幕間 第二回TEAM PRIDE入場パフォーマンス会議。
「集まったか、というわけでやろう!! TEAM PRIDE準決勝入場パフォーマンス会議!!」
「え、またやるんすか町田さん?」
「嫌か、神山くん!」
「無論乗り気っすけど!」
試合まで残り三日を切ったTEAM PRIDEは、副将河上静太郎の下に集合をかけられた。
前回の展覧試合本戦第一戦にて、それは酷いチーム紹介をされたのを逆手に、河上静太郎がプロデュースした入場パフォーマンス仕掛けた。今回もまたそれを見越して……いや、ただしたいが為に河上は皆を集めたのだった。格闘技イベントの入場は胸を熱くさせ、モチベーションも高まるので神山はそれを断る事はなく賛同した。
「流石に対策されてません?以前はジャックした形で出来ましたけど」
そもそも、以前はノーマークだった事もあり介入して好き勝手出来た事、此度は流石に何もさせて貰えないのではとソファに座った中井が意見した。
「心配はいらない……実はここに入手したタイムテーブルがあってだな」
「どこから入手したんだ!?」
大きめな羊皮紙をテーブルに広げた河上に、長谷部が何故そんな物を入手できているのだと驚いた。タイムテーブル、主にイベントの際にスタッフに配られたり、当日会場に張り出される、観客にどの試合がどの時間にあるかを掲示する物だ。
これによると、第一戦同様にオープニングがあり、やはりそこで本戦出場チームの紹介が行われるらしい。その後にオープニングファイト、所謂前座が六戦、内二戦に長谷部と緑川の出場が決まっている、緑川に至ってはデビュー戦となるわけで、緊張するだろう。
そしてメインイベントたる、準決勝一戦目であるバスティオンとブルー・ラウンズの試合、昼休憩を挟んでヴァルキュリア・クランとTEAM PRIDEによる準決勝第二戦へ。以上が当日の進行順であると皆が目を通した所で、河上は引き続き議題に移る。
「さて、じゃあまず……決めましょうか!長谷部くんに緑川くんの入場曲!」
そんな河上が最初に提示したのは、二人の入場曲からだった。
議題1. 長谷部と緑川入場曲を決めよう。
「入場曲……僕のですか?」
「緑川……入場曲はいいぞ、もうテンション上がるから」
正しくそれは格闘家やプロレスラーの特権、自分の好きな音楽と共に入場する気持ちよさはそれはもう快楽だと神山は笑顔で熱弁した。
「神山くんのスマホにはそれはもう有名な格闘家の曲から洋楽と様々だ、ポセイドンが今回も音響を支援してくれるから何でもいけるぞ?」
現在、TEAM PRIDEが保有する財産かつ設備にはガソリン式発電機があり、スマホを充電できてしまう。無論通信はできないが、神山がスマホにダウンロードした曲からある程度は対応できる。
さらに、 TEAM PRIDEと同盟関係にある外壁チームの『ポセイドン』は、音響設備を保有している為、 TEAM PRIDEはこの世界で唯一入場パフォーマンス、入場曲を導入できるのだ。
という訳で、まず長谷部と緑川の入場曲を決める事となった一同は、神山のスマホのミュージックアプリを開いて、あれだこれだと探し始めた。
「お、これとかどう?いかにもって感じで」
https://youtu.be/e7U5MwMGUTM
「なんかサイケデリックでな、この重厚な曲も良くないか?」
https://youtu.be/CbI79e5iZKs
神山と河上がそれぞれ良さげな曲を流してみて如何かと
長谷部と緑川両名に問いかける。すると、長谷部が……。
「神山ーーはあるか?」
ある曲名を出して少しばかり驚いた。
「へー……長谷部ってそっちの曲よく聞くの?」
「あぁ、で、ある?」
「あるよ、じゃあそれにするか」
どうやら、長谷部は長谷部でお気に入りの曲があるらしく、ちょうど神山のスマホにもあった様だ。その為長谷部はそれを入場曲にする事が決まった。
「あ、この曲かっこいい……僕はこれがいいです」
「ほーこれまた中々に……じゃあこれで決まりとするか!」
長谷部、緑川の入場曲は、難なく決まった。
「続いて、チーム紹介時の演出に関してだが、意見はあるか?」
議題2.今回のチーム紹介演出に関して。
「第一戦のテーマは"ファンタジー"だった、はっきり言って即興でマリスさんと僕が二人で意見交換して、ポセイドンにそれを説明してあれを作り上げたわけだが……してみたい事とかあるか?」
「あれ、マリスさんと河上さんが作ったんだ……」
あの入場、二人の即興で作り上げたんかと神山は改めて度肝を抜かれた。河上静太郎は元々良いとこの生まれで、恐らくではあるがそう言った会社経営の教育も受けたとなれば、そんな立案や進行や現場の指示もこの人は叩き込まれたのだろうかと、この人ならそれくらいやりかねないと思わせられる。
さて、話が逸れたが次はどんな感じにしたいかと河上に問いかけられた面々だが、言われてすぐは漠然としたイメージすらも浮かばないのが当たり前であり、メンバー全員がどうするかと悩む。
「えーと、最初ファンタジーでしたよね?今回はもう、現代的な感じにとか」
早かったのは緑川だ、とりあえず意見を出して停滞を避けようという感じではあったが河上はふむと羊皮紙に羽ペンを滑らせた。
「現代的と……」
現代的、漠然とした単語だが着火剤には十分だったのかもしれない。河上がその単語から思いついて神山に問いかけた。
「神山くんはそもそも、そう言った格闘技の興行やらはよく知ってるのでは?何か思いつかないかい?」
格闘畑にどっぷりな神山くんよ、何かないかね?聞かれたら答えねばなるまい、神山は思い付く限りのことを次々に話し始めた。
「そうっすね……あぁ、あれ、煽りV?は無理っすよね?」
「あおりぶい?」
「試合前に観客に流すVTRの事だね、観客に選手同士の因縁だったりを見せつけて煽り、観客を湧き上がらせるんだが……」
緑川が聞き慣れない単語にそらで繰り返す様に言うと、長谷部が説明した。
「たしか魔法で映したな、できるかもしれない……」
煽りVかと、河上はこの世界の魔法で映像を映し出す技術があったので、それも出来るだろうと羊皮紙に刻み込む。
「煽りVと言えば……ほら、あの人だよあの人……あのーーほら、誰だっけ?」
神山の提案に、町田もそう言えばと思い出す。
「あの人って何ですか町田さん?何か凄いクリエイターとかが居るとか?」
「いや、作る人ではなくてだな?ナレーションの、男性が居るでしょ?」
「立◯文彦さん?」
「その人だ長谷部くん!」
「立木◯彦さん!あー外せない!うんうん!!」
町田の曖昧な記憶を長谷部が当てた、それに神山も確かにと頷いた。日本の格闘技イベント、そのナレーションにはこの人以外居ないだろうと。
「誰ですか?◯木さんって?」
「エ◯ァの碇司令、銀◯の長谷川さん」
「あー……」
これまた置いてけぼりの緑川を河上がフォローして、声優である事を教える。
「となれば!レニー・◯トさんの選手コール!!何とかならないかな!?」
「いや無理だろ!呼ばれたいけど、流石に同じ声の人今から探すのは難しいって」
「立木文◯、レ◯ー・ハートっと」
こうして、また1日が過ぎて行く。
TEAM PRIDEは果たして、無事入場パフォーマンスを成功させることができるのか……。
展覧試合まで、残り二日の事であった。