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主役とモブキャラ

 ふらり、ふらり、河上静太郎の足取りは重い。未だに血を流し続ける耳をそのままに、ようやくとばかりにTEAM PRIDE側入場口にたどり着いた。


「河上さん、お疲れ様っす」


 神山がそう労いの言葉を掛けるが、聞こえているわけがない。中井はすぐに河上の手を掴み、神山に伝えた。


「僕が医務室に連れて行く、神山……負けるなよ?」


 町田に続き、河上まで医務室送り、勝ちはしたがやはり魔法とは凄まじいものだと実感させられる。中井から激励を受けるや、河上は何も言わずに神山の方へ向く、そして左手で拳を握り、神山の胸板を小突いた。


『さっさと勝ってこい』


 言葉も無しに、伝わって来た。そうして中井に連れられ河上は医務室に向かった。


 緑川も長谷部も町田の付き添いに行き、入場口には自分しか居ない。シンと静まり返る廊下がなんとも不気味だ。ガウンを纏っていても肌が冷たくなりそうだと、神山は息を吐いて壁に体を向けた。


 荒縄バンテージを纏った拳で、軽く壁を殴ってみる。トントン、リズム良く、トトトン。思えば、客の前で戦うのはこの世界が大半で、現世では2.3度くらいだった様なと記憶をなぞった。


『神童』とは、さいたまスーパーアリーナで、満員の中で戦った。その前の入場も、体が嫌に冷えて仕方なかったなと思い出す。


「あぁーー……やばっ、怖くなって来た、今更」


「怖いの?」


「うぉおお!?」


 神山が本音を漏らした矢先、声が掛けられた。マリスがいつの間にか、立っていたのである。


「マリスさん!?何でここに!!」


「キョウジもセイタローも怪我したから、今マナト一人ってシンヤから聞いたの、心配で」


「そっすか……」


 まさか本音を聞かれるとは、頭を掻きながら神山は、あぁ、あぁと行き場の無い恥ずかしさを呻きで誤魔化す。


「で、怖いの、マナト?」


「は、はは!まさかぁ?怖いわけないっすよマリスさん!秒殺で勝っちゃいますから見ててくださーーーー」


 気丈に振る舞う神山だったが、マリスの曇った表情で言葉は止められた。嘘は通じない、無駄な足掻きであった。


「怖いっすね、やっぱり……」


「そう……負ける事が?」


「あー……何というか、うん……」


 うまく言葉にできなかった、そこまで語彙が自分には無いし、頭も良く無いから、思うがままに神山はマリスに語る。


「一人で戦ってたらそうじゃないんすけどね、こう、改めてチームで戦うとなったら、腹がキリつくんすよ……現世でも、負けたら俺の為に、時間割いてくれたセコンド……付き人の先輩とか、ジムの会長の色々と無駄にしちゃうわけで」


「うん、うん……」


「はは、あんだけ抽選で、でかい口叩いた割にビビってるんすよね……幻滅しました、マリスさん?」


 こうして試合前にビビり散らす姿を見て、幻滅してるだろうなと自嘲気味に言う神山に、マリスは真顔で答えた。


「まさか、怖いのは当たり前じゃない……私だって、マナト達が……死ぬかもしれないと思って怖いもの……」


 マリスは言った、自分も怖いと。自らの元に集まった闘士達が死ぬ、そう考えた時は怖くてしかたないと。マリスは神山に近付いて、荒縄バンテージを纏う手を両手に取り、小さな手で握った。


「マナト、セイタローと戦った時も言ったけど……死んだらダメ、絶対よ」


 生きてこそ、生き抜いてこその闘士であると彼女は、そして彼の父は闘士を大切に育ててきた貴族だから、神山に改めて命じた。負けてもいい、生きて帰って来いと。


「うす……勝って帰ってきますから、心配しないでください」


 その返答は、決まっていた。勝つ、そして帰ってくると神山は頭を下げて、手をマリスの手から離して、両手を合わせた。 


「じゃ、行ってきます!」


「いってらっしゃい、マナト」


 必ず帰ってくる、だからこそ『いってらっしゃい』とマリスは声をかけて、神山は入場口に走り出した。




 マギウス側入場口。


「あーあ、あーあ……何だよこれ、何なのこれさぁ……」


 マギウスのリーダー、鹿目駿は、この戦いの惨状に苛立ちを覚えていた。当たり前である、仮にも前年ベスト4として勝ち残ったチームだ、その筈がどうだ、全員負けて残るは自分だけだ。


 しかも、TEAM PRIDEは全員連戦拒否している。本来展覧試合は勝ち抜き戦、どちらかが先に大将を倒せば勝ちのルールで全く無意味な行為をしているのだ。本来ならば、次の選手を少しでも消耗させるという戦術が当たり前である。舐めプされているのだ、それも……同じ優性召喚者では無い劣性召喚者のチームに、何も力を与えられなかったーー。


「モブキャラが何粋がって目立ってんだよあぁ!?」


 そう、モブキャラだ、あいつらは。良くて転移者1、チンピラ1と番号で呼ばれるだけの唾棄される存在でしかない。そんな奴らが、何を主役である自分の舞台で好き勝手しているのだと。


「本当最悪、ざけやがって、テメェらは現世で馬鹿みてぇな同類とメス侍らしていイキがっとけよ、何この世界まで来てんだよああ!ああああ!!」


 湧き上がる、心の奥底から、まるで噴火の如く怒りが燃え上がり、鹿目の手から、口から、煙が巻き上がる。


「シュン選手入場お願いしまーー」


「あああああAAAAAAAAぁああああああ!!」


 係員が扉を開け放つや、豪ッッ!と火球が扉を、そして係員を押し除け、そして入場口に向かって行った。


『殺してやる!!ぶっ殺してやる!!消し炭にしてやるぞ神山ぁぁあああああ』


 火球が唸りを上げ、やがて夜空の星煌めく闘技場にまで高速で飛来し、そして石畳に着弾した。


『つ、遂にここまで、ここまで来てしまったかTEAM PRIDE!!だが、マギウス・スクワッド総大将、昨年ベスト4を率いるアークメイジは他と勝手が違う!!猛る炎!は全てを燃やし尽くす!金属すら融解する炎を纏い!シュン・カナメが登場だぁあああ!!』


 実況の声が響き渡る、そうだ、僕が、僕たちが、優性召喚者(ぼくたち)こそが、この世界の主役!!台本は既にそう書かれていると、火球から鹿目は立ち上がり現れた。


『ブルーゲートより……TEAM PRIDE、マナト・カミヤマ選手の入場です!』


 審判のアナウンスと共に、いよいよ現れる有象無象、誰もお前を応援なんてしない、さっさと入って来いと、鹿目が苛立つ中、会場に音楽は響き渡った。


 https://youtu.be/e5PF8DC6RrI


 エッジの効いたギターのイントロ、そして炊かれるスモーク、幾つもの光が会場を巡り、やがて空には七つの星を光が象り、それが線で繋がれた。この世界にはないそれは『北斗七星』と呼ばれる形、その星に赤々と八つ目の星が輝いた。


『冷徹なる解体屋、すまし顔の猛獣、傲慢なる剣士、それらの上に座す男……これだけは言えます……彼は強い!悔しいが、認めたくないが!!この男は強いのです!!その鍛えられた肉体で、拳で、足で、悉く対戦相手を真正面から捩じ伏せて来た!!何も貰えなかった?違う、必要が無かったんだと我々も理解してしまいます!TEAM PRIDEの総大将、マナト・カミヤマ!!マギウスを打ち破るのか、お前は、またも捩じ伏せて立つのかぁああ!!』


 フルタチの実況の熱と、曲とは裏腹に、観客達から上がるのはブーイングだった。そう、それでいい、誰もおまえの勝利は求めていないと、ブーイングを聞く鹿目。


『マナトーー!!がんばれーー!!』


「は?」


 だが、聞いてしまった。鹿目はブーイングの中に、その中に神山を応援する声を聞いてしまったのだ。そう、見れば……微かにだが、ブーイングの中に、神山を応援する声が聞こえるのだ。


「ここまで来たんだ!もう優勝しちまえ神山ぁー!!」


「クラスやスキルが無くても、戦えるって見せてくれ!」


「マナト!マナトー!!きゃあああ!!」


 嗚呼、そっか、居たわ。鹿目はそうだったと、神山を応援する輩が居たなと思い出した。


「モブどもが、希望に縋りやがって」


 同じ境遇の奴ら、この世界に捨てられた、モブキャラ。姫から何も貰えなかった奴隷共だ。ここまで運良く勝てたから、同じ境遇だから眩しく見えるんだろう、縋りたくなるんだろう。


 実際は全然違うがと、闘技場に足を踏み入れた神山を睨みつけた。


 激突まで残りわずか、神山も鹿目の眼光に震えと笑みを込み上げさせて、ガウンを脱ぎ払った。

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― 新着の感想 ―
[一言]  とりあえず。  ある意味TEAM PRIDEの中で一番弱い? 神山君は、どう戦うのか?  ワクワクしますねぇ(*´∀`*)。  ところで随分昔に聞いた話なんですが、ムエタイの達人は簡単に…
[一言] 最近ハマって読んでいたら、追いついちゃいました。 次の話からのマナトの戦いが楽しみです。
[一言] 誤字修正 次の選手を少しでも消耗させという戦術が当たり前である それめ……同じ優性召喚者では無い劣性召喚者のチームに 馬鹿みてぇな同類とメスはベラして 傲慢なる剣士 正 次の選手…
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