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古き因縁、二つ。

「待て、待て!河上静太郎!逃げるのかあんた!?」


 呆れ顔の河上が横切り、ふざけるなと、逃げるのかと声を荒げる水戸。河上は立ち止まるや首を水戸に向けて言い放つ。


「斬れば良かろう?背中から、お前の諸先輩の様に、あの時の様に」


 後ろから好きに斬ればよい。そう言い河上は歩き出す。


「最も……お前のチャンバラごっこの剣など目隠しに耳栓しようと避けられるがな?」


 煽る煽る、河上の言葉に水戸は……構えはすれど斬りかかる事は無かった。河上は、まだ席に座している女性達に目もくれず、ズカズカと出入り口へ行ってしまった。行くぞと呼ばれた神山と長谷部も、まるでプログラムに命ぜられた様に追従してしまうのだった。


 その背を見送る事しか出来なかった、水戸景勝は、構えた刀を降ろすと、刀は紫の光の粒になり消えた。


「クソが、クソっ、くそッ!何故、何故行かなかったんだ!俺は!」


 最早外へ立ち去った河上、何故向かって行かなかったんだと水戸は地団駄を踏んだ。何故などと口にするが、その答えは出てしまっている。その答えが頭に浮かばない様に、必死に声と地団駄を上げているに過ぎなかった。


「勝てる筈だ、勝てた筈なんだ、この力があれば……負けないはず……なのに!」


 周囲の闘士達も、一部始終を見ていた。後に河上はしばらく期間を空けて、この騒動が大ごとになって耳にするのだが……それを知った時彼は大笑いしたと言う。


 四聖が一人『剣聖』に並ぶ『剣術無双』水戸景勝が、TEAM PRIDEの河上静太郎に赤子の如くあしらわれたと。


 水戸景勝……展覧試合シードチームの一つ『ブルーラウンズ』のエースファイターである事を、河上静太郎はまだ知らない。




 中井真也の顔面に飛来する何か、それを防いだのは町田恭二の足であった。


「せいぃやっ!」


 気合一閃と共にサッカーボールを蹴る様に、光が町田の脛に阻まれた。光は霧散して消えて、オリヴィエの後ろを取ろうとした中井も、倒れながら取られそうになったオリヴィエも、互いに地面を転がり離れる。


「ちょっとアンタ!うちのオリヴィエに何してんのよ!!」


 キンキンと喧しい声が上がる光が向かって来た方角から、ドレスを着た3名の女性が、名書いて町田を睨み立っていた。


「オリヴィエさん、大丈夫ですか?」


「大丈夫よ、ありがとう愛花(まなか)ちゃん」


 深緑のドレスに眼鏡をかけた女性が、転がって来たオリヴィエの腕を取り立ち上がらせる。中井は息を切らせながら立ち上がり、睨みを外さない。


 町田は、周りの闘士が『ヴァルキュリア・クラン』と言う単語が出ていたのを先程聞いており、オリヴィエが所属するチームの他メンバーかと考えた。


「貴方達、TEAM PRIDEよね!冷酷残虐で卑怯千万チームの!うちのオリヴィエをどうする気だったのよ!」


「冷酷残虐、卑怯千万とは……」


 TEAM PRIDEがそんなイメージになっていたとは。町田は溜息を吐きたくなったが、未だ熱が冷めやらぬ中井が前に出て、それに答えを返した。


「ざけんなよこの××××(ピーー)女ども!お前のとこのその××××(ピーー)女が突っ掛かったのが始まりだろうが!」


「中井くん?」


 中井真也が吐き散らした言葉に、さしもの町田恭二も顔をしかめた。擁護できない、汚らしい言葉に町田は中井を睨み、それ以上はやめろと警告を込めて中井を呼んだ。


 無論、それを聞いたオリヴィエの仲間だろう3人は、ドン引きしつつも怒りが込み上げてくるわけで。黄色のドレスの女子が言い返した。


「こ、の……さいっていねあんた!意味分かって言ってんのちび猿!」


「黙れこの××××(ピーー)女!お前ら全員、この場で僕がぐしゃぐしゃにして、公衆便所に××××(ぴーー)してーー」


「そこまでだ阿呆!」


 中井真也の顎を、町田恭二の右拳が側面より射抜き、中井真也は一瞬で意識を手放した。目を白目に剥きながら、膝から崩れ落ちる中井に、肩を入れて支えて立ち上がる。


「うちのが済まなかったな、これで手打ちにしてもらえないか?」


 深々と頭を下げる町田と、一瞬の出来事に唖然とさせられるオリヴィエと仲間達。


「オリヴィエさんも済まなかった、うちのコイツはどうも気の短いやつでな、この通り」


「あ、いえ……分かりました」


 そしてオリヴィエには更にもう一度頭を下げてから、背を向けて中井を運び、中庭の会場をそのまま後にする……筈だった。


「久しぶりね町田恭二?」


 その中の1人が、町田を呼び止めた。呼び止められた町田は、再度彼女達に振り向いて、冷たく此方を見つめる深青のドレスを着た女性の眼差しに気付いた。


 しかし……町田は彼女の顔を見て、記憶に無い綺麗な人だなと思い言い放つ。


「申し訳ない、僕は君を知らないのだが……どちら様で?」


 そう言い放ち、彼女は一度信じられないと言いたげに驚いてから、その顔を一気に怒りに染め上げた。


「どちら、さま……そう、ああそう!貴方にとって私も、兄さんも所詮!有象無象だったわけね!」


 その声に町田は、臆する事は無かった。しかし……本当に、全く知らない女性の怒声には流石に慌てる。


「待て、待て!いや本当に知らんぞ!?君は誰だ!!兄さんがどうとかーー」


「薬師寺健一を忘れたのか!!大真塾空手の薬師寺健一を!!」


 その名前を聞いた瞬間、町田恭二の記憶が蘇った。


「薬師寺……健一……」


 反芻するかの様に、町田が名前を呟く、そして込み上げてくる吐き気を前に思わず手を覆った。しかし、無理矢理に飲み込み、息を震わせながら彼女に答えを返す。


「思い出したよ……大真塾空手道の薬師寺健一……僕が生涯唯一……没収試合にされた相手だ」


「そうよ……私は薬師寺彩芽……あの時、あの試合で貴方に壊されて死んだ、薬師寺健一の妹よ!」


 町田恭二はその話を聞いて、体を震わせた。


 そして思った。


 この世界は、まるで因果の集まる場所だなと。


 神山真奈都の過去の好敵手が、四聖の一人として君臨し。


 中井真也の過去の抗争相手が流れ着いて徒党を組んでいた。


 そして今……町田恭二の目の前に、兄の恨みを抱えた妹が現れた、


 河上にも……もしかしたら因縁を持つ相手がここに流れ着いているのかもしれない。


 町田は、意識を失った中井を近場の椅子を見つけて座らせて、改めて過去の因縁たる彼女に向き直った。そして言い放つ。


「それで、薬師寺さん……僕をどうするつもりだ」


 それを聞いた瞬間、怒りの琴線が切れた彼女は、地面を蹴り、テーブルを蹴り、高々と飛翔した。


「兄さんの仇!その命で償え町田恭二ぃぃいい!」


 効果と共に繰り出される飛び蹴りを前に、町田恭二は構える事なく。身体を横に向けて蹴りの射線から抜けた。


 着地したと同時に、周囲のテーブルから料理や、グラスが、クロスが吹き飛び庭の木々を揺らす風を吹かせる。


「避けるなぁ!」


 着地した次に右の裏拳が町田の左頬に放たれるが、右手の外受けがそれを阻む。痺れが右手に生じたが、町田は無言で彼女を見下ろした。


「くっそぉおお!」


 そして始まった、彼女の連繫。右の回し突き、左中段逆手突き、右下段回し蹴り、左上段蹴り……一発一発が、必殺を孕んだ強さの攻撃で間違いなかった。


 しかし……その一切を町田恭二は受けて、避けて回避して見せたのである。



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― 新着の感想 ―
[気になる点]  突然ですが、元の世界で超能力が使える人がこの世界に召喚された場合、やっぱり扱いは劣性になるんでしょうか?σ(^◇^;) [一言]  とりあえず。  この後全員(どさくさ紛れに部外者一…
[一言] 剣術無双があの程度なら四聖の剣聖も程度がしれるねえ。そりゃ最強闘士の抑止力にはならなかっただろうね。まあ、勝手に拉致されて戦わされていることに反発する気概が無い連中だからシダトなどという糞国…
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