ズンズンチャッ、ズンズンチャッ
「よっゆう!」
「嘘つけ、少し焦ったろ!」
帰ってきた中井真也が、神山に手を向けて余裕だったと笑顔を見せ、神山は嘘つくなと手を上げパシンッ!と互いに叩き合った。
「長谷部さん、ボクシングの指導あざまっしたぁ!」
「距離をよく保てていたな、良かった良かった」
距離の保ち方、打撃戦は長谷部のボクシング指導ありきと、頭を下げる中井に長谷部も満足気だった。そしてーー。
「町田さん、二勝目頼みますよ!」
「応ッッ!!」
使い古した黒帯を締め、道着の上からガウンを羽織りたなびかせ、町田恭二が入場口へ、気合を込めて歩き出した。それだけだ、たったそれだけなのだが。
「いやぁ……ビッリビリ来るわ、町田さんすっかり気合入ってる」
「神山くんが敬愛する空手家、だったよな……スパーを幾度としたが……凄まじいな彼も」
「はぁ……何というかさ、神山くんがミーハーになるの今分かった気がする」
ガウンに包まれた背中が、悠然と歩くだけで、なんとも頼もしく感じるのか。闘気?威圧感?そんな物あるわけないのに……本当に空間が歪んで見えて来そうで仕方ない。
でけぇ背中だわ、本当。
神山は、その背中を見て、身震いするのだった。
一方、マギウス側にて。
「つーわけで、あのガキにハメられた水原、死ぬかもらしい……どう思うよ?キミら?」
マギウス大将、鹿目駿の機嫌が良かろうはずもない。控え室にて待つ、鹿目を含めた3名は、水原が負けた事が信じられないと鹿目に目を向けた。
「油断しすぎたんだよ水原はさ、してなければ勝てた」
「うん、油断だ油断……」
油断していなければ水原は勝っていたと、茶色のローブと緑色のローブの二人が結論を出す。
「油断?違うよ二人とも、水原は弱かったんだよ……」
鹿目はその結論を否定して、弱かったのだと単純な答えを押し付ける様に告げた。
「油断、舐めてた?馬鹿なのお前ら?舐めて片手で処理して勝つのが僕ら優性だろうが、水原は弱かったしおつむも力も無かった、それだけだよ」
油断云々じゃない、慢心して片手間にでも劣性の輩を駆除しての、優性召喚者である、それだけ絶対的な差を見せるから、優性召喚者だろうがと強気ながらも、怒りが見える声の抑揚が聞いて取れた。
「安生地お前どうなの?まさか負けないよな?」
鹿目が茶色ローブの男をそう呼び尋ねれば、安生地なる茶色ローブの青年は立ち上がり宣った。
「勝つさ、必ず、負けようはずがない」
「なら行け、さっさと」
冷たくあしらう様に、さっさと勝ってこいと宣う鹿目に、安生地は背を向け部屋を出て行く。そうしてから鹿目は、舌打ちをしてから緑色のローブに向けて話しかけた。
「風魔ぁ……水原の契約破棄して二軍から一人補充入れといて、あいつリリース」
「え!?」
「なに、文句あんの?いらねぇじゃん、劣性に負けた闘士なんかさぁ?明日から無所属な?」
「わ、分かった」
緑色のローブの青年風魔も立ち上がり、部屋から出ていき、一人になる鹿目。そうして立ち上がり、ギリギリと歯軋りをしてから目の前の備品であるテーブルを見るや。
「クソがぁああ!劣性のクソ体育会系陽キャ集団がよぉ!」
そう苛立ちをぶつける様にテーブルを蹴り上げれば、テーブルに炎が燃え移り、落下してメラメラ燃え始めた。
「何調子乗って勝ってんだよ、ああクソ、クソクソ!クソ野郎……テメェらが活躍する台本なんざねぇんだよ、這いつくばって大人しくしとけや、ああクソがっ!」
机を何度も蹴り付けながら、癇癪をぶつける鹿目。その部屋の向こうで、風魔はその様子を耳にしたが、こちらに矛先を向けられたくないので、さっさと部屋を離れるのだった。
『さぁ、展覧試合四戦目はまさかの展開になりました、シンヤ選手の勝利によりTEAM PRIDEが一勝……したのですが、シンヤ選手は連戦拒否、えー……これにより仕切り直しとなったわけですねマママンさん』
『はい、そもそもあのー……勝ち抜き戦ですから、連戦拒否は不利になるんですよ、負け扱いですからねぇ?先に大将を倒せば勝ちですから……』
試合会場、観客席実況スペースのフルタチ、マママン両名は、中井真也へのブーイングによる観客の、暴動一歩手前の事態の中で中井が連戦拒否した事を放送した。こうして、マギウスとTEAM PRIDEは次鋒戦に移る。投げられたゴミを回収し終え、審判が石畳の闘技場へ立ち、早速アナウンスが入る。
『えー、TEAM PRIDEシンヤ選手連戦拒否により、次鋒戦に入ります!レッドゲートより、ツクモ・アオジ選手の入場です!』
アナウンスと共に、楽団が荘厳な音楽を奏でる。この世界のクラシックだろうか、その音楽をバックに、長い棒状の杖を携えた、茶色ローブが歩いて出てきた。
『マギウス・スクワッド次鋒は、ツクモ・アオジ選手!安定した成績を持った土魔法の名手であり、何よりも彼は"近接殺し"とも呼ばれています!大地を揺るがす魔法は、TEAM PRIDEの侵攻を止めるのか!?』
『是非ともヨウイチ選手の仇を討って欲しいですねぇー』
水原の敗北もあり、次鋒、安生地九十九への期待は高い。仇討ちを成し遂げいざリードを奪えとばかりに、声援がアリーナに響き渡った。
『ブルーゲートより……キョウジ・マチダ選手の入場です!!』
そしてアナウンスされる、怨敵TEAM PRIDEの次鋒の名前。無論誰が応援するかとブーイングを叫ぼうとした観衆だったがーー。
https://youtu.be/-tJYN-eG1zk
ズンズンチャッ!ズンズンチャッ!ズンズンチャッ!ズンズンチャッ!
足踏み二回からの手拍子という、聞いた事のあるリズムがアリーナに響き渡るや、ブーイングは響かなかった。何故ならば、転移した者たちの大半が、このリズムと、イントロを知っていたからだ!
「おいおい、この曲……こっちで聞けるのかよ、つか流せるのかよあいつら!」
思えば、開会式のパフォーマンス。そして中井真也の入場から気付くべきだった。どんなスキルのスタッフが奴らに付いているのか、羨ましいと安生地は思ってしまった。観衆の召喚者も、一人、また一人リズムに続いてアリーナが揺れる。
英語の歌詞が流れる中、レッドゲートから一つの影がついに、姿を現すや、実況のフルタチの声が響いた。
『その手には何も持たない、空っぽの手。しかして握りしめたその手は、鍛え上げれば、石をも砕く武器になる。空の手、故にカラテであると彼は語ります』
黒いガウンを揺らして、悠然と、堂々と闘技場へ向かう男。町田恭二、そのガウンの下には純白の空手着、そして黒帯を締め、大地を揺らす足踏みと共に近づいてきた。
『その拳に当たれば無事では済まされない、その蹴りに当たれば命すらも危うい!澄まし顔の下に隠れた猛獣が今、闘技場に解き放たれた!TEAM PRIDE次鋒はキョウジ・マチダ!!現世では、カラテという武術の達人!!躍動する足踏みのリズムがまるで蛮族の生贄の儀式にすら思えて来ます!』
そして、ガウンを脱ぎ、石畳に上がる前に一礼、そして観客席に向けて一礼、そして安生地にも一礼をしてから、リングに上がるのだった。