TEAM PRIDE HUNT開催
ホテルの、いや……バルダヤの各所で人集りができていた。この世界には、魔法によって映像を映し出すと言う技術があり、さながら巨大な映像広告のようにそれは、各所で放映されていた。
神山達が滞在するホテル近くにも、映像が浮かび上がっており、神山と町田二人はその宙に浮かび放映されている映像を見て……。
「は?」
「何なんだあれ?変態か?」
呆れと驚愕の声を上げた。何しろ……そこに映っているのは黒のビキニパンツ一丁でポージングを極める、筋骨隆々の男だったからだ。しかも……趣味の悪い殺人鬼がかぶる様な変なマスクで素顔を隠し、軍帽を被っているという理解しがたいセンスであった。
『バルダヤにて休暇を楽しむ闘士諸君、ご機嫌よう!私の名は……マッスル・ジェネラル!展覧試合実行委員会の一人だぁ!!』
サイドチェストポーズを決めた筋肉男、マッスル・ジェネラルは元気よく自己紹介をした。現世ならブラクラか釣り動画にしか思えぬその異様な様ながら、2メートル級の巨体と見事なバルクに彫刻じみた彫りの筋肉は目を見張った。
『この映像を見ている闘士諸君、君たちは選ばれし者!多額の賞金と栄誉を掴むチャンスを与えられし強き者達よ、単刀直入に言おう!!今、このバルダヤに滞在しているある闘士達をぶちのめして欲しい!!』
マッスル・ジェネラルはサイドトライセップスにポーズを変えながらそんな事を宣い出した。その瞬間、神山と町田両名は、まさかと戦慄した……襲撃の話は聞いたが……その方法で仕掛けてくるとまでは思いも寄らなかったからだ。
『名はTEAM PRIDE!皆も知っていよう、展覧試合に現れた劣性召喚者達で組まれたチームだぁ!勿論、めちゃくちゃ強い……そのTEAM PRIDEメンバー全員に懸賞金を賭けたぁ!!』
そして映像に映し出される、手配書の様に加工された神山、中井、町田、河上4名の写真に……いよいよもって神山は理解した。今から何が行われるのか、自分達がどんな状況に陥ったのか。
『ルールを説明する!今から我々実行委員会はバルダヤの4か所にてTEAM PRIDEを待つ!!TEAM PRIDEの4人は一人ずつこの背中の地図のポイントにて待つ私を含めた4人に勝てば……展覧試合の準決勝出場を認めてやろう!』
ダブルバイセップスになりながら、マッスル・ジェネラルの見事な背筋に……バルダヤの地図が描かれていた。ギャグなのか真面目なのか解らないが、そなバルダヤ地図には四箇所の星がマーキングされていた。
『TEAM PRIDEの諸君がそこにたどり着く前に、これを見た闘士達はそれを阻むのだ、見事TEAM PRIDEのメンバーを倒した者には……金貨千枚と展覧試合出場権を与えよう!!なお、TEAM PRIDEの4名のうち一人でも逃げた場合は……準決勝への出場権を剥奪させてもらう!!』
最後にまた振り返り、モストマスキュラーのポージングと共に、マッスル・ジェネラルは宣言した。
『さぁ、腕に自信のある者は急げ!!乗り遅れるな!!TEAM PRIDEの奴らを失神KOさせて、金貨と展覧試合出場権を手に入れろ!TEAM PRIDE HUNTの開催だぁ!!』
そして映像が切れた。
見上げて見ていた神山と町田は、その映像のインパクトと理不尽な内容に唖然とするしかなかった。
纏めるとこうだ。
ビキニパンツにマスクを被った、筋肉もりもりマッチョマンの変態が、展覧試合実行委員会の一人で、TEAM PRIDEスタメンに懸賞金と展覧試合出場権を勝手に掛けた。逃げたら準決勝には出さない、出たくば俺を含めた4人を倒してみせよ。
という事である。それを集まって聞いていた、バカンスに来ていた闘士達から、ふつふつとこの催しに熱を抱き始めているのを、神山と町田はしっかり感じ取った。
「神山くん」
「は、はい」
「ゆっくり、そのまま……ホテルまで」
「あいあいさー……」
いくら何でも、部が悪い……ゆっくり下がって状況を立て直し、メンバーと合流するぞと町田に指示され、神山はゆっくり下がり始めた。しかし……。
「ん?あ!おい!!」
餌を前にした飢えた獣の嗅覚たるや恐ろしい、たった一人が気付いた瞬間、一斉にその場に居た闘士達の視線が神山と町田に注がれた!!
「うォオオ!?逃げろ町田さん!!」
「うらしゃああああ!!」
近場に居た客たる闘士に、神山は飛び膝蹴り、町田は飛び込み正拳で顎を打ち、一気に駆け出した。
「多勢に無勢だぁ!いっけぇ!!」
「TEAM PRIDEは皆殺しだぁ!!」
水晶体に向けてポージングを決めていたマッスル・ジェネラルは、決まったとばかりに最後はフリーポーズとして、捻りを加えたダブルバイセップスで固まっていた。
「マッスル、手はず通りバルダヤ全域に放映したよ、早速動きがあったみたい」
「ご苦労!アーミー!!ふふ、さぁ後は辿り着くか否かだなぁ!!俺のこの筋肉とやり合うのは誰になるか!!」
そんなポージングを決めたマッスルの後ろから、迷彩服を着込んだ好青年が経過報告をすれば、ようやっとポージングを解いたマッスルは、彼を『アーミー』と呼びながら、テーブルに置かれたゴブレットと、山盛りにされた鶏卵の前に歩き出した。丁寧に、その筋肉の大きさとは裏腹に、マッスルは卵を割りゴブレットに次々入れていき……それを傾けて喉を鳴らし飲み干していく。
「Hayマッソー!生卵がぶ飲みとかロッキーでも見たかい!?サルモネラで死ぬぜ!!」
さらに一人、マッスルの所業をマジかよと見つめる男が居た。こちらは他の二人と明らかに人種から違った、マッスルに近い身長ながら少しばかり痩せている、しかしそれはマッスルに対しての比較であり、しなやかな肉体の……黒人であった。だが、身に纏っている物は忍び装束という日本の忍者村の忍者体験に来た外国人としか見えない。
「フハハイーグル!!私の胃腸、いや内臓も防御のパラメーターに振られている以上!菌程度で死なんさ!!」
「脳筋め……頭までプロテイン漬けかお前は」
最後に悪意を吐いたのは、神山と昨夜対峙した銀髪の美丈夫。生卵がぶ飲みで頭までプロテイン漬けになってと、呆れた様に言うがマッスルは全く笑みを崩さなかった。
「褒め言葉と受け取ろうラプトル!!さぁて……」
ゴブレットを置いたマッスルが、集まった者たちを一瞥するや、集まった3人に背中を見せてダブルバイセップスで、自らの背中に描いたバルダヤの地図を見せながら言う。
「アーミー・マングースは東エリア、廃ホテルを指定していたな?準備は?」
「誰が来ようと僕が狩るさ、強いて言うなら中井真也が希望かな?」
「よろしい、ニンジャ・イーグル!西部公園エリアにて敵を待て!」
「OK!ハッハァ!俺の忍法で切り捨てゴメンだぜ!」
「フェイタル・ラプトル!南部に特設リングを用意した!存分に戦え!」
「神山は必ずこちらに誘導してもらうぞ?」
「そして俺!マッスル・ジェネラルはこの北の塔にて敵を待つ!!総員散開!!」
マッスル・ジェネラルの号令を持って、実行委員会達は塔の部屋から散開した。静かになった空間で、ただ一人マッスルジェネラルは……。
「さぁ!俺の元には誰が来るか!!誰であろうと俺の鍛え上げたマッスルと極振りステータスでもって、実力差をわからせてくれる!!むぅん!!」
ひたすらに、只々ポージングを繰り返し続けた。