恥辱凌辱フルコース
「そんなザマで地獄を見せるですって?強がりも大概にしなさいな」
投げられ、叩きつけられ、満身創痍な中井真也の体温が上昇し本当に勝気でいる様を自らの異能で見える景色から、それが強がりではない本気の言動であるが故に三条原オリヴィエは、余計に苛立ちを覚えた。
どこに勝機がある?どこに自信があってそんな言動ができて高揚できると呆れすら覚えるオリヴィエを他所に……中井真也は不用意に歩き始めた。構えもなく、殺意すらも無く、筋肉の動きも何かの挙動を見せもせず、不用意に。
「……あ!しまっ!?」
その時にオリヴィエは気付いた、何をしているのだと間合いに入られてしまった事に反射で右の掌打を放ってしまった。それを待っていたとばかりに中井はその右手を掴み、一瞬でオリヴィエを背に抱え上げ……。
「おらっしゃああああ!!」
容赦なく彼女の背中を石畳に叩きつけたのである!ズバァアアン!とアリーナに鳴り響く音、オリヴィエの身体が少しバウンドする程の勢い、その衝撃を受けて海老反りなり痙攣するオリヴィエの姿、と襟を正し追撃もせず悠々と立つ中井真也の姿であった。
『な、投げられたぁああ!?あれだけ優位に試合を運んでいたオリヴィエ選手が!?信じられません!!』
「あが!が、ぁあぉおぉおお〜〜〜ッッ!?」
絞り出すような声を上げて背中の痛みと呼吸の出来ない苦しさに、女とは思えない呻きを上げるオリヴィエに、中井は嘲笑うような笑みを見せた。
「い、一本背負い……」
「見事だな、教則DVDに出そうなお手本通りの」
中井の反撃に神山と町田も驚かされた、不用意に近づいた相手の打撃を掴んでのカウンターによる一本背負い投げであった。ここまで綺麗に投げるのかと、改めて中井真也という男が積み上げて来た濃厚な投げ技の力量に感嘆した。
「わ、私の攻撃を……ぐぅ、誘って……ゆ、油断したわ」
それは、今の今まで自分が中井にして来た戦法そのままであった。見事にそのまま返されてしまったとうつ伏せになってから腕を立ててオリヴィエは立ち上がる。
「だ、だけどそれが何……同じ手は二度も受けない、もう同じ手は使えないわ!」
油断した、まんまとやられた、だがそれがどうした?許したのはこの一度だけだ、二度も同じ事はさせるものかと立ち上がった。それに対して中井は鼻で笑って言い返す。
「そんな芸のない真似するかよ、オラ、しっかりハメてやるから来いよ××××女」
「こ、この……減らず口を!!」
右手人差し指をくいくいと動かして、そして親指を人差し指と中指から出すような握り拳を見せて挑発する中井。この時三条原オリヴィエは、中井真也にしてやられた事から冷静さを失っていた。平常時であったならばまず乗らない中井の挑発に、頭に血が上りいよいよ乗ってしまったのである。
「その口を二度と開かなくしてやる!」
喧嘩の如く襟を掴みに行った瞬間、オリヴィエの足は宙を舞い世界が逆さまになり、凄まじい音を上げてまたも背中を叩きつけられた。
袖釣込腰、またも投げ技でもって中井真也はオリヴィエを投げ倒して見せたのだった。
「流れ変わったな……中井くんは攻略法を見つけたみたいだ」
最初の劣勢を一気に覆して流れを引き込んだ中井に町田は攻略法を見つけたかと頷いた。神山も、いつもの中井を取り戻した様子に手に汗を握りながらもふと疑問が浮かんだ。
「しかし……いきなりこんな切り替わったのは何故っすかね?」
「そもそも、彼女に先手を取る事自体がまず間違いだったのだろうさ」
こうも一気に流れが変わった理由が分からんと宣う神山に、町田はさっと答えを出した。
「彼女は合気道をバックボーンに持つのだろう、合気道というのは相手の攻撃を返す事に特化した武道だ、自ら先手を取る事はまず無い後手の武術……なら、こっちから攻撃しなければ良い話だ」
「でも……攻撃しなければ……」
「そうだな、互いに先手を取らないなら戦いは生まれやしない、しかしそれはできない……試合である以上中井くんは先手を取りに行くし、プレッシャーをかけ続けたのも確かにいい手ではある……が、リターンはひたすらに少ない」
だからこそ、と町田は中井の行った策を予想した。
「敵意なく自ら間合いに入って攻撃をさせた、ここまで有利に運んだ彼女からすれば、流石に気が抜けたなり驚かされて手も出てしまった……そして彼女は自らの武道の理念も頭から消え去る程、中井くんに惑わされている」
またも聞こえた石畳の音、背中を押さえて転がり呻く様と、静まり返った観客、こんな展開予想もできなければ見たくも無かったと観客達は皆そう思っているのだろう。しかし、中井真也の蹂躙はまだまだ続きそうだった。
『こ、こんな事があっていいのかぁ……あ、あの不触不敗と言われた、オリヴィエ選手が……劣性の選手にいいようにされているぅ!!立ってくれ!!反撃してくれオリヴィエ選手!!』
「ぐぁあ……あぐ……あ……」
華美なドレスは薄汚れ、痛みに苦悶の表情を浮かべ涎も垂らしてオリヴィエは悶える事しかできなかった。
「粗末なもんだな?大方、自分が反撃して勝つパターンばかりで受け身の練習を忘れたんだろう?」
中井からすれば幻滅ものであった、何しろこの女は投げや合気の技術は流石に肝を冷やしたが、まともに受け身を取れていなかったのだ。本来ならば合気道を習っているならば、むしろ受け身こそ上手と思われたが錆びつきが中井から見て取れたのである。
不敗故の驕り、それがこうも出ているとはと中井は呻く三条原を見下ろし、そのまま襟首を掴み立たせて、観客に向けて言い放った。
「お前達、よーく見とけ!!不触不敗の令嬢が腐り果てる様を、恥辱と屈辱の果て敗北する様をお前らにしっかり見せてやるよ!!中井真也の"恥辱凌辱フルコース"だ!!」
中井真也の宣告と共に始まる『恥辱凌辱フルコース』と名付けられた何かが始まろうとしている!その始まりは中井がオリヴィエの身体を前から腰に手を回し持ち上げた所から始まった。
「ぅああ!?」
このまま頭からフロントスープレックスで落とす気か!?腕ごと巻き込んで抱き抱えられて受け身もまず無理である、来る痛みに耐えるしかないと目を瞑るオリヴィエ、しかしーー。
痛みは、頭から来なかった、むしろ……そこが何故痛むと感じた時にはーー。
「お、おごぁあああ!?ぎぃいい!!」
酷く醜い悶絶の叫びを上げた、中井の膝がなんと、オリヴィエの股に突き刺さっていたのである!
『ああ!ああーー!?な、何という……』
実況のマティウスも、観客も、あまりの中井の行いに絶句した。それは同じTEAM PRIDのメンバーである神山や町田ですら、ドン引きの所業であった!!
「や、やりやがったあいつ!!うわ、うわ!!マジかよ!?」
「いくら何でも軽蔑するぞ、中井くんーー」
恥辱凌辱フルコース、その一つ目は『マンハッタン・ドロップ』正面から抱え上げた相手の股を勢いよく自らの膝に打ち下ろす急所へのプロレス技であった。男相手ですら忌避する技を、中井真也はオリヴィエに行使したのである。
「ひいぎ……いい!いぎ!」
「次っ!」
「あうっ!?」
そのまま悶絶の表情を浮かべるオリヴィエに、容赦無しの追撃が敢行される!そのまま腰から両膝に手を移動して引き上げ、背中から倒されたオリヴィエの左足首を脇に挟み込みロックし、てこの様に捻り上げた!
「アキレス腱固めぇ!!」
「いやぁああ!!ああっ!あぁああ!!」
シンプルなまでの、見たままとばかりのアキレス腱固めに、オリヴィエが叫びをあげた。左右に回って逃げる余裕すらない程アキレス腱が伸ばされブチブチと嫌な音も聞こえてくる!
「さらに……」
「あああ……あが、あぁあ!」
まだまだ続く凌辱関節コンボ、中井はオリヴィエの左足を跨げば、オリヴィエも仰向けからうつ伏せになり必死に逃げようとしたその背中に乗り、思い切り足を引っ張り、右足も脇に抱え込み身体を逸らす!
「逆エビ固め」
「あがぁああああ!!ひぃいいい!!」
ガチではまず決められない、プロレス技の逆エビ固めにオリヴィエの背骨が軋みをあげる!!しかも、足が最早オリヴィエの後頭部にまで到達するほど力を加えられて背骨が折れてもおかしくない!!
『や、やめろ中井!!もう勝負はついてるだろ!!』
『こんな事して楽しいかよ!?おい!!やめろって!!』
『やめて、もうやめてあげてよぉ!!』
『審判は何やってんだ!!ヴァルキュリアも止めに入れよ!!』
観客から悲痛な叫びが上がるほどの一方的な蹂躙が、阿鼻叫喚を作り出す!!神山ですらこれはもう試合ではないと、対面の入り口に恐らく居るだろうヴァルキュリア陣営に叫びを上げた。
「おい!!もう試合になってない!!参ったさせるなりタオル投げるなりしろよ!!死んじまうぞ!!」
しかし、そもそも居ないのか、声が聞こえないのか、全くもってヴァルキュリアの陣営に動きはなかった。このままでは中井が殺しちまうと、審判側に目を向けたが、その審判すら止めようとしていなかった。
そして……フルコースのラストとばかりに中井は観客を見渡して笑った。中井の足、そして腕がそれぞれオリヴィエのそれぞれの足に絡みつき……がっしりと固め上げ股を強制的に開かされる!
「生き恥晒せ、バナナスプリット!」
「い、いやぁあぁあああああ!?」
それは痛みと恥辱の二重奏、股関節を極められて、しかもスカートは捲りあがりストッキングの下に隠れた下着すら晒される恥辱の関節技。中井真也に倫理も道徳も無し、敵対する相手の命も、尊厳も完膚なきまでに破壊して、二度と立ち上がる事もは向かう事も許さないとばかりに、オリヴィエの股関節と精神を破壊しにかかった!!
『もういい!!もういいって!!審判止めろよ!!こんなの試合じゃあねぇよ!!』
観客からもストップが掛かる程に最早勝負はついたと見えた、しかし審判は止めない、おかしいほどに止めに行かない。こればかりは神山もいよいよ焦燥が、疑問に変わった。
「な、何で止めない……もう負けだろこれ!?まだやらせる気かよ!!」
何故だ、何故試合が止まらない、神山が焦る最中……対面入り口、ヴァルキュリア・クラン側の朝倉海莉は……笑っていた。
「止めるわけないわ、ここからが彼女の真骨頂……さぁ、悪魔が目覚める時よ」