因縁爆発
TEAM PRIDEは再びオープニングを奪い去った。そして始まるオープニングファイト、神山達本戦出場組は昼からの本戦までは、観客席にて応援する事にした。
「長谷部さんいつも通りに!!スピードも圧力も勝ってる!!」
オープニングファイト出場、長谷部の復帰戦には神山が熱を込めた応援を観客席から上げていた。石畳のリングにセコンドは入れない、というよりセコンドというルールは展覧試合には無い。対戦相手は本戦1回戦でバスティオンに負けたサンレイズの控え選手だったが……。
『シィイッ!』
『左ぃい!!ナオキ選手の左のフックが当たって人形のように崩れ落ちたぁ!!』
「よぉおっし!!」
元はチームでリーダーを張っていた者として、それを見せつける様に左のフックで意識を奪い見事に勝利した。
続いて緑川社のデビュー戦、地方の興行や野試合でなく、まさかの本戦の前座をデビューに当てられたガチガチの緑川。
「動け動け!まず動いて相手の攻撃を散らせ!!」
「よぉし!投げた!!ナイスーー!!」
「蹴りも当たるぞ!魔法も避けれてる!!好きなように戦ってみろ!!」
「後少しだ!!勝てる!いや勝てぇ!!」
TEAM PRIDE本戦組、エキサイト。前半こそぎこちない動きだったが、やがて慣れ出して主導権を握り相手のノワールド・エールの選手相手に健闘。しかし残酷な事に……蝋燭が燃え尽きタイムオーバー。展覧試合のルールでは時間内に決着がつかない場合『引き分け』ではあるが、記録上には両者に負け星がつく。
が、緑川の支配力とノワールの選手の怪我具合から、もし判定があれば緑川が判定勝利を得ただろうし、観客もこれで緑川が負けたなど言えない程にノワールの選手はダメージが見て取れた。だがしかしルールはルール……緑川社、残念ながらデビュー戦は黒星スタートとなった。
オープニングファイトが終わり、準決勝第一試合バスティオンVSブルーラウンズが開幕。
古豪バスティオンがいい勝負をするかと思えた、先鋒次鋒は一進一退、しかしブルーラウンズの副将にして、河上との因縁を持つ"剣術無双"水戸景勝がバスティオンの副将と大将を下し、ブルーラウンズが決勝へ駒を進めた。
昼休憩に入ると、TEAM PRIDEは入場ゲート近くに通された。刻一刻と、試合が近づいてくる中、初戦の中井真也は入念なストレッチ身体を解していた。
「っふーーー……」
ストレッチを終えて深く息を吐く中井、右手左手をぶらぶらさせてはその場で何度も飛んで、脇を閉めて構えジャブを打ったりタックルの踏み込みを確認したりと様々な動きを見せる。
「調子はどう?中井」
「まずまず……後はもう、殺すだけだ」
闘志などとは生ぬるい殺意を湧き立たせ、中井真也が狂笑を浮かべた。これはもう止まらない、これから中井真也のグロゴア必至な惨殺劇が始まるのだと神山は顔を顰めた。
「中井選手!入場時間です!!」
「っしゃあ!!」
いつもはあまり熱を見せない中井が熱くなっている、故に心配だと神山は駆け足で入場口に向かった中井を心配した。あの男は間違い無く、相手を殺す。幾度か見てきたが慣れないものだ、河上の様な現実離れした絶技の死は理解を拒めたが、中井の技は実感を伴わせる。
勝てとは思う、しかして殺してくれるなとも神山は遠のく背を見て願うのであった。
『いよいよ始まる展覧試合準決勝第二ブロック!!声援もさらに高まり会場は熱波の如しだぁ!!さぁ、ヴァルキュリア・クランVSTEAM PRIDEの開幕だぁ!!』
実況のマティウスが大声を張り上げる中、観客もそれに応える様に湧き立って声を上げる。既にレッドゲートより入場した三条原オリヴィエは……いよいよ因縁の相手が入場するブルーゲートを見つめて目を細めた。
『だが、TEAM PRIDEの侵攻はここで終わるでしょう!ヴァルキュリア・クラン先鋒は難攻不落、不触不敗の令嬢と呼ばれるオリヴィエ・サンジョウハラ!!公式戦で未だに相手に勝ち星を許していない彼女は、四聖とも引き分けたヴァルキュリアの守護神!万が一にも勝ちはないでしょう!』
不敗の令嬢、それが彼らを終わらせると実況もヴァルキュリア寄りの不公平な様子が見て取れた。仕方がない、彼らも自らが異物と認めている、それを拭い去るなど中々できやしないのだから。
『ブルーゲートより……シンヤ・ナカイ選手の入場です!』
そして、中井な名前がコールされた瞬間、声援は一気にブーイングへと変わった。しかし……。
https://youtu.be/wp2JRb8-Wnw
厳かな、それでなんとも神秘的な音楽が流れ出すと、会場は静まりかえる。
『恐らく、今現在シダトにおいて!最も恐ろしい闘士は誰なのかと問われたらこの男の名前が出てくるでしょう!冷酷残忍、人を人と思わぬ人でなし!シンヤ・ナカイが現れたぁああ!!しかしその歩みは重々しい!!女神からの断罪に待つかの様な重々しさだ!彼の悪行はここで終焉を迎えるのかぁああ!!』
ゲートから現れた中井真也は、初戦の様に観客を煽る事はしなかった、ただゆっくり、ゆっくりと石畳のリングに歩いて行き、魔法障壁を潜り抜けてオリヴィエの前に現れたのだった。
対峙する2人、片や赤色の道着、片や闘いの場らしからぬ袖口は広いフリルにスカートとさながら人形の如き出立ち。そんな西洋人形じみた装いの三条原オリヴィエを、中井真也は見上げて睨みつけた。
対面したオリヴィエは、ゾッとさせられた。それは中井の眼差しに目が合い、一気に身体から熱が奪われる程に。人間の目というのは、こんなにも人を冷たく見つめる事ができるのかと、懇親会や会見の時の騒ぐ子犬はそこには居ない、今目の前に居るのは……。
「異常者……あなた、とんだ異常者だわ」
「ふん……俺からすれば、こんなところで魔法使いごっこしてるお前らが異常だ」
異常者だ、この男を人などという枠組みには入れてはならない、そう思わせて仕方ないと口に出したオリヴィエに中井は鼻で笑って言い返す、異常者はそっちだと。
それだけだった、互いに振り返りコーナーまで下がり、いよいよ開始のゴングが鳴り響く!
「はじめぇえぃいい!!」
開始と同時に振り返る中井、そしてオリヴィエ。2人の戦いは……静寂から始まった。構えて互いに、ゆっくりと距離を詰めていく。両手を下段に垂らして摺り足、大樹の如く足は広く取り倒されないと安定ある立ち方のオリヴィエ、対する中井は軽快なボクシングの様にステップを刻む。
『おっとシンヤ選手!いつもの奇襲は無しにゆっくり距離を縮めていく!!流石に不敗の相手には怯えが見えるかぁ!?』
「好き勝手言いやがって……それが出来ない実力ってのはあってるがな……」
実況に苦言を呈す神山は、静かな始まりをただ見守った。相手の能力が露呈してない今、まず中井はそれを看破する事が必要なのだ。距離が狭まり、いよいよ突きも蹴りも掴みも互いに届く間合いまで来た。
瞬間ーー中井が仕掛けた。中井が放った左のジャブ、それをオリヴィエは……。
「!?」
避けなかった、中井のジャブを眼前に放たれてなお不動で、見切っているとばかりに動かず、スウェーやダッキングも無しに間合いを見切ったのである。
「ちっ!!」
舌打ちした中井は更にもう一発左のジャブを放つと、オリヴィエはスウェーバックして距離を取り間合いを取り直した。
「あらあら、当たらないわね?」
嘲笑を込めての挑発、中井は取り合わずに構え直した。一発目と二発目、それぞれが違う意味を含んだジャブだった。一発目は反応を見る為のフェイントのジャブ、二発目は当てる気で放ったジャブである。つまり……三条原オリヴィエは、それを理解して避ける避けないを選択していると断定した。
まず一つだと中井は、三条原オリヴィエの異能を解読する手がかりを手にするや、なら次はと仕掛けにかかる!
「ッシャアア!」
一気に踏み込み、ジャブフェイントを掛けてから右のロシアンフックで中井はオリヴィエに殴りかかった。それもしっかり右へステップして拳の間合いから離れるオリヴィエは、いまだに顔色が変わらず余裕であった。
『焦れたシンヤ選手仕掛けた!!しかしこれも鮮やかにオリヴィエ選手がかわすぅ!!』
清々しい贔屓目な実況、しかし中井はリズムを上げる。この世界でチーム内の練習を惰性で過ごしてきたわけではないと、ギアを上げた!
「お おぉ おおお!!」
細かく、そして早く、ジャブが、アッパーが、フックがオリヴィエに襲いかかる!長谷部から叩き込まれた基礎的なコンビネーションが、中井の打撃の幅を広げたのは確かであった。しかし!
「どうしたの、当ててみなさいな、ほら、ほらほら!!」
悉くが空を切る!透かされる!!それを入場口から見ていた神山は歯噛みした、ここまで好きに避けられるのかと!!さながらプロの上澄に居る、動体視力の化け物を思わせる回避技術を持つオリヴィエの様には、感嘆すら覚えた。
「くぁああ!!」
そして、遂に焦れた中井は、右のストレートが崩れ大振りになった所で。
「貰ったぁ!!」
オリヴィエが放ったカウンターの右掌底に顎をカチ上げられ、両足が地面から勢いよく離れた。入り身投げとも取れる掌底カウンターと、中井の踏み込みを利用した投げと共に、中井真也の後頭部が石畳に叩きつけられた!