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宣戦布告の腕十字固め

『さぁ皆さま、いかがお過ごしでしょうか?今年もやって参りました!展覧試合は本戦出場決定戦!!シダト王国首都ルテプは内地、闘士練兵場には今年も新たな召喚者を抱えたチームから、復活を願うチーム、予選勝ち抜いた8組から、ここを勝ち抜いた4組が前年ベスト4のシード権を持ったチームと本戦でぶつかり、優勝が争われます!あ!皆様申し遅れました、わたくし、展覧試合専属実況のフルタチと申します』


 TEAM PRIDEの面子が予選と同じ練兵場の控えスペースに来ると、ふと真鍮だが何か知らないが金属製の拡声器が取り付けられており、そこから放送が行われていた。


「実況まで居るのかよ、ちょっと燃えるな」


「それだけではないな、見ろ、石畳のリングまで建てられている」


 神山は拡声器を見つめてそう呟く神山に、ならば芝生だけだった練兵場を見てみろと指を差す。町田の言う通り、そこには一ヶ月前には無かった石畳と、四つの大きな柱が建てられていた。ギリシャ系の神殿みたいな柱を頂点に、正方形のリングができている。


「あれが本来の展覧試合正式闘技場よ、決勝では八角形になるわ」


「まるで地区大会から選抜戦にまで上がった気分だ、アマだと体育館とか柔道場にガムテの線とかザラだからな」


 マリスの説明を聞き、予選からの変わり様に神山は笑いを溢した。アマチュアキックの地区大会でリングが使われない場合は、体育館やらにガムテープを貼り付けた囲いで試合してたなと。


 しみじみと昔を思い出す神山を横に、中井が屈伸したり手をぶらつかせたり、準備運動で体を温めている。


「中井、目標は?」


「1分以内」


「気をつけなよ、相手魔法使いかもだし」


「なら、放つ前にポッキリだ」


 赤い上着に鼠色の長ズボンの道着、そしてオープンフィンガーグローブ。一昔前のまだルール統制があまり無かった総合格闘技を思わせる出立ちで、中井がいよいよ先陣を切る。




 対するは、貴族令嬢ミラが率いるムーラン・ルージュのベンチ。ミラは苛立ちを噛み締めながら顔を扇ぎ、リングへ向かう中井を睨みつけていた。


「タカミツ!容赦しなくていいわ、なぶり殺しにしてあげなさい!!」


「うす!」


 タカミツと呼ばれたスポーツ刈りの少年が、両手にはめたガントレットを打ち鳴らして立ち上がった。先程河上に制された二人のうち、一人である。小走りに向かうタカミツの背中を、壁に寄りかかり見つめているのは、先程マリスに襲いかかった、黒髪に双剣を携える闘士。


「ていうか、TEAM PRIDEってどんなチーム?知らないんだけど、分かる?遠山?」


 彼が話しかけたのは、先程の衝突にて神山に制された闘士だった。遠山と呼ばれた彼は、双剣の闘士に説明する。


「知らないのかよ、予選の時ざわついただろ……サーブルクロスに、シルバードラゴン倒した新興チーム、全員がスキルもクラスも無しの劣性召喚者……俄かに信じがたいけど」


 遠山の説明に双剣の闘士は鼻で笑い、口を開く。


「冗談だろ、どうせ隠してるんだ、話題性の為にさ、まぁでも……あの長髪の侍気取りとは楽しめそうかな?」


 クツクツと彼方の相手側のスペースの椅子に座している、日本刀を携えた男を見て剣士は笑う。


 ムーラン・ルージュの面々は予選でも遅い試合時間だった為か、TEAM PRIDEの戦いを見ていなかったのだ。


 だから、この反応は妥当であった。それこそ、今日初めてTEAM PRIDEを目にする闘士達が大半だっただろう。観覧席からは、いよいよ展覧試合の本戦出場決定戦、その第一試合、つまりはオープニングファイトを、中井真也が飾るわけだ。


「只今より!展覧試合本戦出場決定戦、第一試合を行います!」


 審判の声が響き渡る中、石畳のリングを前に中井真也は軽く飛び跳ねて、遂にそこへ踏み入れる。


「レッドステージ!ムーラン・ルージュ、タカミツ・キダ!ブルーステージ!TEAM PRIDE シンヤ・ナカイ!両者前へ!」


 中井と相対するは、ガントレットに軽装の、ファンタジーの中の『格闘家』を思わせる装いの少年だった。背丈は中井より数センチ高く、鉄鋲を打ちつけた手甲をこれ見よがしに打ち付けて見せつけている。


「ルールを確認する、目への攻撃、金的への攻撃以外は全て認められる……いいな?」


 中井は、タカミツという此度の相手がニヤついているのを見て、一つ決める。


 とりあえず……会場を沸かせてやるかと。




 ところ変わって、2階観覧席放送室。ガラスの窓から眼鏡をかけた男と中年の男が並び座っていた。


 


『さぁ!マママンさん!始まりましたよ、まず第一戦ですが!ムーラン・ルージュのタカミツ・キダ!タカミツ君と言えば、本戦出場経験ありの闘士の中でも実力者ですが!』


 眼鏡の男、名はフルタチ。この展覧試合において実況を務めている男であった。


『そうですねぇフルタチさん!まず、彼は上位クラスモンクとして、基本クラスの格闘家から覚醒してますからね、まず同等の上位クラス相手でないとキツいでしょう……スキルを見てみますと、見切りに、速度上昇……充分戦えるスキルを有してます!』


 中年の男はマママンと呼ばれ、解説を務めているのだが、此度の選手達の情報を記した羊皮紙を見て、少しばかり顔を顰めた。


『対するはTEAM PRIDE先鋒、シンヤ・ナカイ選手なのですが……えー、その、本当に劣性召喚者らしく、一切クラスもスキルも無いみたいです……しかし彼は現在、展覧試合歴代最速勝利記録を塗り替えた経歴がありますね』


『一体何をしたのか、ペテンか、はたまた我々の知らない何かを持つのか!今開始の鐘が響きます!』


 解説にも熱が入り、練兵場に開始の鐘が鳴り響く。そして、解説と実況2人が見たのは、瞬きすら許さないたった数秒の出来事だった。



 開始の鐘が鳴り響いた瞬間、最初に動いたのは喜田隆光であった。


「うぃりぃああ!」


 踏み込んで右のストレート、奇襲にしては中々のタイミング。右の手甲を装着した拳が中井の顔面に向かう。


 刹那、中井はそれを寸前で回避しながら喜田の胴へタックルにて組みつく。両腕がしっかり喜田の脇に差し込まれ、背中に手が周りクラッチされる。


「すぅっーー」


 喜田が聞いたのは中井の呼吸だった。それを聞いた瞬間、足が地面から引っこ抜かれ、喜田は体験した事無い動きに身を投げ出され、足が浮いた次の瞬間には背中が石畳に叩きつけられた。


「がはぁーーっ!」


 横隔膜が迫り上がる、呼吸ができない。指一本動かせない。そして触覚が、右腕に何かが巻きついた事に気付いた刹那。


「っしゃああああ!!」


 ーーボッグゥウウ!


 聴き慣れない音と共に、喜田の腕に激痛が走った。


「っお、ぁがぁあああぎぃいいぁあああ!?」


 絶叫が練兵場に響き渡る、喜田の肘が外れてダラリと垂れ下がる前腕から足と手を外して、中井真也はゆっくり立ち上がり、両腕を大きく広げて観客にアピールしたのだった。




『な、なんだぁああ!?何が起こったんだ!殴りかかったタカミツ選手が、投げられて、腕を挟まれてへし折られたぁあああ!?』


『こ、れは……何なんでしょう、分からないです、足で挟んで圧し潰したのでしょうか、ともかくこれは続行できないでしょう!』


 実況、解説の声が響く最中、中井は足元に蹲る相手であった喜田なる闘士を見下ろした。そして、周囲にて観覧している、この世界に流れ着いた闘士達を見て、大きく両腕を広げてアピールする。


 実況と解説2人には理解が及ばないだろう。この世界において『格闘技』は打撃系のみ、かつ優性召喚者のみが有する『スキル』により形成されている。


 だから、中井真也が如何にして喜田の腕を破壊したのか、説明のしようがなかったのだ。投げられたのは分かる、しかし肘を挟まれて破壊されたという的外れな見解だけが響き渡る。


 実際は違う、喜田の打撃に対してタックルのカウンターで接近した中井が、フロントスープレックスの反り投げで喜田を叩きつけ、素早く上を取りながら右腕に腕ひしぎ十字固めを敢行したという、一連の流れができていたのだ。


 審判が走り寄り、喜田を確認してから、腕を交差して試合終了を示し、中井に手を差し伸べた。


「し、勝者、シンヤ・ナカイ!」


 開始7秒満たずの秒殺劇に、会場はどよめいた。初めて、中井真也という闘士を見たものからすれば、夢としか思えぬその試合に、口が閉まらない。


 だが、それだけでは終わらなかった。


 中井は周囲を見渡してから、ニヤリと笑みを浮かべるや、右手人差し指を立てて観客席を示しながらゆっくりと回り出す。


 そして声高々に宣ったのだ。


「よお、よお!見たかよクソ雑魚ゆうせー召喚者共!スキル?クラス?無意味で無価値の無駄な物で、勝てると思ったか!!これがTEAM PRIDE!こ、れ、が!格闘技!これが中井真也だ!!クソ喰らえ!!」


 そして最後に人差し指を中指に変えて見せつけて……。


 会場は一気に怒気とブーイングに包まれた。


「なんだとコラぁあああ!!ふざけてんのかぁあああ!!」


「調子こいてんじゃねぇぞこらぁああ!」


「やってやんぞこらぁあああ!!」


 正しくそれは、宣戦布告だった。TEAM PRIDE進軍開始と言わんばかりのトラッシュトーク、ブーイングを受けて中井は自軍スペースへと戻り出す。


 本戦への切符と、マリスの財産を賭けた第一戦は、中井真也の秒殺劇を持って幕を開けた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字修正 中井に手を差し伸べした。 正 中井に手を差し伸べた。 うわーい中井君会場全体を煽りやがった。
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