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一之太刀

 『忍者』


 そんな二文字の異国の言葉と字を覚えた時、何を思っただろう。神秘と躍動だと彼は語るやもしれない、あらゆる媒体で、その職業を知った。時代劇、特撮、アニメ、ゲーム……脚色誇大表現あれど、やはり憧れた。


 彼は思った。


『忍者』になれたらと。


 だから日本に来て、忍者の勉強をした。


 無論、突きつけられる事実。蝦蟇を呼び出したり、木の葉を纏い消え去ったり、雷を放ったりなどできやしないと。しかして、それでも彼は学び続けた。


 そして彼は、この世界に流れ着き運命を見た。


 自らの加護と異能、さらにはその生まれ得た肉体が合わさった時……彼は夢想の産物であった忍者となれたのだ。空を舞い、火を吹き、風を切り裂く刃を振るう。


 この世界が、この異能がアンダーソンに『夢』を叶えさせた。


 そしてーー!


「カトンジツ!!」


 アンダーソンは歓喜していた!ニンジャになった自分が!まさか、まさか!本当の侍と会合し、戦っているという事実に!!アンダーソンは、必要も無い模倣の印を指で組み、口から放つ必要も無く手から放てる炎を、態々口元に持っていき吹き出す様にして炎の魔法を放った。


 それを、さながら未来予知じみた反応で範囲から跳ね避けた河上が容赦無く踏み込み、斬り込んでくる。


「ふーーっ!ふーーっ!ふぅうう……」


 が、届かない!河上静太郎の踏み込みは、アンダーソンの才能たる黒人のバネに追従できない!!あと半歩、たったそれだけがアンダーソンの命を守り、河上の一太刀を防いでいるのだ!


 息が上がる、汗もひどい、服は泥だらけ……これが、自ら『現代最強の剣客』の姿かと、河上は笑った。


 しかし、それは苦笑や自嘲などではなかった。高揚、歓喜、興奮!それらが身を包み疲れも知るかと、肉体はまだまだ動けと叫んでいる様だった。


「アンダーソン・ソウザ!!認めよう、この河上静太郎が!!貴様は……誰が何と言おうと、皆が貴様を偽物と呼ぼうと!本物の忍者であると!!」


「Wha……ワタシが、ホンモノ?」


「そうだ!お前は本物だ、現代最強の剣客たる俺がそうだと!!本物であると認めてやる!!」


 だからこそ!河上は今の今まで、下段に片手持ちに構えていた愛刀を……両の手にて握りながら、ゆっくりと上段に構えながら宣った。


「この俺の必殺を、貴様にくれてやる」


 その所作だけで、アンダーソンの肉体は一気に冷や汗をかいた。


「Uhhh……必殺技ネ……何する気ヨ」


 アンダーソンでも、忍者を学ぶ上で侍を、日本の剣術を習わなかった訳がない。河上の上段構えから、何を放つかなど分からない訳がない。唐竹割り、一之太刀など呼称されるそれを前にして、アンダーソンの逆手握りの忍者刀に力が籠る。


「イザーー尋常に!」


 アンダーソンは選択を誤った、まだ魔法で模倣した忍術を使っていれば、飛び道具を放っていれば、戦いの行方は分からなかった。しかし、アンダーソンはその逆手の忍者刀にて、河上を斬って勝利したいと思ってしまった。


自分の脚力であれば、河上の一太刀が振るわれる前に首を斬れると、この斬り合いの中上回っていた才覚を信じたのだ。


 色付く木の葉が舞い、二人の前を揺蕩い。


 ゆっくりと……落下した……刹那!


 黒鷲が飛んだ、獲物を刈り取る爪を光らせて飛翔して、その喉元に突き立てに掛かった。だがーー何故か景色が()()()


 比喩では無い、アンダーソン・ソウザの見る景色が、中央を暗闇にして左右綺麗に割れてしまったのだ、世界が真っ二つになったかの様に。


 痛みも無い、熱もない、苦しみすらない。しかしてアンダーソンは理解した。



『兜を割ろごたっ?河上くん、ないをゆちょっど?』


『聞けば、遡ると昭和に、さらには幕末の同田貫の話もあります……』


 河上静太郎、十二の夏。河上邸敷地練武館にて、河上静太郎は師の一人を招き、指導を受ける傍ら尋ねていた。


『兜割』という、奥技について。


 その実態は奥技ではなく、明治19年の明治天皇の天覧、その催したる鉢試しの記録であった。幕末の剣豪、榊原鍵吉が『同田貫』という刀にて、兜に三寸九分切り込んだという話であった。


 そして昭和62年、天真正自源流の剣士河端照孝により、四寸切り込んだという実例もあった。それらに行き着いた河上は尋ねたのだ。『兜割り、できないかなと』


『いかに君ん才能があろうとも、そんたわっぜ難しかことじゃろ。剣ん腕前、名刀、それらが合わさってはいめっ出来っこっじゃ』


 その時の師範は、河上を諭した。才とそれに見合う刀があり、初めて可能であろうと。


『そうですか……たしか、良くて四寸でしたね……両断は記録に無いと』


『両断すっ気け?馬鹿馬鹿しか』


『できますよ、僕なら、必ずね?だからここにお呼びしたんです、示現流の指導……よろしくお願いします』




「お、お見事……です」


 脳天より、股下へ、両断されたアンダーソンは、それでもまだ言葉を発した。


 上段より振り下ろされ、股下に抜けた河上の一之太刀は、アンダーソンの頭蓋を、頚椎を見事に唐竹に割り両断して見せたのである。


「頭蓋、脊柱割り……一之太刀ーー!!」


 ずしゃりと、バケツをひっくり返したかの様に散乱する、アンダーソンの両断された肉体、血液、臓腑。それを見下ろして河上は、柄尻を左拳で叩いて血を払い落とし、鞘に納めた。


「アンダーソン・ソウザ、本物の忍者よ、貴様の命、生き様、この河上静太郎が背負って行く……楽しかったぞ」


 そして、遺骸の片割れが握りしめた忍者刀を取り上げて、河上は自然公園を後にした。


    TEAM PRIDE HUNT バルダヤ西エリア


   ◯河上静太郎VSアンダーソン・ソウザ●


        試合時間5:28 絶命勝利


     決まり手 頭蓋、脊柱割り一之太刀


TEAM PRIDE……まずは一勝!!


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局アンダーソンさんは遺伝子疾患は患ってなかったんですね。忍者刀とか手裏剣は河上さんのコレクションになるのかな?
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