はゆっくりと語り出す。
「うちの雇い主たる貴族、マリス・メッツァーが今朝襲撃を受けた、呪いを纏った爆発で呪傷を受けてんだよ……確認するが、闘士へのいざこざ、あらゆる問題があろうと、貴族へ危害を与えるのは重罪……間違いないな?」
その説明で高原は察した、報復に来たのかと。内地の闘士が襲撃したと見て、このような凶行に及んだのかと。
「間違いない……そうだが、何故こんな事ーー」
「テメェらが先に仕掛けて来たんだろうがよぉ!!それであれか!?まさか話し合いしようとか、その口で吐かすんじゃあねぇだろうなぁおい!!」
有無を言わせないと神山より怒号が放たれ、高原は思わず震えて後退りしかけたが耐えた。
「こっちも立場は理解しとるんだわ!まぁされて仕方ねぇし?現に何回か襲撃受けたから、返り討ちにした奴も居るわ!実況も火ぃ付けに来たしよぉ!!まぁそこは構わねぇよ?この国は勝った奴が正しいからよぉ!けど、貴族への襲撃はテメェらで無しだって吐かしてこのザマは何だ!!」
神山はそのまま畳み掛ける様に高原の襟首を掴み、頭突きじみた勢いで額を擦り付けた。自分達にヘイトが向くのは構わない、立場も理解して仕方無しと受け入れ、襲撃には相応の態度を示した。現世なら警察沙汰も、ここは異世界で強い奴が正しいという道理に則り行動している、ルールは守っている。
だが、そっちがルール違反したこの事態どうする気だと、シダトの優性召喚者達を束ねる象徴はどうするつもりだと神山は詰め寄ったのである。
「ぐく……き、貴族に関する被害なら、憲兵がーー」
「受けやせんよなぁ!?外壁のチームなんざ相手にせんだろうが!!だからこっちもルールに則って来てやったんだよ!!聞け!!」
神山はさらに高原の襟首を締め上げて、鬼気迫る表情で言い放つ。
「今直ぐにでも何とかして、うちの主人を襲撃したと奴を探し出せ……探さないなら、内地の全てのチーム、全ての闘士全員が犯人として一人残らず殺してやる!まずはそこの4チームからだ!!冗談じゃ済まさない、本気だ!!」
神山の言葉を聞いた中井が、バルダヤより仕入れた実銃を取り出し。四人並べたチームの大将の頸部に向けて、迷いなく一発ずつ発砲した。乾いた音が夜空に響き渡り、その度に前のめりに倒れる様を見て、野次馬達は流石に距離を保った。
高原は絶句した、もはやこれは止まらないと。いかに言葉を吐いても、態度を改めようとこの者達は止まりはしないと、何しろルールを破ったのはこちら側、ヘイトの向きも世論の風向きもTEAM PRIDE許すまじと向いている。
しかし、ルールを破ったのはこちらだ。悪事を働いてしまったのはこちらである……高原が取るべき行動は二つであった。
1つ、この件の謝罪と共に襲撃者を探して差し出す事。普通ならばこちらを取れるだろう……彼が四聖と言うこの国における『最高戦力』で『力の象徴』でなければ。むしろ、野次馬や闘士達は、こんな行動は望んでなどいない。さらには、この国のルールや倫理観がそれを選ばせはしなかった。
なら、もう一つしか無い……力には……力!それがどうしたと突っぱねて、お前が折れろと叩き潰すしか道は無い。
仮に、そんなこの世界の倫理や誇りも捨てて謝れる程に高原が大人であったら、現世の倫理観を有していたら前者を選べたかもしれない……しかしそれは無理だった。
「そうだ……この国では力が全てだ……お前達の言葉などかき消されても仕方ないんだ!」
襟首を掴む神山の両手首を、自らも両手で掴み上げ握りしめていく高原。さしもの神山も表情を痛みに曇らせ手を離し、後ろへ跳んで距離を保った。ああそうか、そう来るんだなと神山の怒りはついに頂点に達した。
「中井!町田さん!河上さん!手を出すなよ……もう許さん……四聖だか何だか知らないが……ここでこいつを叩き潰す!!」
この世界は、力こそが全て。
勝者こそが全てを手に入れる。
お前がそうして押しつぶしに来るならば。
こちらも、それに則るだけだ。
神山は腰に巻きつけた縄のバンテージを手早く左右の手に巻いていく。それに対して高原はマントを掴み脱ぎ捨てて拳を握った。
「甘く見るなよ神山ぁ……四聖が四聖たる所以をしっかり叩き込んでやる……TEAM PRIDEはここで終わりだ!」
展覧試合決勝を待たずして、遂に二人はぶつかり合う事が避けられなくなった。勝てば全てを手に入れ、負ければ全てを失う。
All or Nothing
全てを手に入れるか、失うかの戦いが今火蓋を切って落とされた。
「たぁあかはらぁあああああああああああ!!」
「かぁみやまぁああああああああああああ!!」
叫びを上げて、一気に駆け出す二人。互いの拳が交差し、頬を擦り傷を刻み始まる。高原のアッパーカットをスウェーで交わして右に回り込んだ神山が右の叩き落とす軌道でストレートを放ち、それをこめかみに受けて高原は崩れるも直ぐに立ち直り右のフックを振り回す。
右のフックは空を切り、逆に神山の左ボディ、左フックの二連撃を腹と顎に叩き込まれ更に右ストレートと三発目を鼻柱に叩き込まれる。
倒れておかしく無い連撃、しかし高原は拳がめり込んでなお笑い!自ら顔面で神山の拳を押し返してノーダメージをアピール。逆に右フックを叩き込みガードした神山を弾き返す様に後退させた。
防御により頭を守った神山の左腕、その上腕に拳の痣がクッキリ刻まれる。しかし構わず、神山は走り飛翔して右の跳び膝を繰り出した。
エクストラバトル
神山真奈都 (ムエタイ)VS高原泰二 (キックボクシング)
Are You Ready?
Fight!!