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怒りと悔しさをバネに。

 翌日の事、神山と緑川、そして長谷部の3人は再び中央の門を潜っていた。闘士の移籍はおいそれと勝手にできるわけでは無い、リリースにあった長谷部は普通に届け出ればいい話だが、現在別チームに所属している緑川の場合、まず相手方チームにその旨を伝えて、離脱の意思を見せて正式な手続きが必要になる。


 というわけで、緑川社は神山達に後を押され、マギウス・スクワッドからTEAM PRIDEに移籍をする事になった。そんな緑川より、内地の内情を聞いた神山は、改めてシダト内地の街並みを見て、その見え方が変わっている事に気付いた。


 この内地に住う誰もが、普通に生活していて、雇われた貴族から保護を受けて、いざ戦うとなれば闘技場で戦うと。


 それが一気に現実味を増してきた、普通に暮らせる闘士は一握り、この内地で働いたり、身を売りパトロンを手にして生活しているのだと。


 ここ、仮にも異世界だよなと、まだ現世の延長に自分は居るのではないかと、本当はこの馬鹿げた世界は地球上に存在し、何かしらの人体実験、大規模実験で作られた箱庭なのでは?なんて考えてしまう神山。


「ここです、マギウス・スクワッドの本拠地、いや……ギルドとでも言うんでしょうか?」


 そのまま考えながら歩いていれば、いつの間にか件のマギウス・スクワッドの本拠地に辿り着いていた。外観を見た神山は、まず思いついたのは周囲の建物や外壁とはまた違うという事だった。


 内地の建物は、無垢というか無機質な感じがしていたが、ここだけ雰囲気からまた違うのだ。外壁やスラムはイメージができたが、この建物は他から隔絶しているかの様な異質さがある。さながら、それは魔法の世界を意識したというべきか、ディ◯ニーやハ◯ー・ポッ◯ーの世界の建物が、この場にドンと無造作に置かれている感覚であった。


「ギルド?」


 その中で神山は、聞き慣れない言葉を緑川から聞いたので、それに関して聞き返すのだった。


「あ、知らないんですね、そもそもこうした闘士の集まりの事を、ギルドって呼ぶんです、チーム名と同じではあるんですが、時折ギルドには依頼が来て、それを受けて報酬を貰ったりするんですよ」


「ていうか、神山達は依頼とか受けてないのか?」


 それは知らなかった、そもそもチーム名以前にギルド名とやらだったのかと、安易に納得している神山に、長谷部は今までどうして稼いできたのだと尋ねてきた。


「俺と中井は賭け試合で築いた金があるし、町田さんは働いてるし、河上さん……も、賭け試合?だったかな?」


「はぁ?なら、マリスさんの財産は?」


「聞いた事無いな、けど今まで自分で金払ったのは自由時間での軽食くらいだし……あ、確かマリスさん俺にだいぶ賭けてたな、試合で!」


 その答えと共にけたけた笑い出す神山に対し、長谷部と緑川は苦笑するしかなかった。この闘士達にして、あの主人ありなのかもしれないと、二人はその横顔を眺めていると。


「うっし、じゃあ一発かましてやるか?」


 神山は左右の手を交互に握り、骨を鳴らしてマギウス・スクワッドの扉に向かった。


「こらこら!待て神山!?喧嘩しにきたわけじゃ……」


 明らかに殺るき満々な神山に、長谷部が止めに掛かった。しかしその手は扉を殴ることはなく、ノック用の鉄輪を掴み、少し強めに扉へ叩きつけた。


「ごめんくださーい、いらっしゃいますかー?」


 長谷部と緑川は二人して、膝から崩れ落ちる。そして何事も無く扉は少し開けられた。


「はい、どちら様ですか?」


「すいません、突然に……私TEAM PRIDEの神山真奈都と申しまして、マギウス・スクワッドの代表者様に少し用がありましてお尋ねしたのですが?」


「TEAM PRIDE?アポイントメントは?」


「申し訳ありません、昨日急に出来た用でして……お時間無ければ改めた方がよろしいですか?」


「少し、お待ちください」


 扉は再び閉まり、よしと胸を張った神山。そしてずっこけた2人に気付いて後ろへ振り向くと。


「どうしたよ、2人して?日差しにくらついたか?」


「紛らわしいんだよお前はぁ!!」


 肩透かしを喰らった長谷部は、立ち上がり一喝をくれてやるが、すぐにマギウス・スクワッドのギルドの扉が、ゆっくり開かれた。


「代表者様がお会いになるとの事です」


「どうぞ、マナト・カミヤマ様」


 そして現れたのは、2人のメイドだった。ミニスカにガーターと来た。胸元もぱっくり晒されている、秋葉原に居そうなメイド達だった。河上静太郎が居たならば、2人して『今夜暇?』なんて誘いかねないメイドが、神山達を中に通すのだった。



 マギウス・スクワッドの……と、言うよりは他のチームの本拠地に入るのは神山は初めてだった。正確に言えば、外壁のチームたるクライム・ボーイズに、悪党まがいな事をしていたオロチの本拠地に足を踏み入れた事はあるが、こうして展覧試合参加チームの本拠地ともなれば、少しばかり緊張する……。


 という事も無く、神山達はマギウス・スクワッドの応接室らしき場所に通されて、代表者たる貴族を待った。


 扉を背にしてソファがあり、左右に本棚、奥に実務机といった所か。神山はこの配置というか、間取りが気になって仕方がなかったのである。普通の筈だ、普通にありふれた配置の筈、なのだがそれがなんとも引っかかってしまい。


 対して緑川は、チームを抜ける旨を代表者に伝えねばならない為に緊張していた。長谷部もまた、腕を組み待つが、まだかまだかと貧乏ゆすりをしていた。


 ガチャリ、とドアが開く。またもミニスカメイドだ。


「お待たせしました、代表のクロノス様が参られます」


 メイドがそう宣い、1人の青年が入って来た。そういえば、現地人とあまり会話もしてないなと、神山はこれまで関わったのが、同じ転移した奴らが多い事を思い出す最中、マギウス・スクワッドの代表は神山達の前に来て会釈をした。


「こんにちわ、マギウス・スクワッドの統括責任者、クロノス・グランフィールドです、TEAM PRIDEの大将、マナト・カミヤマ様、ようこそお越しになられました」


 目の前にて挨拶をした責任者、つまりはマギウス・スクワッドを束ねる貴族は、これまたなんとも言い難い美男子であった。まるで、女の子が妄想する王子様とか、貴族とか、その顔立ちをしていた。


 こんな優男が責任者?と思った神山だったが、すくりと立ち上がり頭を下げた。


「お忙しい中お時間、ありがとうございます、TEAM PRIDEの神山真奈都です」


「ええどうも、それで、話があると伺いましたが……」


 クロノスはソファに座して、要件を尋ねて来たので、神山も改めて座り、要件を単刀直入に話した。


「はい、こちら……マギウスの所属選手、緑川社の登録解除、そして彼のTEAM PRIDEの移籍に関しましてお話に参りました」


 要件を言った矢先、優男のクロノスの顔は……ふざけるなと怒る事も無ければ、そうか残念だと未練を見せる事も無くーー。


「そうですか、かしこまりました、では契約書の破棄をしますので、少しお待ちいただけますかな?」


 単純に、作業の一つとばかりに、理解して彼は立ち上がり、本棚へ向かうのだった。リリースに関して、緑川社に関しては何も無いと、クロノスは本棚を吟味してその一冊を取り出す。


「ヤシロ・ミドリカワ……あぁ、三軍のね……序列も低い……どうぞ、こちら燃やすなり破るなりしてください」


 その中に挟んでいたらしい紙片を取るや、神山に渡してそう宣ったので、神山は受け取るなり一言言った。


「随分簡単に渡すな、うちの選手を引き抜くなとか、無いの?」


「エースクラスならまだしも、三軍相手に思う事は無いですよ、こちらとしては経費が浮きますので、どうぞお好きにと」


 紙片を受け取り、目を閉じて神山はその紙片をトントンと指で叩きながら、ふうと一息吐いて立ち上がった。


「なぁ……あんたらさ、俺たちが元いた世界から訳も分からずに、この世界へ連れて来られてるのを知ってるわけ?」


「えぇ、姫の召喚の儀はその様なものと……」


「で、だ、責任とかさ、感じないんだ?最後まで面倒観るとかよ、申し訳ないとも思ってないんだ、あんたら?」


 それは、優劣問わず、この世界に召喚された者達へ、如何な感情を持つのかという問いかけだった。


「責任とは?」


 その問い掛けに、答える事も無く、聞き返した事に神山は明らかに気分を悪くして立ち上がる。


「もういい、緑川は連れてくよ、時間ありがとうございます」


 そして紙片を破り、わざわざ自らのポケットに入れて頭を下げて、帰るぞと長谷部と緑川を促した。


 扉を出て行く神山達を見送るクロノス、そして扉は閉まり、無機質な眼差しはただ扉を見つめるだけで、そのまま本をしまい、執務室の椅子に座すのだった。




 マギウス・スクワッドのギルドから出た神山達は、そのまま内地から外壁に出る為に唯一の門へと向かう。神山の背から、明らかに尋常じゃない殺気、苛立ちが湧き出ているのを感じていた長谷部だったが、気持ちは理解していた。だから何も喋ろうとはしなかった、喋ったら爆発する、それは長谷部自身も同じ心境であった。


 勝手に呼び出して、勝手に優劣つけて、戦わせて、いらなければ捨てる。勝手な奴らだ、この世界の輩は……。長谷部の拳も、いつの間にか硬く、握り込まれていた。


「ほんとはさ……少し、期待してたんだよね……もう少し頑張ってみろとか、行くなってさ、引き止めて……くれるかなって」


 そんな中、緑川は震えた声で話し始めた。


「この世界に来て、魔法が使えて、スキルもあるのにさ……上には上が居て、現世と同じになっちゃって……思い描いてたんだよね、馬鹿みたいにさ、魔法で戦って華やかに持て囃されて……」


 現世でも、緑川はうだつの上がらない奴だった、この世界に来て、優性召喚者に選ばれて変わると思った。けど、現世と変わりはなく、上には上がいて元の鞘に戻ってしまった。


「僕には、僕には凄い力が眠ってて、まだ目覚めてないんだなんて妄想してさ、馬鹿みたいだよね……厨二な妄想も大概にしろって感じでーー」


「やかましいっッッツ!!」


 うだうだ嘆く緑川に、神山が叫んだ。周りを歩いていた人も、なんだなんだと神山達を見たが、神山は構わず歩きながら話す。


「お前だって分かってたろ、三軍の名前も朧げな奴引き止める輩なんて居ないって、うだうだ泣き言吐く元気あるんなら、強くなりゃいいんだよ」


 慰める事はしない、神山はこれが現実だと緑川に言い切った、所詮三軍の劣等生、捨てても痛くも痒くも無いのが現実だろうと。そんな暇あるなら、強くなればいいんだと言い切った。


「でも、どうやって?」


「そんな事考えんな、考える暇も無くなるくらい、愚直に鍛えるしかねぇんだよ」


 神山は振り返ると、緑川の胸元に拳を押し付けた。


「TEAM PRIDEに入ったんならお前も、格闘技の一つや二つやってみろ、オーバーワークで立ち上がろうとする根性があるなら、十分強くなる素養あるわ」


「だな、神山……泣き言吐くくらいなら、サンドバッグを叩きまくるさ」


 長谷部も、作り上げた拳で緑川の背中を軽く押しつけた。緑川は、その拳からまるで、熱を受け取ったかの様に胸を熱くした。


「なれる、かな……こんな僕でも……」


「なるんだよ、強く……なれるなんて願望捨てろ、強くなるって目的だけにしろ」


「だな、願うくらいならこいつで叶える、それが俺たち格闘家だな」


 神山と長谷部に、願うなと言われた緑川。それはさておきと神山は、マギウス・スクワッドを束ねる貴族、クロノスへ……いや、この世界に自分達を拉致召喚したあの姫に対しての怒りが、改めて込み上げてきた。


「こんな馬鹿げた世界に呼びつけた姫も、呼びつけといてあとは知らんぷりしやがったあのクソ貴族も、まとめて殴り倒してやる……!」


 こうして、男達はまた、それぞれの目標を胸に拳を固める。


 展覧試合本戦まで……残り一ヵ月半。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒険者まがいの事を召喚者にやらして上前をはねているんだな内地の貴族共は。クロノスは外面はいいかもしれんが対応したのが河上さんでなくて良かったね。気に障ったと言う理由でナマスに刻んでただろうな…
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