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初めての代理決闘 1

さて……中井真也がマリス・メッツァーと闘士契約を交わし、彼もまたメッツァー邸宅に寝泊まりする事になった。彼は、安宿街にて生活しており、荷物も無いので契約した即日に入居する事になった。


俺は左足首を捻挫したが、軽度だったのか、冷やしながら1日寝たら、まだ動いて痛むが支障はない程度まで回復した。


さて、ここからさらに、闘士を2人集めねばならない事実に気が滅入りそうだが、その前に色々と解決すべき問題がある。


まず、自分達を鍛える場所、道具だ。場所に関してはマリスが、邸宅の裏庭を解放してくれているので、そこを利用できる。高級住宅街のメッツァー邸宅の裏庭は、現世の格闘技ジムよりも広い面積があり、場所としては困らないだろう。


続いて練習器具だが、これはメッツァー家には財産がある、トレーニング用品も言えば取り入れて貰えそうだ、それが導入されるまでは、基礎練しかできないだろう。練習で素手で殴り合うなんて、どこのエセ古武術かしらないが、いざ戦う時に怪我してパフォーマンスが落ちて負けたら目も当てられない。


マリスにはしっかり道具を揃えて貰いたいものだ。この世界の練習器具が、どれ程のクオリティか知らないが、いざと言う時には装備屋にオーダーメイドができるか、彼女に尋ねておこうと思う。


最後に、練習相手だ……こればかりはどうしようも無いと、俺も中井も諦めをつけた。この世界に、俺たちと同じ格闘家を求めるのは無理がある、かと言って内地の優性召喚者を、ここに招致して練習するコネなどあるわけない。


しかし、最大の練習はやはり実践である。アマチュア試合に出て、勝って負けてを繰り返して、反省して、次は勝つと俺も、中井も繰り返して強くなって来た。中井に至ってはヤンキー狩りまでして、自分の技を確かめていたらしい、褒められた物ではないが。


というわけで、練習相手は……。一旦保留とする事にした。



「マナト、シンヤ、代理決闘の申し込みが来たわ」


その話がマリスの口から出てきたのは、中井真也との喧嘩を終えて2日後の事だった。さて、この時まで俺も中井も『代理決闘』なる単語を聞いた事も無かったので、応接室で2人して目を合わせてから、羊皮紙を片手に俺達を見下ろすマリスと、その背後にて直立不動で立つ若執事ニルギリへ目線を向けるのだった。


「代理決闘ってなんぞや、マリスさん」


「マナト、契約時に説明したじゃない?貴族はもしも決闘になった時、代わりに闘士を立てて戦わせるって」


「つまり……試合が決まったわけだね、マリスさん」


代理決闘の意味を理解した中井が、ニヤついてこちらを見れば、つまりは戦える機会が早くも来たという報せに、俺も笑みを浮かべた。


「で、日時は?場所は?」


「んんっ、この狂犬ぶり……僕も大概だけど君ってそこまで噛み付くやつなの?」


俺の試合への意気込みに、中井が唸り苦笑する。仕方ないだろう、ここ最近まともな戦いは中井との一戦以外無いのだから。胸が高鳴るものだ、またストリートファイトや賭け試合の様な、肩透かしでなければいいがと、俺は足を組みながらマリスの話を聞き続けた。


「日時は明日の夕刻……場所は……南西平民街の広場を指定してきたの、マナト、あなたがあのストリートファイトで倒したタナベかしら?あの雇い主からよ」


マリスの口から伝えられた話に、俺は反応した。まさかの名前が出てきたのだから、それは当然か。


「おいおい、よくまぁ僕を探し当てたな……」


「神山くん、その田辺というのは?」


「最初に俺が倒した優性召喚者、ストリートファイトでいきなり出てきてよ、格闘家のクラスなんて言うから期待して戦ったら全くでさ、顔面おしゃかにしてやった」


俺は中井に、その田辺康隆なる人物を説明してやった。俺が初めて対峙した、優性召喚者を名乗って、格闘家を嘯いた輩である事、顔面を見るに耐えなくしてやった事だ。大概、君もひどい事をしているのだねと、中井は口を押さえて笑いを堪えた。


しかし……俺がマリスの闘士になった事をよく知れたな。というか、どうやって調べ尽くしたのだ?些細な疑問だが俺は主人たるマリスに聞いてみる事にした。


「その、田辺の雇い主は俺をよく探し出せたな、いや……偶然か?」


「いえ、必然よ?向こうも私達も、闘士に関してなら簡単に知れるわよ、何せ代理決闘は正式な決闘として記録されるし、闘士登録をしなければ代理決闘には出れない、決闘自体も組めないのだから」


そう答えたマリスは、俺たちに深い事情というか、闘士に関しての説明を始めた。


「前もかいつまんでマナトには話したけど、闘士の強さ、抱える人数が貴族の格を決めるの、契約した闘士はこの街の内地含め、外壁側にもある、闘士登録所で契約書を持って行って、初めて正式な闘士になるの」


「そうだったか、個人間で無く、正式な届け出がいるわけか」


「ええ、そして代理決闘も、その登録所に手続きが必要なの、それこそ街で出会って決闘の話にもなるし、登録所に挑戦状を貼り出したり、交流練習の案内も貼ったりするわ」


国家の正式な決闘故に、それだけ取り決めがある事に俺も中井も唸った、さながら国全体で野試合をしているようなものである。


「それで、昨日貴方達を登録して挑戦状貼り出したの、優性召喚者を2人倒した劣性召喚者あり、挑戦者待つってね、そしたら今朝郵便に返答が来たわ、タナベの仇を取るってね」


「ちなみに……相手方はどんな貴族?どんな闘士?」


「ガズィル・リンチ、男で内地の貴族よ?相手も闘士を2人出してくるわ、2人とも武器持ちね……クラスは盗賊と重戦士、決闘ルールはどちらかの陣営の闘士を二人とも戦闘不能にすれば勝ち、わかりやすいでしょう?」


この上なく分かりやすい、しかも相手の闘士まで情報がある事に、俺はそうかと頷いた、中井はそれを聞いて、顎に手を当てる。


「どうかしたか、中井?」


「いや、僕達は劣性召喚者だからさ、やれクラスやスキルは無いだろう?」


「そうさな、それが?」


「少し、それらを頭に入れとかない?君だってアマチュアだろうと、相手の選手がどんなタイプか見るだろう?」


中井の提案に、俺はふむと頷いた。確かに試合前もまで対戦相手の情報を集めない奴は居ない、そもそも最初の田辺や、なも聞いてない賭け試合の相手も、秒殺してしまったから後の祭り。


今回ばかりは、そういった相手の知識を頭に入れておくべきかと、俺は中井の提案に乗った。


「というわけでマリスさん、相手のクラスやスキルに関して、わかる事はあるかい?」


というわけなので、この世界でのクラスやらスキルに詳しかろうと、マリスに進言を得る事にしたが、マリスは困った顔をした。


「ごめんなさい、クラスに付いては分かるのだけど、スキルに関しては召喚者の切り札でもあるから、隠すのが通例なの、クラスに関してだけでいい?」


「それで充分ですよ、マリスさん……じゃあ重戦士と盗賊、あと他に知ってるクラスを教えて貰えますか?」


中井は、俺との喧嘩で見せた表情とはまた違う、柔和な態度でマリスの話を聞いた。本来はこちらで、戦いとなれば苛烈、普段怒らない奴が怖いと言うやつなのか、俺は中井とマリスのクラスに関する話に、しかと耳を傾けるのだった。



時が過ぎるは瞬く間だ、翌日、代理決闘の日時となる夕刻、俺と中井、そして主人のマリスに付き人のニルギリは、南東の平民区に足を運んでいた。平民区は、夕刻になると掛けストリートファイトで賑わう広場、そこは異様な空気に包まれていた。


この広場に来ていた誰もが、噴水の縁に座る華美な服に身を包んだマリスと、執事服のニルギリ、そして俺と中井に目線を向けているのだ。


「皆、噂を聞いて来たみたいよ、この場所で代理決闘が行われるって、貴族の娯楽、優性召喚者の戦いが観れるとね」


「代理決闘もまた、催しの一つなわけかい、マリスさん」


「えぇ、内地の娯楽よ、それが外壁で行われるとなれば、例え正反対の区域からも見物が来るわ」


普段はストリートファイトや闘技場で血を見れるだろうに、決闘沙汰も見にくるとはシダト国民は上下を問わず血に飢えているのかもしれない。それはそうと、俺の右隣に居る中井は、軽く飛んだり屈伸したりと忙しなかった。


「意気込みが強いな中井、緊張してるのか?」


「程よくね、君と喧嘩するまでしばらく戦ってなかったしさ……君と喧嘩した時より動けるよ?」


「本気じゃなかったと?」


俺との喧嘩は本気ではなかったのかと、少し残念味を見せながら聞けば、中井はクスリと笑って言葉を返した。


「本気だったさ、身体が久々すぎて追いつけなかった、言い訳だけどね……まぁ今なら7割かな、本来の動きまであと3割っとところ」


俺と喧嘩するまでのブランクを、言い訳だからと潔く認めつつ、中井は手首を回し始めたところで、辺りがざわめき始めた。


「来たわよ、マナト、シンヤ」


マリスが噴水の縁から立ち上がった、対面の道から影が四つ見えた。その四つの影を遮らぬように、民衆が道を開けていく。最前を歩くはこれまた華美な礼服に身を包んだ壮年の貴族、そしてその背後に、俺や中井と同じくらいの少年が、片方は軽装な服、片方は重苦しい鎧に身を包み歩いて来た。


そして、その軽装な服の少年が、カラコロと車椅子を押していて、そこには一人の少年が、首に木の板と縄の固定コルセットを巻きつけ、口からは涎を垂らし、鼻には革のベルトで砕けた鼻骨を整形している……見知った少年が居た。


「田辺……どっちだ、どっちがお前をこんな目に」


軽装の少年が、車椅子に座す無残な姿の少年に聞いた。無残な姿の少年、田辺康隆は右腕を、ゆっくり、ゆっくりと重々しく、震えて手すりから持ち上げて、人差し指で俺を指差した。


「あ、あいつら、あ、あ、あいつが、おえを、こここ、こんらふうり、ひたやふら……」


ふむ……頸椎やったか、で半身不随とまではいかなかったが、もう二度と普通に生活できなくなったらしい。ここは一つ……煽ってやるか。


「調子良さそうだな、田辺!クソもまともにできなそうだし、おしめでもしてんのか!」


「キミ……結構下衆いね、神山くん?」


俺の挑発に、重厚な鎧の男の子も、軽装な男も一気に顔をしかめた。そして中井は、なだめがらも俺の挑発にクスクスと笑って首を回して戦いに備えるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 田辺が生きててびっくりしました! てっきり処分されてるものかと思ってました! 意外に手厚いんですね!
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