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チームガウンと河上からの提案

 展覧試合開会式、そして第一戦まで一週間。TEAM PRIDEは最終調整に入っていた。


「行くぞ神山!」


「うっす!」


 中庭青空ジム、神山と対峙する長谷部は、小さな革袋に砂を詰めた物を、神山に向けて次々と投げていく。それを神山はウィービングし、時にダッキングを交えながら回避をし続け、前進していった。


 防御トレーニングだ、展覧試合での対戦相手、マギウス・スクワッドへの魔法対策、まずは『避ける』に焦点を絞ってメンバーは練習を始めていた。特に初級魔法は、属性を纏った弾丸を放つ傾向が多く、まずはそこからだと、長谷部のボクシングから防御技術を指導されていた。


「はい地面!」


 それだけでは無い、足元や面での広範囲攻撃を避ける為に、神山は地面を転がって一気に間合いを稼ぐ事まで考え、練習に臨む。


「うぉお!」


「ファイアバレット!」


「うおぁああ!?」


 そして、真正面や真下からでは無い、理不尽な軌道、視界外からの攻撃には緑川社が、初級魔法を放ち不規則性を作り出す、徹底した集中力と防御技術を神山は叩き込もうとしていた。


 その傍では……。


「いやはや、まさかこんな形で叶うとはな、町田くん」


「なに、作って貰った武器の試しだ」


 河上静太郎が珍しく、中庭に出ていた。自らがこちらの木を削って作ったらしい木刀を肩に抱えて、対する町田恭二の両手にも武器が握られている。縦の長い棒に、横に短い持ち手を取り付けた、琉球空手の武器『トンファー』である。河上静太郎が、指切りにて武器を売り捌いている外壁の武器屋に作らせたものだった。


 河上静太郎は、前々から町田恭二の空手、取り分け琉球空手に類する武器術に興味があった。TEAM PRIDE加入前には武器ありでいいから死合えと強請ったくらいで、練習でそれが叶う事に興奮を隠しきれていない。


「他はあるのか、町田くん」


「まだまだあるぞ、まだまだな?」


「よし、全て試せ、僕が全て受けてやる!」


 ある物全て、俺で試せと嬉々として木刀を振るい出す河上に、町田のトンファーがぶつかり小君いい音を立てる。本戦では武器術も解禁すると町田は宣っていたが、それは本気だと見て取れた。


「ただいま、緑川くんちょっといい?」


「あ、はい!すいません長谷部さん神山さん、中井さん手伝って来ます」


「ういー、あんがとね」


 中井は……外出していたらしいが、何やら紙袋や革袋を担いでいた。何やら魔法薬やらその材料やら、それらを緑川から教えて貰っては、充てがわれた自室や中庭で色々していた。時折小さな破裂音が聞こえたり、煙が上がるが……果たして展覧試合まで生きているのだろうか?という、何を持ち出す気だと神山は心配しているが、どこ吹く風であった。


「みんな、ちょっといいかしら?」


 そんな最終調整の最中、マリスが皆を呼び出したのである。



「何ですか、マリスさん、いきなり皆集めて」


 こと、主人たるマリス・メッツァーが皆を集める時は、余程の事となる。鍛錬に関しては闘士達に任せきりな彼女が呼び出したとなるなら、何かがあるのだろう。神山含め緑川、長谷部と全員がリビングに集まった。


「マナト、あなた予選の時に呟いてたわよね?」


 神山に話を振るマリス、神山は、はて?と首を傾げた。何か呟いてたかなと。


「え、何ですか?俺何か呟きましたっけ?」


 覚えが無いなと、思い返す神山に河上が笑って茶々を入れた。


「勝ったらマリスさんが欲しい、とか?」


「いやそれは無いっすよ河上さん」


「それはちょっと傷つくわね……」


 それは無いからとすっぱり言われ、違うけどそれはそれで傷つく、女心というか、気遣いが無い神山に河上は苦笑、マリスは顔を横に振り否定すれど気遣いを欲した。


「ほら、チームを表す上着?あれが欲しいーって」


「あ、え!俺それマリスさんの前で言いましたっけ!?」


「ええ、聞こえてたわよ」



 神山の呟きとは、他チームが着ていたりする、所謂チーム衣装の事だ。現世の有名ジムのデザインが印刷されたジャージや、道場の道着など、それらがあったらなと、確かに神山は言っていた。


「それで、昔お父様が出場闘士達にオーダーメイドしていた形の、上着があるの……あれをマナト達に作ったの」


「マジっすか!?」


 なんと、チーム衣装を秘密裏に作ったのだと神山に伝えるや、神山はマジかと興奮して、それと同時にカラカラと奥から、移動ラックをニーナが押してきたのだった。ベールをわざわざ掛けている。一体どんなチーム衣装なのかと興奮する傍らで、中井は少々眉間に皺を寄せ、河上に耳打ちした。


『この世界で衣装って、ダサい形になりませんかね?』


『まぁ着なければなるまいよ、我慢してな』


 こんな世界で衣装なんて、ダサいに決まっていると難色示す中井に河上は仕方あるまいと笑う。そんな事も気にせず、ニーナとマリスがラックのベール両端に立ち、そしてゆっくりと取り払った。


「おお!」


「おっ……」


「むっ」


「ほう、これまた……」


「これって……プロレスとかの……」


「あぁ、ガウンだな、入場の時に羽織るやつ」


 取り払われた先に現れたのは、長袖のロングコートにも似た衣装だった。フード付きのその上着は、TEAM PRIDE全員が見知った形状。『ガウン』と呼称される物だった。


 ガウンとは洋服の形式の一つであり、膝ないし床に届く丈の物を指す。こと現世ではナイトローブ、式典でも同形状の物があるが、神山達にとってこのガウンというのは、特別な意味を持つ。


 そう、プロ格闘技の興行は入場の際、これを羽織り出番を待ち、曲と共に入場するのだ。デザインを特注し、そして協賛するスポンサー会社を縫い付け、煌びやかなライトと声援を浴びて入場する。


 TEAM PRIDEの団体を象る衣装として、これ程相応しい物は他にないだろう。


「えっと、色は黒をベースにしたの、丈は長めに揃えて……左からマナト、シンヤ、キョウジ、セイタローのになるわ、羽織ってみてくれる?」


 黒色で統一したが、デザインはそれぞれ違っていた、左から誰のかを示して神山達はその前に立ち、マネキンからガウンを外し、羽織ってみる。


「おっほ、すげぇ興奮する!」


 神山真奈都のガウンは、それこそ現世の格闘家達が袖を通すような形だ。襟や袖口は金色に塗られ、シンプルながら力強さを感じた作りになっている。


「ピッタリしてる、コートに近いな」


 中井真也は袖が他より細い為すらりとしており、腕や背中、腰に飾りベルトが取り付けられ、両腕に蛇のデザインが刺繍されていた。関節を、骨を纏わりついて破壊する、蛇のイメージからの刺繍らしい。


「僕のはゆったりだ、おや、態々これを刺繍してるのか」


 町田恭二のガウンはゆったりとした袖になっており、一回り大きめになっている。肩と肘に三段ほど折り目があり、そこには円形の飾りが取り付けられている。そして右胸元にはなんと『松濤館』と、綺麗な刺繍が刻まれていた。見様見真似ながら、しっかりとした刺繍だった。


「成る程、袖が無いのは剣道着の上からと、まるで陣羽織のようだ」 


 河上静太郎のガウンは袖無しになっていた。剣道着から羽織ると見越してのデザインで、襟袖が他3人より長く、首が隠れる形になっている。そして肩のラインがはっきりしており、さながら陣羽織の様にも見えるなと河上は評した。


 こうして、全員がガウンを纏ってみれば圧巻である。マリスとニーナは満足気に頷いた。


「お似合いですよ、皆さん」


「ええ、ええ、お父様から受け継いだ型紙がこうもなるなんて……」


 目の前に立ち並ぶ男達の晴れ姿に、マリスは胸を熱くした。ドレスの胸元を握りしめて皺が寄ろうとも。この男達が、展覧試合を勝ち抜き優勝する姿が、もう頭の中に彼女は浮かんですらいた。


「様になってるな、やはり……」


「かっこいいですよね」


 途中加入の長谷部、緑川には流石に用意はできなかったが、マリスははっとして二人に振り返る。


「二人のは決勝までに作らせるから、決勝で一緒に入場しなさいね」


 決勝はメンバー全員に入場で出てもらうから、出来上がりを待って欲しいと伝えるマリス。


「残り一週間か……ここまで来たんだな、マジに」


 そうして、いよいよもう一週間後には本戦なのかと、ガウン姿で腕を組む神山は、長かったこれまでをしみじみ思い返す。奴隷に落とされ、賭けにならぬと放逐され、マリスに拾われた。


 中井と互いの技をぶつけ合い、町田とチンピラ共を壊滅させ、河上と死闘を繰り広げた。


 そして予選を潜り抜け、長谷部と緑川という新たな仲間が加入して、いよいよ展覧試合本戦までたどり着いたと、長い道のり……しかして一年まだ経過してないから、全速力な道を思い出す。


「マリスさん、勝ちますよ俺ら……優勝しますよ」


「ええ、当たり前よ」


 勝って当たり前だと啖呵を切ったのだ、負けないなんて言わないと、マリスに決意を言えば、マリスも当たり前と笑った。


「さて、さて……神山くんや、悪いけど相談があるのだが?」


「うん?何すか河上さん?」


 話を切り、河上が相談があると神山に向くと、河上が何やら懐から羊皮紙を取り出した。


「これなんだがな、当日の開会式と第一戦のプログラムなのだが……」


「どっからそんなものを……」


「街中の書店やらでフリーだった」


 進行プログラムというか、パンフレットだろうか、そんな物まで発行されてるのかとから笑いする神山、そしてこの世界の文字を辿り、一文を河上が指し示す。


「なんでも、姫の開会宣言後に、戦う順番で入場するらしいんだ」


「はい、じゃあ……僕ら最後に入ってくるわけですか?」


「ああ、大トリだ」


「ええ…………」


「………………」


 開会式で『入場』の順番、自分達TEAM PRIDEは最後なのかと理解した神山。しかし河上は、そんな相槌を求めちゃおらんと神山を見つめる。


「え、あの、それが?」


「キミ、仮にもプロなんだよな?格闘技と言えば?」


 仮にもプロデビューする筈だったなら、意味が分かるだろうがと答えを促す河上に、しばらく頭を動かし……。


「あ!!」


 そして十数秒でやっと答えに辿り着いた」


「そうか入場だ!入場!!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 河上さん入場をハデに演出するつもりですか? 入場曲といえば定番はイノキボンバイエですかねやっぱ。 ポセイドンのカイトに頼めばスピーカーとアンプ、プレーヤーは用意できますね。
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