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ルール無用

 白昼の悲劇とも言える惨状……主人たるマリス、そのメイドニーナ。更には控えとしてTEAM PRIDEに加入した長谷部、緑川は……爆発に巻き込まれた。


 爆発音を聞いたのは無論神山だけではない、屋敷にて待機していた河上、中井……そして昼寝をしていた町田すらも起きてその惨状を嫌でも目にする事となった。


 意識を失った四人をすぐ様外壁の診療所へ運ぶ為に馬車を引っ張って運んだ四人は、外壁北東エリアの繁華街、内地闘士も出入りがある区域の診療所へマリス達を搬送した。


 呆然自失、その四文字が神山の今の表情であった。診療所は運ばれた四人への対応で慌ただしさが一気に上がり、ナース、医者がひっきりなしに動いている。それをひたすら待つしかできないTEAM PRIDE一同は、緊急治療室とこの世界の文字で看板を掲げた部屋の前のベンチに座し、壁に背を預け待つ他なかった。


 さっきまで昼間の照りつける太陽が、夕闇に沈みかけるくらいに時間が経過した。この世界の魔法、医療はそれこそ薬品を掛けたら治るような馬鹿げた医療や魔法薬が出回ってる癖に、この対応の遅さは何だと神山は焦る。


 緊急治療室のドアが開く、その音だけでTEAM PRIDE主力メンバー全員が一気に立ち上がり目を向けるので、そこから出てきたこの診療所の医者は、流石に驚いた。


「先生……四人の状況は……いや、な、直ります…‥よね?薬掛けて、終わりっすよね」


 自分達の傷を治してきた、理不尽で馬鹿げた、奇跡の魔法薬を振り掛けて終わりだろと、焦る神山の言葉に医者の首は……横に振られた。


「極めて予断を許さない状況です……普通の傷じゃあ無い、あれは……呪傷と呼ばれる傷でーー!?がぁは!!」


「ふざっけんなよ、てめぇ!!」


 医者の説明が始まる前に、神山の両手が医者の服の襟首を持ち壁に叩きつけた。


「あれか!?俺たちが劣性チームだから助ける気も起きないってか!!失格になっちまえと、出場停止になっちまえと思ってんだろう!!なぁ!?」


「落ち着け!神山!!」


「あれだけここの職員や医師が出入りしていたのが、全て振りではないのが理解できよう!!」


 神山はもう冷静さを取り戻すのが難しいと、町田と河上両名が医者から引き剥がして反対の壁に押さえつけた、医者はそれでも怒ったり、苛立ちすらも見せずに説明する。


「確かに普通の傷であれば、市販の魔法の治癒薬散布で事足ります、ですが……彼女達の受けた傷は呪傷と呼ばれる呪いが刻まれているのです」


「呪傷って……何だ?」


 聞き慣れない名称に、中井が医者へ尋ねた。これにも医者は、責任を持って一から丁寧にと説明を神山達へ始める。


「普通の魔法とは違う、呪いを纏った魔法というのがこの世界にはあるのです、あらゆる属性において呪いを纏わせた魔法により受けた傷は……魔法薬の効果を無効にして受けた者の傷を塞げなくしたり、傷を腐らせたりさまざまな呪いを刻むんです」


 普通の魔法ではない『呪いの魔法』という初めて聞いた言葉、あの爆発はそれで、マリス達はその魔法に刻まれた呪いにより、傷を根治できなくされているのだと医者が話す。神妙な面持ちで、河上は尋ねた。


「では、主人達は……」


「呪いの進行を遅らせてはいますが……原因を取り除かない限りは」


 ここでできるのは進行を遅らせるしかできないと、苦しげな顔で今できる最大を伝えた。


「取り除く方法は!」


 その原因を取り除くにはと町田が語気を強め聞き出す。


「普通ならば……解呪の魔法か、解呪の秘薬があれば解呪できます……」


「だったら、だったらそれをさっさと皆に!」


悲痛に叫ぶ神山に、中井が待ったをかける様に手を出し遮る。中井は、言わなければならないし、医者も言いたくなさそうだが察して言い当てた。


「普通じゃないんだろ、四人の呪傷は……」


 そうだ、医者は()()ならばと初めに付け加えた。つまりこのケースは普通では無い、異例中の異例たる自体が起こっていると中井は察した。医者は中井の言葉に頷いて宣告した。


「……あまりに強い、この場合は……上級職の解呪魔法すら進行を遅らせるしかできません、現に我々も手を尽くしました……後は……この呪いをかけた者を探し出して呪いを止める他は……」


 その宣告に、力なくした神山がやっと河上と町田が離していいほどにまで落ち着いたと見て解放され、医者に改めて問いかけた。


「呪いが……解けなかったら……どうなるんですか?」


「呪死という死に方をします、この場合……蘇生もできなくなる、完全な死が訪れるでしょう」


 医者の宣告に、四人全員の表情が沈んだ。



 

 呪傷は伝染する、故に解呪系魔法を体得していない者が近寄る事は禁止されていた。つまり、神山達は面会すら許されなかったのである。外はスコールにより雨と雷が酷く、診療所の外に出た神山は、入り口の庇の下で雨降る空を見つめていた。


 何なんだろうか、神山は考えた。


 それこそ、最初は暇つぶしだった。馬鹿げた世界にいきなり連れてこられて、帰る手立ては無く死んだも同然。平民の闘技場で暴れて、優性召喚者を倒したら、マリスと会合した。


 偉そうにしてる優性召喚者を殴り倒す、最初はそれだけだった。やがて、帰れる希望を見つけて目的は変わった、彼女もまた父の死の真相に近づく為、お互い雇い主と契約者として進んできた。


 自分と彼女の関係はそれだけ、言い寄られたがそれは間違ってはならないとしっかり線引きはしてきた。


 だが、彼女と出会わなければここまで来れなかった。皆とも会合は無く、TEAM PRIDEというチームは存在しなかった。彼女は……自分の始まりで恩人であった。


 診療所から中井、町田、河上と次々出てくる。神山は、庇から出て雨降る空を見上げて神山は言った。


「なぁ……もういいよな?」


 もういい、その意味合いを皆が察した。


「俺たちはさ……敵視されて仕方ないけどよ、ルール守って筋通して戦ってきたよな?バルダヤはあっちがルール破った、で?今日これだよ……なぁ」


 自分達はルールを守ってきた、敵視とヘイト、罵声は仕方なしと受け流して来て、その程度屁でも無かった。だが、これは駄目だろうと神山は皆に確認する、自分で決めたルール破って攻撃を加えてきた優性召喚者達を、このまま許せるわけ無しと神山は怒りが限界に達していた。


「この国、世界じゃさ、強けりゃなんでも道理が通るんだ……勝てば正しいってあっちも言ってたんだ……なぁ、もういいよな、我慢しなくてさぁ……もういいよなぁ!!」


 神山の叫びに、一同の目つき、意思は同じであった。義理を果たし、決まったルールを守ってきてこれだけ仕打ちを受けたならば、泣き寝入りなどできようかと。全員の意思が此度ばかりは揃った。


「それで、どうする?まずは犯人探しだが、現場を洗うか?」


「そんな悠長な事言えないよ町田さん、マリスさんに長谷部、緑川の呪傷は時間が無い、しらみつぶしでもローラー作戦でもしないと」


「確実性も欲しい……魔術師を洗うか?」


 マリスを救う為、そしてこの件のケジメを犯人につけさせる為に町田、中井、河上と今後の行動を決めようと意見がだされる。しかし神山は言い放つ。


「全員、殺す」


 それは、これまで倫理の一線を越えなかった神山から出てくる事は無かった単語であった。その一言を発するまでに、この少年は怒りを滾らせていたという事実でもあった。


「内地の奴らを片っ端から、犯人が見つかるまで殺し続ける、名乗り出るまで、呪いが解けるまで殺し尽くす、途中で自首しようが許すものか……あいつらが先に仕掛けたから文句も言わせるものか!!絶対に許さない!!」


 握り拳から血を滲ませ雨に濡れて地面に流れ出すほど強く握りしめた神山が叫んだ。


「なぶり殺しにしてやるぞ!優性召喚者共!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] ヴァルキュリアクランと同盟を結んだとたんこれかよ…チームプライドの関係者、ポセイドンとクライムボーイズも招集して優性者狩りの始まりか?まさに内戦、クーデターよのう。
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