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うつしみひとよ  作者: ロジーヌ
ゆき編(3)
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ゆきとユキのはなし ⑥

「いない……」

 吉定は膝をついた。

「いない? ゆきは死んだのか? というか吉定さん、先ほどからどなたと会話しておられるので……?」

 和尚にも、木の枝にいるユキは見えないらしい。

「死んだって言えばそうなのかねえ……」

 ユキは頭をぽりぽりと掻く。草太は枝を凝視していたが、はっとして、懐から紙を取り出した。空の動きを読むための星図である。

「ゆきの星が……」

「どうなっている?」

 吉定が聞くと草太は首を傾げる。

「いるようないないような……眠っているような起きているような」

「……なんだそれは」

 ユキは懐から護符を出し、鳥の式神を呼び出して遊び始めた。自分でも「おー」などと言い楽しそうである。

「……式神を使えるのか。ゆきみたいに?」

「そー、それ。どうやら俺はゆきの魂を吸収したみたいだな。式神やもののけの力を取り込んできたのはわかるんだけどさあ。ゆきはもののけじゃないだろ?」

 吉定はみつを見た。

「……もののけではない。だが巫女の血筋だ」

「なるほど、あの世とこの世の境を見られる者か。そして、陰陽師の弟子ときた」

 ユキはにやっと笑った。

「この羽織も霊力がある。おそらくこれがあるため、すぐには死ななかったんだろ。うん、着心地いいな、これ」

 ユキは羽織を翻した。吉定の腕のなかのゆきも羽織をはおっているが、ユキの羽織は霊体みたいなものだろう。


「長らく木札の中で眠っていた俺の耳に呪文が聞こえてきたんだ。ゆきの魂に憑依しろって呼び起こされたが、その魂はもう体から離れかかっててな。俺が以前吸収したらしい同じ巫女の血筋の気配に、逆に呼ばれたんだ。で、中身の量が増えたから猫の姿じゃ合わなくて、どうしようかとそいつの容姿を映したら、ぴったりだったってわけだ」

「篠目家のものは、木札にこめられているユキの魂を、猫のかたちに映して呼び出していたらしいが……」

 そうそう、とユキが補足する。

「ゆきは式神を使えるからな。俺が俺自身を使役してる感じ?」

 吉定が伝えるゆきの言葉に、複雑な表情をしているのは、みつだ。

「では……わしのまじないが……触媒ではなく離脱させたということか……」

 みつはがっくりしたが、ユキは冷静に説明する。

「いや、これがなければゆきの魂はどっか飛んでったかもしれねえから、良いんじゃねえの?」

 あとな、とユキは続ける。

「記憶は引き継いでるみたいだぞ。寺で過ごした子供時代とか、吉定と会ってからのこととか、和尚の秘蔵の、なんかちょっといやらしい本の隠し場所とか……」

 あまり人前では喋ってほしくない内容も含まれており、吉定と草太は顔を見合せた。どうやら草太もユキが見えるらしい。ユキの姿が見えずきょろきょろする和尚に、吉定はユキが喋る言葉を、耳打ちする。

「えっ」

 知られたくないことを言い当てられ動揺する和尚に、ユキは更に追い討ちをかけた。

「和尚やみつ……次郎に俺は見えてないけどな、草太にも俺は見えてるぞ、あと加津な」

 これも吉定が伝えると、和尚は「えええっ!」とさらに動揺し、膝をがっくりついた。

 加津は、じとっとした横目で、ユキ……ではなく和尚を見ている。


「それは……誰が見えて誰が見えないとか、あるのか?加津は今まで、もののけなど一切見たことないんだが……」

「うーん。篠目の式神だから、吉定の家族にだけ見えるってことか? 俺もわかんねーけど」

「なんだその適当な……」

 とにかく、ユキは篠目家以外のものには見えないらしい。しかしゆきの姿で、ゆきの記憶のある式神の存在は、和尚らにも嬉し涙を流させた。

「もとより私どもは、目に見えぬ仏様を信じる身。見えなくともゆきがいるなら、それだけで……」

「そーそー。固いこと考えてても仕方ねーんだよ、人生短いんだからさ」

「なんか……そういうとこはゆきだな……まさに」

 吉定はうんうん、と納得した。しかしその手のなかには、まだ、ゆきの肉体がいだかれている。

「このゆきは……ゆきの肉体は……」

「ああ、それはもう脱け殻だ……土葬だな」

「土葬……」

 一同は、そのあっけらかんとした言い方に何も言えないが、それはゆきの言葉らしい。

「煙に巻かれて熱かったから、土葬が良いんだとよ。山の墓地はもう足の踏み場がないだろうから、適当で良いらしい。羽織にくるんでくれたら、寒くもないから、だとよ」

 あ、ゆきの言い方だ……と吉定と和尚はしみじみする。

「ゆきは、もとから土地にこだわりがない子でしたからなあ……おそらく、あなた方の側にいられるなら、姿かたちや、場所はどうでもいいのでしょう」

 和尚の言葉に「そうらしい」と、ユキは頷いている。吉定が和尚に伝えると、その様子が見えないのはやはりさみしい、と苦笑いした。


「ゆき」

 加津が声をかけた。

「おかえり」

 それを聞き、ユキは笑顔でひらりと木から降りると、吉定と加津の前に舞い降り膝をついた。

「何百年も休んだのちに、まさか人の体を借りることになるとは思わなかったぜ。ともかく、せっかく復活したんだし、これからは二人分働くからよ。よろしくな」

 ユキは、にかっと笑った。こうして篠目家の式神、元化け猫のユキは、弟子のゆきの体を借りて、人の姿をした式神となった。


ゆきとユキの話はここまでです。次回からユキと吉定の話です。

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