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宣戦布告

『はい、じゃあ互いにファイティングポーズお願いしまーす』


 一年前、東京の某ホテルの多目的ホール。10月始まりの事である。


 現在、日本最大の立ち技格闘技団体『BOF』ことBrave Of Fist。


 その団体が年末に行う、一大イベント『BOFカーニバル』


 神山真奈都は、アマチュアでありながら、そのオープニングファイトとして、試合を組まれたのだった。


 というのも……BOFには所謂アマチュア部門があり、毎年中学生を対象に、『BOFユース』というアマチュア試合のトーナメントが行われ、その決勝戦はBOFのオープニングファイトへあてがわれているのだ。


 神山真奈都は、中学3年最後の大会で遂に決勝へ歩を進めたのである。


 その対戦相手は、世代最強。『神童』の二つ名を冠し、過去に遡れば神山に三勝している天才児。対する神山は全くのノーマークから、世代の天才達を悉く打ち倒し、神童に肉薄する『狂人』とまで呼ばれる程になっていた。


 世代最強の神童か?天才狩りの狂人か?プロたちの試合も食いかねないこの試合を前にして、記者のカメラの前で構える二人。


 試合結果は、神山の敗北に終わった。


 だが……その試合で『神童』はアマチュア戦績初めてにして最後のダウンを喫し、神山は四度目にして、神童と初めての判定決着までもつれ込んだ、語り草ともなる死闘を演じたのだった。




「マナト、大丈夫?ぼーっとして」


「んっ、あ、おっ……」


 フラッシュバックからマリスの声に引き戻された神山はあたりを見回す。あれから、他の予選突破組も呼ばれたみたいだが、フラッシュバックから聞いてなかったが、全員紹介が終わった様で、トーナメントの抽選が始まろうとしていた。


「では、抽選に移ります……今年も形式通り、まず番号札を貴族達に引いてもらい、その順番でトーナメント表の枠を代表が選んでもらう形になります」


 姫の進行により、まずはと兵士が入ってきて、瓶が運ばれた。瓶には長い棒が八本差し込まれており、恐らく番号が刻まれているのだろう。それを引いて、その順番にトーナメント表の枠を埋めていく。さて……となれば避けたいのは『1番と8番』だなと、席を立ったマリスを見送る神山は頭で考えていた。


 トーナメントの順番も、戦略の内に入るのだ。


 例を挙げるなら、この場の前年優勝たるブルー・ラウンズが一番を引いたとして、そうなればまずその隣を避ける様に枠組みを決められる。特に予選突破組はそれを避け、一戦目は同じ予選突破組と戦い、まず勢いをつけたいところだ。しかし、余程がなければ一番を取ったブルーラウンズの横を避けようとして、結局隣があまり、八番がそこに当て嵌められる。


 という展開が神山には見えた。が、神山からすれば、いや、TEAM PRIDEからすればブルー・ラウンズだろうが、ギガンテスだろうが上等の気持ちだ。河上はブルー・ラウンズに、中井はヴァルキュリア・クランに因縁がある為、その横を出来るだけ希望通りに行きたいと思っている。


 が……避けたいのはやはり、魔法使い集団、マギウス・スクワッド。長谷部からも相性から要注意勧告が出ている以上、それと当たるブロックは避けたい。


 貴族達が棒を引き抜き、マリスが先を見て……目を見開いた。そして戻ってきて青ざめた顔を見せてきた。


「ま、マナト……ごめんなさい」


「え?」


「8番、引いちゃった……」


「ま、仕方ないっすね」


 幸先悪い結果に、神山はしばらく黙ったが、マリスに笑みを見せた。





「では1番を引いた、バスディオンズからどうぞ」


 姫の号令に従い立ち上がる、1番目を引いたのは、予選第三ブロック突破のチーム、バスティオンズ。中々長い間続く古豪チーム、久々の展覧試合出場らしい。その代表、名前を聞きそびれたが、彼は一枠1番を取った。羊皮紙を打ち付けた板、その羊皮紙に自らのチームを示す羽を突き刺した。


 まぁ、妥当だろう。余程捻くれなければ一番か八番の枠を取りに行く。問題は……と神山はバスティオンズの代表が戻り、立ち上がる次の代表に目を向けた。


「続いて2番、ブルー・ラウンズ」


 ブルー・ラウンズの村田が羊皮紙に向かう……楽に勝ちに行くなら、バスティオンズの横、一枠2番かと様子見をする神山。


 しかし村田が選んだのは、二枠3番であった。記者団もざわつき出した。


「3番、サン・レイズ」


 3番目、予選第二ブロック突破、サン・レイズ。道具と武装に重きを置いたチーム。無論彼は、一枠2番を選択。これにより展覧試合、本戦第一試合が決まった。


「4番、ギガンテス」


 ギガンテスが4番目、ここがどうなるか……神山はその巨躯なる代表、ババサトシが、どうするのかと見つめていたが……。


「俺たちはここだ」


 巨躯に見合った野太い声で、ギガンテスが選んだのは二枠4番。おおっ、と記者団も湧き上がった。前年度優勝と、準優勝が、第二試合で潰し合う事になった。雪辱戦に舵を切ったギガンテスに、神山は……。


「そうきたか……」


 雪辱戦に向かったのは予想はしていたが、難色を示した。残り4枠、次に選ぶのは。


「5番、マギウス・スクワッド」


 カナメシュンが立ち上がり、羊皮紙に向かう。選んだのは四枠7番、第四試合。


「6番、ヴァルキュリア・クラン」


 代表、アサクラカイリが選んだのは……三枠5番。


「7番、ノワールドエール」


 予選第四ブロック突破組、ノワールドエール。アサシン、盗賊でメンバーを固める黒衣の集団。その代表が、どちらを選ぶか……。迷い無く、三枠6番を選択した。


「ありがとうございます、では最後TEAM PRIDE、四枠8番に羽を」


 最悪の展開に神山は……舌打ちや落胆なぞしなかった。ただ立ち上がり、羽を羊皮紙に刺した時考えていたのは……。


「長谷部や中井や河上さんに、どう弁明するか」


 これだけであった。


 そして遂に、展覧試合本戦の対戦カードが決定した!


 第一試合

 バスティオンズ VS サン・レイズ


 第二試合

 ブルー・ラウンズ VS ギガンテス


 第三試合

 ヴァルキュリア・クラン VS ノワールドエール


 第四試合

 マギウス・スクワッド VS TEAM PRIDE


 

 TEAM PRIDEは初戦から、相性最悪とされる魔法使い集団、マギウス・スクワッドとの戦いを強いられる事になったのだった。



 そして、代表達は羊皮紙に、この展覧試合におけるルールの同意をサインして、これで抽選会は終わり……ではなかった。


「では、記者団方々、選手に質問があればどうぞ」


「シダト日報です、ギガンテスによろしいですか?」


 質疑応答、質問の時間が設けられた。なんとまぁ、現世の格闘技イベントを思わせるなと、腕と脚を組み、神山はぼーっとするのだった。こう言った質問は大概、有名所に集中するのだ、よくと一個はこちらに振られるぐらいだと、実際現世でこのシチュエーションを受けた神山はリラックスしていた。


「ノワールさん、意気込みは?」


「くく、我ら闇の刃が戦乙女の羽を切り落とすは目に見えている」


「ヴァルキュリアさん、返答ください!」


「キャラ作りすぎ、痛いわよ」


「ブルーラウンズさん!事実上の決勝、意気込みを!」


「まだわかりませんよ、我々は全力を……」


 ほらねと、神山は天井を見上げながら時間を潰す、新参の劣性召喚者チームなんざ見向きもしないだろうなーと、呆けていると。


「TEAM PRIDEさん、よろしいですか?」


「んあ?」


 身構えておらず、呆けていながらも質問に反応した神山が、記者が手を挙げてこちらを指名している事に気付いた。


「シダト闘士通信です」


「あ、あー……何ですか、どうぞ?」


 格◯着通信みてぇな名前だな、この世界雑誌もあるんかなと今更な疑問を抱きながら、そのシダト闘士通信の質問に神山は答える事にした。


「TEAM PRIDEは聞けば、全員が姫様より力を授からなかった、劣性召喚者と伺いました」


「えぇ、現在本戦メンバーに関しては、相違ございませんが……」


 チームに関する質問だ、メンバー全員が劣性召喚者であり、間違いないと答える。その記者は、にまりと笑って言い放ったのだ。


「実際、予選で当たったチームにはいくら程お渡ししたのですか?」


「は?」


 それは明らかなる侮蔑と、嘲りであった。


「我々シダトの民草は、闘士達の戦いを見てきました、故にその実力は存じております、故に本来なら労働力や奴隷になる劣性召喚者が、この場に立てている事実が不信としか思えない」


 神山の表情が真顔になり、マリスが先に立ち上がった。


「貴方!うちの闘士にケチつける気!?」


「いやはや、そういうわけでは、ただ、ねぇ?信じられないのですよ」


 他の記者達も、賛同の眼差しを、シダト闘士通信の記者へ向けた。マリスは身体をワナつかせ、杖を抱えたその時……神山はゆっくり立ち上がった。そして席を離れ、記者団向けて歩き出し、シダト闘士通信の記者の前に立つ。


「あんた、つまり実力が信じられないと?」


 神山は記者を真っ直ぐに見つめて再度尋ねた。


「ええ、でどれくらーー」


 その刹那、記者の景色が明滅し、顔に熱が走った。


 神山はその瞬間に、右の肘で目元のライン、更に左の肘を振り切り鼻のライン、最後に更に右肘と、三連続の肘のコンビネーションを叩き込んだのである。


「じ!じびゅびゃばばば!?」


 するとどうだ、両目の瞼のラインを横に皮膚が捲れ上がり筋繊維が剥き出しに、鼻は削ぎ落とされて吹き飛び、口腔は崩壊して血を垂れ流し、足元に破砕された前歯が十数本、血と共に滴り落ちたのである。


 この光景には、他のチームの代表もましてや、記者団も驚かざるを得なかった。


「俺たちの実力、身をもって体験できたかよ、今のは肘打ちだ、ムエタイの肘打ち、理解したかよクソ記者ぁ?」


「びぃい!びぃいうああ!」


 襟首を掴んで睨みつける神山、ここで動きを見せたのはーー。


「やめろ神山ぁ!」


 今や四聖として、姫の傍に立つ神山の現世の好敵手、拳神高原泰二が神山を止めに向かった。神山は記者を思い切り押しどけるや、高原と衝突!


 高原の右ストレートを掻い潜り、右のアッパーを返す神山、それを交わして高原は左のフックを叩き返す。しかしすぐに引いた右腕で右側頭をカバーして近づき、神山は前蹴りを放ち、二人は距離を離した。


 神山はふと、口内の痛みを感じて、鉄の味が広がるのを実感し、唾と血の混ざり物を吐き出す。


「衰え無しか高原ぁ……流石剛腕だ」


 左フックの防御をしても、口内まで衝撃が来て、歯が粘膜を傷つけたらしい。久々に食らった代名詞と呼ばれていた一撃に、笑う神山。


「神山、それ以上暴れるなら本戦出場取り消しもあるぞ、その記者が失礼だったのは分かるがな」


 対して諭す様に神山へ、記者の無礼は理解しているから止めろと宣う高原。しかし神山は何故か、自分の鼻を人差し指で指し示した。鼻がどうかしたのかと、高原が鼻を触ろうとした矢先、ポタリと、手に赤い雫が落ちるや、高原に鼻の疼く様な痛みが走った。


 ダクダクと流れ出す鼻血、それを見て記者団達は驚きの声を上げる。


「ば、馬鹿な!?四聖の拳神様が、鼻から流血を!!」


「それだけではない!拳神相手に互角の打ち合いしたぞ!この男!?」


 神山はその声に、ニヤリと笑った。いいな、よし、なら徹底的に煽ってやるかと。


「そこの記者、あー、シダト闘士通信だっけか?こいつが疑問にしていた実力も証明できたかと思います、TEAM PRIDEは確かに、そちらの姫からさながらオ◯ニー後のチリ紙の如く捨てられた、劣性召喚者の集まりです、クラスもスキルも目覚めやしてません」


 記者団に対し、独白を開始する神山に、記者達は耳を傾ける。姫もこの惨状に怒りを露わにするどころか、笑みすらベールの隙間から覗かせていた。


「が、俺たちには今見せた、鍛え上げた五体、そして連綿紡がれて受け継がれて来た……格闘の技術、即ち格闘技がある!その技術は決して優性召喚者の能力に劣らない!!」


 本心を叫ぶ神山に、その声を聞いた、展覧試合参加の闘士代表達と記者団は気圧された。そして神山は、右手を上げて高原を指差し宣言した。


「TEAM PRIDEはこの展覧試合に優勝し、四聖全員を叩き潰す、これは宣言じゃねぇ、予言でもねぇ、絶対なる結果としてお前らに叩きつける!よくその辺覚えとけ」


 神山は手を下ろし、そのまま立ち上がっていた主人たるマリスに向かい歩き、その手を握った。


「ではこれで、本戦を楽しみにしておいてください」


 そのまま退場する為に、記者団の前をわざわざ通る神山に、記者団達はモーセの海割りの如く道を開ける。悠然と歩き、記者団を、代表達を背にホールを出ようとする神山に、一人の記者が待ったをかけた。


「ち、TEAM PRIDEさん!あ、あの!?四聖を叩きのめすと言いましたが、本戦の意気込みは!?」


 その質問を受けて神山は立ち止まり、振り返った。そして……ニヤリと笑って言い放つのだった。


「テメェらなんざ、眼中にねぇよ」


 正しくそれは、宣戦布告だった。


 シード組も、ましてや予選突破組も眼中に無し、あるのは四聖殲滅のみだと宣った神山は、背中を向けて抽選会を後にするのだった。




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[一言] 誤字修正 右の肘で無元のライン 正 右の肘で眉間のライン ? 神山くん神童からダウン奪って判定まで持ち込んでたんだね。中井くんと河上さんをチームの暗黒面と心の中で叫んでたのに神山くん…
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