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バカサバイバー

「いやー……気持ちよかった!」


「そっすね河上さん、やっぱ大会って言ったら入場っすよね!」


 開会式を終え、退場したTEAM PRIDEは控室までの道のりを歩いていた。開会式ジャックからの壮大な入場、河上がどんな流れにするかをわざわざプロデュース、台本を組み、そして見事成功させた。


「派手好きだな、相変わらず……」


「いやはや、ありがとうカイト、これからも大会中はよろしく頼む」


 そして、現代の音楽を再生し、スポットライトやスピーカーという機材をこんな世界で使える人間は、TEAM PRIDEと同盟関係にある外壁チーム、ポセイドンのリーダーにして優性召喚者のカイトだけであった。TEAM PRIDEの列に混じる銀髪の男が、ステージを組み上げ音楽を鳴らすために、実はステージ後ろの入場口に待機していたのである。


 カイトのユニークスキルにして魔法『思い出創り』は、彼の現世の記憶にある建造物や設備ですら『創り』あげる。これにより彼はチーム名を冠する、この異世界ではまず開けないクラブを構えて居城にし、活動していた。


 曲に関しては、意外にも神山のスマホが活躍した。神山のスマホには、格闘家からプロレスラーの様々な入場曲がダウンロードされていたのだ。それをカイトに渡し、機材に繋げて再生させたのである。


「まぁ何だ……いいものだな、中々」


 町田も、少しばかり気分が高揚して、顔が赤かった。なんとも言えない、恥ずかしくもあるが、快感も沸き上がると腕を組み頷いている。


「うん……まぁ、たしかに」


 中井は難色を最初示していたが、町田と同じ感覚を覚えたらしい。小さく返事をした。


「けどまさか、実況があんな事するとは思わなかったわ」


 そして主人のマリスは、普段のドレスとは違う白ロリ衣装のスカートをふわふわ揺らしながら、実況のしでかした適当さに怒りを覚えていた。演奏隊すら明らかに音を止めて、観客すら静まりかえったのだ、余程のアウェーというのが見て取れた。


「まぁそれで入場を派手にできたんですから、良しとしましょうよマリスさん」


「むぅ……でも」


 自分の闘士をこんなに無碍な扱いをされたのだから、怒りも尤もだ。故に派手な入場ができたから良しにしましょうと、神山はむすっとしたマリスを宥めるが、しばし時間が必要になりそうだ。そうして和気藹々と控え室へ戻るTEAM PRIDEとカイト達だったが。


 その途中、フードの少年が、まるで彼らを待っているかの様に壁にもたれかかっていた。


「随分な事するねぇ、流石現世は陽キャ共なチームプライド様だ」


 明らかな喧嘩腰で吐き捨て、壁から背を離し遮る様に立ち塞がるフードの少年。そのフード姿、TEAM PRIDE全員見覚えがあった。というか、さっき入場していた一人だった。


「鹿目駿か、マギウス・スクワッドの」


 神山がその名を呼んだ、マギウス・スクワッドのリーダー、鹿目駿だと。


「へぇ、僕の事知ってるんだ」


 抑揚がいかにも、小馬鹿にした様な声でフードから顔を出した。あの雑誌と同じだ、眼鏡をかけている。陰険そうな顔……神山は笑って言葉を返した。


「おう、この二週間お前の対策でがっつり練習してきたからよ、載ってる書物から何から大変だったぜ、頭に叩き込むの」


「はぁ?」


「だから楽しみにしてろよ、全力でぶつかるからさ」


 対策がっつりで全力で向かう、体育会系の時代遅れじみた言葉を聞いた鹿目は……舌打ちした。


「お前らさぁ、そもそも僕まで辿り着けるわけ?」


「何?」


「分かんないかなぁ、実力差、分かってんのって話?はぁ、うざっ……これだから頭足りない劣性はーー」


 斜に構えて嘲笑う鹿目に、河上の鯉口が鳴った刹那には町田が左手を差し出して止めていた。神山は、まぁ予想はしてたがと彼の、と言うよりは大概の優性召喚者が、TEAM PRIDEに向ける感情だった。


 劣性召喚者が、優性召喚者に勝てるわけがない。


 これが大原則である。


「どうやって予選抜けたか知らないけど、運が良かったか知らないけどさぁ、身の程弁えてくんない?お前らが簡単に踏み入れる領域じゃないんだわ、あんな派手な入場しちゃって……無様に負けるのにさぁ?明日にはシダト歩けないよ君ら?」


 何ともまぁ、随分に言ってくれるなと。神山以下この場の全力は流石に、鹿目の物言いに苛立ちを覚えた。


「まぁいいや……本当に僕まで辿り着いたなら相手してやるよ、クソ雑魚キックボクサーくん?」


 ポンポンと神山の肩を叩き、背中を向けて去る鹿目。それを見送るTEAM PRIDEの面々。


「神山くん……あいつらどうする?」


 中井真也はギリギリと歯軋りをしながら、神山に如何な目に合わせてやるかと尋ねた。


「何ともまぁ、久方ぶりだ……怒りが込み上げて来た」


 町田恭二の眼差しも、いつもより鋭く、珍しく怒りが込み上げると口にする程だった。


「不愉快この上無し、一切の慈悲も浮かばぬとは……」


 押し上げた鯉口を落として、冷たく背を見つめる河上静太郎。


 そして神山はーー。


「あーあー、振られちゃった」


 あっけらかんに、そんな事を宣って肩を落とした。


「怒らないの、マナト?」


「そう言えば……神山くんって本気で怒った事あるの?」


 言うだけ言われて怒らない自軍大将に尋ねるマリス。それに対してふと河上が、そんな事を尋ねた。何しろ、彼から直上的な面が見受けられるものの、プッツンとキレた姿は見た事無いと河上は思い返す。


 戦いの時も……この男は意外と冷静な、しっかり相手を見てどっしりと落ち着いて戦う姿が目に焼き付いている。


「うーん……まぁ、言われたところで、実力で見返すのが一番ですからねぇ、言う奴はとことん言いますし」


 困った笑みを見せて返答する神山、口ではいくらでも言えるから、行動で黙らせればいいと彼の中ではキッパリそう決めており、言わせておけばいい、どこ吹く風と、メンタルが柔らかく粘り強さが伺えた。


「あぁ、ただ……」


 そこに神山は例外とばかりに、一言を添えた。


「神様を愚弄する輩には、ブチ切れるかな?」


「「「……は?」」」


 なんとも意を突かれる一言に、TEAM PRIDE面々が反応に困った。


「神様って?」


 が、マリスは神山の言葉に固まりはせず尋ねるので、神山は答えた。


「俺にとっての神様はーーーー」


 その答えを聞いた時、マリスは首を傾げ、そして固まっていたTEAM PRIDE面々は、あぁ成る程と理解が及び、神山がカルト宗教の信徒というその場で全員が過った疑念が晴れたのだった。




 神山達、TEAM PRIDEの戦いは四試合目、本日の最終戦となる。


 第一試合


 バスティオンズVSサン・レイズ


 古豪バスティオンズとサン・レイズ、どちらも予選突破組の試合は、一進一退の攻防の果て、バスティオンズが勝利、古豪が復活の兆しを見せ、準決勝に駒を進めた。


 第二試合


 ブルー・ラウンズvsギガンテス


 実質決勝とまで言われる、昨年優勝と準優勝の潰し合い、互角の戦いが演じられるかと思いきや、なんとブルー・ラウンズが、先鋒と次鋒を開始即座にギブアップさせ、副将であり『剣術無双』の二つ名を持つ、水戸景勝にバトンを渡す。そこからの4連勝という、実質一人で4人を倒すという強さを見せつけた。昨年は互角が、実力の大差を見せつけたブルー・ラウンズ、バスティオンズとの準決勝が決まる。


 この時、河上静太郎は試合を覗いていたらしいが、何とも興味を失った様な目をしていた。



 第三試合


 ヴァルキュリア・クランVSノワールドエール


 抽選会でヴァルキュリア・クランを倒すと豪語したノワールドエールだったが……ヴァルキュリアの先鋒にして『不触不敗の令嬢』三条原オリヴィエが、4連勝を決める独壇場。徹底的なカウンター投げという合気道で、ノワールドエールは対抗できず、全員見るも無惨に叩きつけられた。優雅にヴァルキュリア・クラン、準決勝行きを決める。



 そして……第四試合


 マギウス・スクワッドVS TEAM PRIDE


 いよいよ開始のゴングが鳴り響く!




 試合会場には熱気が渦巻いていた。


 展覧試合本戦、第四試合。東側入場口廊下にて。


「はい、左ぃ!」


「シィイッ!」


 中井真也、マリス特注のガウンを羽織り、長谷部の差し出したパンチミットを左フックで弾き、素早く腰にタックルを仕掛け、持ち上げて降ろすウォーミングアップ。神山、町田、も既にガウンを羽織り、準備運動で身体を伸ばす。河上静太郎は、ガウンを肩に掛けてカイトに何やら話をしており、緑川は今回裏方として医療品やドリンク類を管理していた。


「もう良いです、長谷部さんありがとう」


「よし、温まったか」


「中井さん、ヤシの実です」


 ミットを下ろした長谷部に礼を言い、緑川が用意した水差しからヤシの実ドリンクをグラスに注がれ、一口に飲み下す。


 順番が来たTEAM PRIDEは入場口に集まり、そこが試合中の待機する場所になる。先鋒、中井真也はオープンフィンガーグローブの具合を確かめて、手をぶらつかせた。


「中井、カイトさんに入場曲頼んどいたけど、あれでいいのか?なんならロシア国歌からヒョー◯ルに繋げるヤツもあるぞ、俺のスマホ」


「いや、それは準決勝からで、初戦はあの曲にする」


 いよいよ、TEAM PRIDEの展覧試合本戦が始まる、とここで神山達は前々から考えていた事を実行する事にした。


 そう、入場テーマを流しての入場である!さっきのオープニングとは違う、選手達がその気分を高め、観客も盛り上がらせる為に、入場曲はやはり必要!というわけで、これまたカイトに協力を仰いでもらう事になった。


 で、中井真也の選曲は、意外な曲だった。しかして似合う、中井の曲はこれか、今神山が提示した曲の二つしか無かろうなと、神山が笑う。


『只今より第四試合!マギウス・スクワッド対 TEAM PRIDEを行います!レッドゲートより、マギウス・スクワッド、ヨウイチ・ミズハラ選手の入場です!!』


 会場にアナウンスが響き渡る、そう言えばシダト練兵場では真鍮の拡声器が所々あったが、それは見受けられない。魔法か何かだろうなと、神山は響き渡る声に、これまた荘厳なクラシックが遠巻きに耳へ入ってくるのを聞いた。ああ、この世界にも入場曲の文化あるんだと感心していると。


『シンヤ選手、スタンバイお願いします』


 係の者が奥から駆け足に向かって来て、いよいよ中井の入場が始まろうとしていた。


「秒殺か、今回も」


「まぁ……考えとく」


 本戦で秒殺を決めてくるかと煽る様に神山が言うと、中井は笑って返し、入場口へ向かった。




『さぁ、展覧試合第四試合!マギウス・スクワッドVS TEAM PRIDE!既にリングにはマギウスの先鋒、ヨウイチ選手が入場して来ました!皆様どうも、三試合目よりマティウスから実況変わりました、フルタチで御座います!』


『解説のマママンです、さぁ、フルタチさん、ヨウイチ選手ですが水の魔法使い、切れ味鋭い水の刃と、怒涛を操る魔法使いですが……その相手が』


『えぇ、皆さまも記憶に新しいでしょう、あの男が、ここまで来てしまった!!』


 マティウスより実況が変わり、フルタチとなった実況席からの実況アナウンス。それを聞いているマギウスの先鋒は、水色のフードから顔を出して、対面の入場口を睨みつけていた。水原陽一、クラスはバトルメイジ、得意魔法は水属性。


「中井真也……あんな奴に負けてたまるか、僕が倒してやる」


 彼は展覧試合、本戦出場トーナメントを会場で観戦していた一人だった。つまりは中井真也の宣戦布告を目撃していた一人である。闘士の風上にも置けない輩に、負けてなるものかとステッキタイプの杖を握りしめる水原。


『ブルーゲートより!TEAM PRIDE!シンヤ・ナカイ選手の入場です!』


 会場がブーイングに包まれ、観客達全員が親指を下に向けた。この場に中井真也を応援する輩はまずいないだろう、誰も、彼の勝利を望んじゃ居ないとブーイングの中。


  ハイッッッ!!!


 おっさんの掛け声が響き渡るや、気の抜けるメロディが、会場に鳴り響く。水原陽一は、この曲が現世の何の曲かは分からなかった。だが、気の抜けたメロディを超えて歌が響き渡るや、実況のフルタチがアナウンスを始めた。


https://youtu.be/n9QTaxnm-P0


『お前舐めてんのか?舐めてんのかおい!?舐めてない……"舐め腐って"んだよ!!もしも今、シダトで最も最悪な闘士は誰かと尋ねたら、この男の名前がまず上がるでしょう!!TEAM PRIDEの先鋒!冷酷残忍な解体屋!!シンヤ・ナカイが舌を出し中指立てて、何とも頭が狂いそうな音楽とブーイングをバックに悠々と入場してきます!!』


 陽気な歌をバックにアナウンス通り、両手中指を立てて舌を垂らし、中井真也は入場口から歩いて出て来た。呆気に取られる観衆に、中指を見せつける中井が、水原の立つ闘技場へと歩き迫った。


『だがしかしこの闘士、デビュー戦でなんと展覧試合最速勝利記録を更新!その秒数は、分ではない!秒数はたった六秒!そんな時間で相手の腕をへし折って勝利したその技は、まるで蛇の様に絡みつき、腕をへし折るという恐ろしい技術をこの闘士は持っているのです!!さぁ今!闘技場に足を踏み入れた!止められるのかマギウス・スクワッド!!止めてくれマギウス・スクワッド!!最悪最低の闘士にこれ以上好きにさせるなぁああ!!』


 石畳のリングへ上がり、中井真也は両手中指を立て続けてサイドステップで周り、そして。


「かかってこいやぁあああ!クソ雑魚魔法使い!!」


 水原の目の前に両手中指を見せびらかしてから、自分コーナーに戻っていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字修正  呆気に取られる慣習に 正  呆気に取られる観衆に
[一言] 社くん魔法治療薬使う事ができるんですね。 神山くんの神様ってブアカーオですかね? マギウス・スクワッドの皆さん先鋒以降生きて闘技場から帰れないだろうな。町田さんが切れている時点で五体満足の死…
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