最後に立っているのは俺たちだ!!
シダト国は首都、ルテプ。
その首都の内壁には、この国の闘士達が目指す聖地がある。
『シダトアリーナ』
ここに毎年、姫より召喚されし異界の流れ人達が、その祝福を受けた者達が、錬磨し、鍛え上げた技と魔法を使い、観衆を前にして戦う。
『展覧試合』
一年を通して行われる、闘士の祭典。
闘士を束ねる貴族達が、己が闘士が最強であると示す為に集まり、日々鍛え上げた闘士達を披露する祭典。
それを観覧する為に、シダト王国の民草はルテプを目指す。また、魔法の映し鏡なる物を用いて観戦する地方民も居て、そのための広場や観覧施設まであるのだとか。
そして今日、昨年活躍した4チームと、予選を勝ち上がった4チームが、3ヶ月という期間をかけて、トーナメント形式で戦うのだ。
優勝したチームには、この国を束ねる『姫』より望む物を賜われるという。
『レェディィイス!ェェああアンド!ジェントゥルムェェエエン!!さぁ!やって参りました!!展覧試合本戦第一戦!!ここ、シダト王国首都ルテプのシダトアリーナは満員御礼!!会場には入れなかった方々は内地外壁問わず観覧酒場の映し鏡から中継でお送りしてるぜ!そして皆さんご機嫌よう!展覧試合専属実況の一人、マティウス・ザキヤマです!』
シダトアリーナ放送席、名物実況マティウスの声に沸き上がる聴衆。その声は内地アリーナ、更には外壁の観覧酒場にまで伝染した。
『会場では既に、開会式が始まり四聖の方々が姫様を連れて観覧席に登場!これから挨拶が始まり、今年の出場チームがゲートから入場するところだぁ!強豪、古豪、新鋭、よりどりみどりの今年の大会、どのチームが優勝を手に入れるのか!さぁ、姫様が壇上に立った!』
アリーナの奥、さながら祭壇のように祀られた壇上に、上がる姫、その左右を守るように並んで立つ四聖たる四人。歓声が静まり返り、すう、と息を吸った姫が、声を響かせた。
「民草達よ、遂にこの日が来た!遥か彼方の世界より、流れ着いてきた流れ人、その流れ人から私の祝福を授かりし闘士達……その奇跡、異能を磨き上げた者達の晴れ舞台!しかとその目に焼き付けよ!」
魔法によるものか、はたまた、肺活量の化け物かは知らない。アリーナに響き渡る凛とした声が民衆の興奮を高めるが、まだまだと押さえ込む様にすら聞こえた。姫が右手を掲げ、アリーナ観客席に目配せをするや、確かに顔が見えぬベールの下で、彼女は笑った。
「選手!入場ぉおおおおお!!」
アリーナの空に、幾つもの風を切る音が響く。この馬鹿げた世界にも、夜空を彩る花火があるらしい、煌びやかで喧しい音をかき消すかの様に、シダトアリーナの観客達は興奮の声を上げた。それと共に楽器隊達のラッパが、太鼓がアリーナに鳴り響き渡る。
『さぁ選手入場だ!第一試合から順に出てくるぜ!!まずは、古豪復活なるか!展覧試合という長い歴史の中で解散、結成は当たり前、しかしこのチームは未だに解散無し!久々の本戦出場!バスディオンズ!!今年召喚された闘士達にメンバーを入れ替え、ここまでやって来たぞ!!』
入場口より、まず現れた古豪『バスティオンズ』軽装鎧の出場メンバーの背後に旗を掲げる者、整列して入ってくる様は行軍の様だった。解散や結成が度々あるチームの入れ替わり激しい中、未だ旗印一つを掲げているのはこのチームだけとマティウスの紹介が場内に響き渡る。
『その相手となるのは、サン・レイズ!クラス、スキルも確かに大事だろうが、いい武器、いい防具、いい道具、それもまた闘士を強くすると豪語する!じゃないとここまで来れてねぇ!その通りだ!!』
その次に出てきたサン・レイズは、全員が貴重なレア度が高い武器や防具に身を固めた『道具』の集団、代表達ですら鉄槌を掲げ、控えメンバーに至っては、鉄槌と金床を打ち鳴らしてアピールした。
『二回戦からもう、実質決勝戦だ!去年の優勝、準優勝がぶつかっちまった!勝ち上がるのはどちらか!?蒼き騎士達ブルー・ラウンズ!昨年No.1闘士のショウゴ・ムラタに、剣術無双のケイショー・ミトという二枚看板のチーム!二連覇しちまうのかぁああ!!』
大本命登場と、マティウスの実況に熱が入る。蒼き鎧を見に纏った騎士達が、剣のアーチを作り、そこを村田翔吾以下、ブルー・ラウンズメンバーが並んで歩いて来た。現、シダト最強チームの入場には観客も興奮が更に高まる。
『デカイってことは、強いという事、この肉体は強靭強大無敵なり!昨年の雪辱は今宵果たす!踏み潰してやるぞ蒼の騎士達!巨人集団ギガンテス!!』
その相手は昨年準優勝にして、巨大な肉体を揺らして入場。巨人博覧会とばかりに、控えですら180cm超えの巨体達が、ズンズン歩いて来る様は、圧巻の一言に尽きた。なにより、去年の決勝カードが1回戦からともなれば、観客達の熱も沸き立つ。
『展覧試合を彩る可憐で強い乙女達!女神なんて優しさを期待するな、私達は気高き戦乙女!展覧試合の紅一点、ヴァルキュリア・クラン!あいも変わらず美女揃いだぁああ!』
ドレスを身に纏う乙女達を従えて、戦乙女達が優雅に歩く。美人である事すらも入団条件とばかりに、美女の戦乙女が華やかに参上。女性闘士も居るには居るがやはり数は少ない、そんな中の女性のみのチームとなれば、女性達からの声援も期待も強い。
『我ら闇夜の一党、我ら闇の刃……暗殺、盗賊日陰者、しかして此度は日向に参上!ノワールドエールが初参戦だぁああ!』
対するは闇の刃と自称する、アサシン、シーフのクラスで揃えた闘士集団ノワールドエール、バク転側転前宙返り、黒一色の衣装が乱れ舞う。新鋭チームらしいがファンも居るようで拍手と声援が飛び交う。
『剣?拳?そんなものは必要無い!人の手でこの奇跡を起こせるか!?叡智と知恵と妖しい薬が俺たちの同胞、魔法集団マギウス・スクワッドが来たぞォオオ!表彰台への下剋上を果たせるかぁあ!?』
深緑、深青、深紅とフードに杖を携えて顔も見せず。杖を振るい炎が、水が、風が会場を暴れ回る。この世界の主役は剣でも拳でも無い、魔法なのだと顕示する様に魔法の奇跡を見せつけた。
と、これで7組が出揃った所で……ラッパと打楽器が止まった。シン……と観客も静まり返る中で、マティウスが喋り出す。
『あー……最後のチーム、はい、えー……劣性召喚者のチームです、TEAM PRIDEどうぞー、入って来て下さーい』
明らかな運営側の嫌がらせが起こった、お前達なぞ誰も望んじゃいないと、この場に立つ事も許さないと、嘲を込めた声が響く。
が………。
『あれ?出てこない……おいおい、まさかビビって逃げーー』
マティウスが嘲りを乗せた声を響かせようとした最中ーー。
ーー会場中の明かりが、松明が消えたーー
『な、なんだぁ!?おいスタッフ!!何があった!?』
姫の傍に立つ四聖も、なんだと守りを固める。入場した他のチーム達も、観客席の聴衆、そして映し鏡の中継を見る現地民も何事かとざわめく中……。
入場口に、この世界には無い強い光が照らされた。そこに……一人立つ少女……TEAM PRIDEを束ねし貴族、マリス・メッツァーが、白きロリータ衣装で立っていた。白のハットから顔を覗かせ、それを思い切り空中に投げた瞬間ーー。
この世界には無い音とリズムが、会場中に響き渡った!!
https://youtu.be/dqamkC4BNIk
様々な光源が会場を移動して、音を鳴り響かせる。そしてマリスの背後から、競り上がって来るステージ。
そこに佇む四つの影、一番左が曲に乗りながら照らされると、綺麗な水色のクリスタルが鎮座していた。その氷にヒビが入り、爆散するや現れたのは強大なる蒼き蛇、それが咆哮を上げ、トグロを巻き、自らの体を氷に変えてガラスの様に砕け散る。
そこから冷気のスモークと共に、冷酷残忍冷血なる闘士、TEAM PRIDE先鋒、中井真也が姿を現した。
光は一番右に移る!白きクリスタルが照らされ、そこからなんと白き狼が穴を空けて出現!狼が唸りを上げ、クリスタルを爪で切り裂いていく。その破片はーー中から現れた男が手足を振るい打ち砕いて、輝く砂と化し、狼が中の男に飛び掛かり霧散する。
砂埃を取り払う様に風が吹き、空なる手を握る闘士、TEAM PRIDE次鋒、町田恭二が十字を切った。
続いて光は左から二番目に、桃色のクリスタルには既に一羽の鷹が頂点に座し、そして天空に羽ばたいて……急降下!地面ギリギリで急浮上した刹那、クリスタルが縦に線を付け光が放たれ、二つに割れた。クリスタルの先に佇む影が、クリスタルが左右に崩れる前に、幾重にも何かを振るい……クリスタルが散りばめられ、鷹は再び人影へ接近して急上昇。破片がまるで花びらの様に揺蕩い、鷹は男の肩へ着陸し消え去った。
煌びやかなる花の雪、そこに立つは天下一刀の闘士、TEAM PRIDE副将、河上静太郎が刀をしまい参上した。
右から二番目、最後は赤色のクリスタル、そこから現れたのは……炎を纏った猿!クリスタルから現れた猿がなんと、マリスの元へ向かい、楽しそうにその周りをくるくる回って飛び跳ね、マリスも喉を撫でてやり、そしてクリスタルへ走り出しその身体をぶつけた。クリスタルは融解し、炎の先には背を向けた男。
やがて振り返り、堂々と炎を抜けて現れた熱きムエタイ闘士、TEAM PRIDE大将、神山真奈都が罷り通る。
夜空に響く曲と共に、ステージを降りてマリスの前に神山が膝を突き、右にて腕を組み立つ中井、左にてガウンの襟を正す町田、そして後ろで背中を向け白刃を軽く抜いて輝かせる河上とポーズを決めた瞬間、ステージから火柱が上がり、大きな文字を作り出した。
『TEAM PRIDE』
異世界の民草にその字は読めなかった、しかして流れ着いた召喚者はチーム名と理解した。
が、それだけでは無い。
耳をつんざくギターサウンドと、その五文字が作り出す単語が、何を意味するのか。そして流れている歌が何なのか、シナプスが無理矢理に思い出させた。
『The Last Man Standing』
最後に立っている者。
TEAM PRIDEが、展覧試合に向けたメッセージ風にこの曲のタイトルを訳すならば。
『最後に立っているのは俺達だ!』
という決意表明か。
「あの野郎、懐古主義もいい加減にしやがれ……」
開会式ジャックという行為を目にした、神山の好敵手、四聖の一人、拳神高原は、その入場を前にして歯軋りをするが、声を荒げる事は出来なかった。何しろ、曲から演出から、チーム名から感づいてはいたが、胸を熱くさせて来るものだったからだ。
「あはは!派手だね本当!!散り際にしてはいいんじゃない!!」
そんな演出も、散り際なら派手にしてもいいと馬鹿にするのが、魔将の篠宮倉人だった、腹を抱えケタケタ笑い、好きにさせてやれよとその様を眺めた。
「……」
一際巨体の盾王は、冷たくただ見つめ無言を貫いている。
「しかしまぁ、この音やらは魔法でも使ったのか……」
剣聖、御剣玉鋼はこの音楽はどうやったのやらと疑問を呈する最中、突然の入場パフォーマンスに、度肝を抜かれた観客は、こればかりは声を上げるしかなかった。
いよいよ始まる、展覧試合、TEAM PRIDEは入場から派手に爪痕を残すのであった。