幕間 内地、シダト城にて
「以上が、今月の報告となります……如何なさいますかな、姫様」
「問題無いわ、下がってよろしい」
ジダト国首都、ルテプ内地……ジダト城内、王の間。玉座に座す1人の若き、姫と呼ばれた女性が、衛兵の話を聞き終えて、下がらせた。
衛兵は一礼をして背を向け、部屋から退出していくと。姫は、その長く綺麗な黒髪を指で弄び、足を組み換えて、退屈そうに息を吐いた。
「優性召喚者にもいよいよハズレが出て来たわね、これからはただ目覚めただけでなく、良し悪しも確認すべきかしら、どう思う剣聖?」
姫が『剣聖』と呼ぶや、赤絨毯の敷かれた玉座への道のりの途中、柱を背に立つ鎧を着た剣士が、口を開いた。
「さらなる振るいには、掛けるべきでしょうが……育つまでの時間もあります、拳神の様に普通召喚者からこの場に立つを許した者も居ましょう」
彼は姫の言葉に賛成をしながらも、少しの意見を添えた。姫はこれを聞くや、頷いては息を吸って言葉を返す。
「貴方や魔将、盾皇の様に始めから強かったら楽なのだけどね……私の召喚の限界がそれなのでしょう……気長に待つしかありませんわ」
「さながら蠱毒ですね」
「コドク?」
「呪いの儀式のひとつです、壺の中に様々な虫を入れ、戦わせて、最後に生き残った一匹を呪いたい相手の食に混ぜて食わせる……展覧試合と、姫の召喚がそれかと」
「辛辣ね……まだ私を恨んでる?」
「聞きたいですか、姫よ?」
「いいわ、答えは分かってるもの」
姫と剣聖の間に、刺々しさがありながらも、柔和な雰囲気ができた。主従らしからぬ会話に、王の間に居た衛兵達が、息を飲む。
「ところで、先程の話なのだけれど……優性召喚者が、外壁に出て行って、敗北して帰ってくる話……それは"指切り"と同じ話かしら?」
「いえ……"指切り"より酷いあり様と、顔面が見れたものでないらしく、しかも首から下が動かなくなったそうです……指切りのがまだマシでしょう……名前は、田辺と言ってましたかな?」
「タノベを引き入れた貴族は大変ね、しかも相手は劣性召喚者と聞いたわ……格落ちもいい所だわ」
「慈悲は与えないのですね」
「負けるのが悪いのよ、能力に覚醒しながら扱えないのがね……」
無慈悲な、と、剣聖は呟いた。
「ねぇ、その劣性召喚者が、展覧試合に殴り込んで来たら、貴方勝てる?」
姫が笑う、悪戯に、値踏みする様に笑う。その笑みを見上げた剣聖は……少し悩んで口を開いた。
「私達は、本来の世界では何一つ力も無い、無力そのものでした、姫の祝福でこの力を手に入れた……負ける筈がありません……ありませんが……」
剣聖は、自嘲じみた口ぶりで、腰元の煌びやかな剣を見つめて、続きを話す。
「恐らくその劣性召喚者こそ、現世にて力を持った者でしょう、その力は……私達の喉元に届くでしょうな?」
「怖いのね?」
「えぇ、とてつも無く……現に今の拳神こそ、加護を持った前拳神を打ち倒した様に」
「彼は別物よ、私が見ても凄まじいわ……ふふ、なら腹を据えないとね、剣聖さん?」
姫は妖しく笑う、剣聖が抱える恐怖心を煽るかの様に、その笑みを真正面より見る剣聖もまた、口端を吊り上げて笑みを作るのだった。